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第152話 力の役割
弘樹だけが眠り続けて3日。
ユウヒは弘樹の頬をするりと撫でた。柔らかくて、だんだん顔色が戻ってきたように思う。カズキはそろそろ起きても良い頃なのにと心配そうだ。
少しだけ動かしたりしてあげて、いろんな管を間違えて取らないように慎重に戻す。
「ヒロ、そろそろ起きろよ」
声をかけてみてもそのままだ。
音を失った時みたいで怖くなる。ハルも平静を装っているが、毎晩ここで悔し涙を流しているのも知っている。
弘樹の姿が、ユウヒのスイッチを入れた。そこからは妙に静かで、目的一つしか考えられなかった。ターゲットだけが色付いていて、周りは情報として頭に入っていなかった。
(あの感触が…怖い)
自分でコントロールしたわけではない。桜井家の血筋を初めて恐怖に感じた。きっと、これをコントロールすれば、誰にでも勝てるかもしれない。突然手にした力が恐ろしくて持て余す。
「ユウヒ」
突然のハルの声にビクッと肩を揺らして振り返る。
「いつまでそうしてるんだ?もう寝ろ」
時計は深夜2時。
ハルの懺悔の時間。
ユウヒはゆっくり席を立って弘樹の顔を見た。
(あれ…?なんだか…)
「ヒロ?…ヒロ!!」
「どうした?」
ハルが松葉杖で近づいてくる。弘樹の眉間が少し寄る。
「ヒロ!」
「弘樹!」
2人で何度も何度も名前を呼ぶ。なんだか苦しそうに見えて、カズキを呼ぼうと振り返ると、ハルがそれを止めた。
「大丈夫だ。なにもエラーになってない。」
「でも!」
「闘ってる!ここに戻ってこようと。とにかく名前を呼べ」
指がピクンと動く。眉間の皺は深くなり、胸が大きく息を吸い込む。
「は…っ、はぁ、はぁ、はぁ」
「ヒロ!」「弘樹!」
パチリと目を開けた弘樹は視線を巡らせた後、瞳が潤む。
「ぅう…っ、うわぁあああん!」
大声で泣き出して驚きて手を握った。ハルは師匠にそっくりだと笑いながら涙を拭った。
「組長ぉおお!ごめんなさいぃいい!」
「いいから」
鼻水まで流してすぐハルのことでいっぱいな弘樹にムカついて、手をギリギリと握った。
「痛いぃぃい」
「こらユウヒ!」
普通に怒られて、ユウヒは唇を尖らせてパッと手を離した。
(俺だって心配したのに…)
「俺のせいで…足、大丈夫ですか!?」
「だから大丈夫だって」
「…?」
ユウヒは首を傾げた。
ハルは困ったように、頭をかいた。
「俺が一瞬意識飛ばしてる間に庇ってくれて…。意識が戻ったら変な方向に曲がってた…っ!」
「…いいよ。でもその後激昂して向かったな?死にに行くのと同じだバカ。それだけは許さん」
「ごめんなさいぃ!」
弘樹の記憶はそこまでみたいだ。ハルは、弘樹を庇いながら闘ったことは一切話さなかったから、ユウヒも黙っていた。
「今回は、ユウヒがテンカを討伐!かっこよかったぞー!」
「え!?ユウヒが!」
弘樹がキラキラした目でこちらを見た。
(わぁ…!こんな笑顔見られるんだ)
恐怖だった自分の力で、好きな人の笑顔が見られるなら、と自信に繋がった。
「ユウヒすごいね!俺、見たかった!」
久しぶりの弘樹の笑顔がたまらなくて抱きしめる。ハルはお邪魔しました、と部屋を出た。
「ん…ユウヒ…、っ」
「ヒロ、おかえり、ヒロ」
柔らかい唇は温かくて、涙の味がした。
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