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第147話 覚醒
『アサヒが目を覚ました』
ミナトの声にシズクとレンはハイタッチをした。シズクは涙ぐんで笑い、よし、と気合いを入れた。
「シズクはさぁ、なんでユウヒを守ろうと思ったの?」
「なんで…。うーん。ゆーひ、頑張ってるのに報われないとこあるなぁと思ったんです。見せ方が下手というか…」
シズクはクスクス笑って、学校でのユウヒのことを話し始めた。
ーーーー
ある夏の日の公園。小さな女の子が上級生に囲まれて殴られていた。シズクは関わらないようにと見て見ぬふりで通り過ぎようとした。
「お前ら!女の子1人に何人がかりだ!そんなの、弱い奴のやる事だ!」
(あーあ。言っちゃった。)
上級生が小さなユウヒの胸ぐらを掴み上げる。それでもユウヒは負けなかった。
「大丈夫?」
「うん、ありがとうお兄ちゃん。怪我は?」
「平気!君に怪我がないならそれで良し!」
気をつけて帰れよ、と笑って手を振った後、滑り台の隅に蹲った。
「ぅ、っ、…っ、くそぉ、っ痛ぇ…」
擦りむいた膝を抱えて悔し泣きするユウヒに、シズクは微笑んで絆創膏を渡した。
それからも、学校でユウヒの名前は悪名で有名になった。根は真面目なのに絡まれては逃げないユウヒだけが先生に捕まる。正義感が空回りしていてシズクも悔しかった。
(不器用なゆーひには僕が必要だ。)
一度、ユウヒと先生の間に入ると、嘘みたいに収束が早かった。ユウヒも驚いていたけど、ありがとうと笑う顔に、これでいいんだと実感した。
ーーーー
「ゆーひが輝くところをみたいんです」
「物好きだな…そんなことで命懸けれんのか?」
「レンさんも、僕と似たタイプだと思いますけど」
バチンと目があった。シズクは怒られるかもと身構えたが、綺麗な瞳は嬉しそうに細くなった。
「バレたか」
「バレバレです。」
和やかになって、モニターを見た。やっとサトルとユウヒが到着した。
「おし、サトル、ユウヒ。アイリの奪還だ」
『え!闘わないの!?』
「アイリ優先!任務の趣旨を間違えるな。ユウヒはアイリを守ることだけ考えろ。」
『はい!』
サトルはユウヒの護衛をしながらアイリのところへ向かう。アイリはこちらに気づき、ミナトに合図した。
「良かった。アイリをお願い」
「ミナトさんも!」
「ううん。僕は見ていたい。1秒でも長く、この闘いを」
「でも…」
「行くぞ」
ユウヒはアイリの手を引いて、車で待機し、サトルは現場で離脱者を確認した。
「サトル!弘樹を頼む!」
「御意」
ハルが意識のない弘樹を庇いながら闘っていた。リョウタもアサヒもサキも余裕はない。ハルは動揺を隠しながらサトルに頭を下げた。
頭から血を流している弘樹が危険だと判断して、急いで車に戻る。アイリに処置をお願いし、サトルは車を出した。
「ヒロ!ヒロ!」
「お兄ちゃん、揺らさないで」
「頼む!ヒロ!頑張れ!!」
必死に声をかけて、弘樹の手を握るユウヒ。激しく取り乱すユウヒにアイリは大丈夫だから、と叫ぶ。
「また…俺は…何もできないっ…!」
歯を食いしばって泣くユウヒに、アイリもサトルも何も言えなかった。
「お兄…ちゃん?」
「停めて。サトル兄ちゃん」
「ユウヒ?」
サトルが急ブレーキを踏み、後ろを見た。
「ぶっ殺してやる」
一瞬見えたユウヒの瞳は、うちのボスのように真っ赤に染まっていた。
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