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第148話 強い想い

『バカか!行かせたのか!?』  「あぁ。」  『何勝手に判断してんだ!ユウヒが』  「お前があの目を見ても、行かせると思う」  サトルは冷や汗をかきながらアジトに向かった。ユウヒは途中で降りて、戻ってしまった。  (アサヒさんと、同じだった) ドクドクと早まる心音をアイリに悟られないように平常心を装った。  (ユウヒ、無茶するなよ)  ーーーー  ドカンッ  「痛ぇー…っ」  リョウタは吹き飛んで瓦礫を退かし、ゆっくり立ち上がった。1人相手にまるで歯が立たない。 アサヒは負傷していて、リツも両腕が使えないのか蹴りばかり、ハルは弘樹を庇っていたせいで骨折しているようだ。  (くっそ!頭がクラクラする)  パァン!  サキの弾がテンカを掠め、テンカの目がサキを捉えた。  「まずはお前からだ」  猛スピードで向かうテンカに体が追いつかない。 パタタタタ… 血が落ちる。アサヒが庇ったかと思ったが、そこにはシンヤ。  「シンヤ…」  「シンヤさん…」  アサヒとリツが同時にシンヤを呼ぶ。口から大量の血を吐き出して、テンカの腕を掴む。  「親父、やっと捕まえた」  「この出来損ないが。」  「ずっとずっと出来損ないだった僕が、今更いい子になんてなれないんだよ。」  「アサヒを戻すためにお前がいたのだ。もうお前らに用はない」  「こちらこそ。」  シンヤは笑ってテンカの腕を掴んだままだ。  「動け!!」  アサヒの言葉に全員がハッとしてテンカに向かう。サキも銃に弾を込めた。  「なぜお前が…?」  突然、テンカが目を見開いた。シンヤの後ろを見ながら驚いている。シンヤはきょとんとして首を傾げた。  「何が?」  「執念深い奴め!!」  テンカは発狂したように騒ぎ、サキの銃を奪い、誰もいない方へ連射した。  「「「??」」」  唖然とする中、小さな影がテンカの背中に立った。  「ぅおおおおおぉおーーッ!!」  ザクッ  ザクザクッ  リョウタの固まった思考が動いた頃には、アサヒがユウヒを押さえつけ、カランカランとナイフが落ちた。シンヤの手から、大きな身体がずり落ち、初めてテンカの顔が床についた。  「お前の呪いか…マヒル。お前がこの巨大な組織を潰したのか…」  テンカはどこを見ているか分からない目で、呟いた。アサヒはそれを聞いて涙を流した。  「マヒル!いるのか!?もう終わった!終わったんだ!だから…もう楽になってくれ!アイラがお前を探してる!お前と幸せになるって探してるんだ!」  ユウヒを抱きしめながらアサヒは叫んだ。ミナトもリツも、サキも涙を流している。  「俺も、ミナトも、ユウヒも…シンヤももう大丈夫だ!」  「マヒル姉ちゃん?」  「ユウヒ…ほら、マヒルにバイバイしな?」  ユウヒがゆっくり起き上がると、ユウヒは目を輝かせた。  「マヒル姉ちゃん!!」  「っ!」  誰もいないところへ嬉しそうに手を伸ばすユウヒ。リョウタはそれを凝視し続けた。  『あんた…いつからこんなにかっこよくなったの?』  「えっへへ!」  『父さんを守ってあげてね?ああ見えて繊細だから』  「分かった!」  (見えた…女の人…優しくて綺麗な人)  『じゃあね、ユウヒ』  「うん!またね!」  『もう…またね、じゃないよ。バイバイ』  「…うん。バイバイ。マヒル姉ちゃん、大好きだよ」  綺麗な女の人が驚いたような顔をした後に、笑った。  ユウヒは手を振った後に、バタンとアサヒに倒れた。  「ユウヒ!」  リョウタが駆けつけるとアサヒは呆れたように笑った。  「大丈夫、寝てるだけだ。疲れたんだろうな」  アサヒは愛おしそうに笑ってユウヒの頭を撫でた。 「まさかこいつが決めるとか…ビビったわ」  「そんなことよりアサヒさん、手当て!…痛…ッ」  「ハルもヤバそうだろ。座ってろ」  アサヒは隣をポンポンと叩いた。ミナトがアサヒに抱きついて子どもみたいに泣いた。  リョウタはサキにもたれて、ゆっくり目を閉じた。  ザリッ 「兄さん」  「あ?…今争う気はねぇよ。お前も闇医者行け。内臓ぐちゃぐちゃだろ」  シンヤはゆっくりとアサヒに近づいてきた。 「新しい組織を、兄さんに任せてもいい?」  「…お前は?」 「僕はりっちゃんとここを出たい」  「そうか」  「僕はね、大きな組織なんかいらない。初めて大切なものができたから。」  シンヤは腕で血を拭って、リツの手を取った。  「平穏…って望んだ事ないけど、今はただゆっくりしたい。なんでもない普通を過ごしたい」  リツはシンヤの手を握って、花が咲いたように笑った。  「兄さんの気持ち、やっとわかったよ」  「おう、それなら良し。達者でな。」  アサヒはシンヤに挨拶をして、リツもそのまま見逃した。  「サキ、俺も進むね。」  「うん、お幸せに」  ぼろぼろの2人は現場から去っていった。  長い長い1日が終わった。  「帰ろう。みんなが待ってる」  アサヒの言葉に全員が頷いた。

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