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第154話 小さな恋心

リョウタがリビングに行くと、全員分のパンが置かれていた。  「あれ?ハルさんは?」  「熱出してるらしいよ」  ユウヒは少し残念そうにパンを齧り始めた。リョウタも席についてパンを取り、ユウヒを眺めた。  「何だよ。食べにくいだろ」  「ん〜。やっぱりあの時のユウヒと違う」 「そう…?俺さ、どうだった?」  「ゾクゾクした!」  アサヒさんみたいで、と勢いよく感想を話すと、ユウヒは顔を真っ赤にして、もうやめてと言って顔を隠した。  「何で?かっこよかったよ?」  「リョウタ、頭クラクラしてて勘違いしてんじゃねーの」  「サキもアサヒさんみたいでビックリしたって言ってたよ?」  ユウヒはリョウタの口を塞いだ。  「分かった!もう分かったから!」  「何恥ずかしがってんの?照れ屋さん」  リョウタは気にせずにパンを食べた。ユウヒは机に顔を伏せて、こちらを見た。  「怖くなかったなら、それでいい」  「???」  「俺が役に立てなら、それでいいんだ」  「……」  「初めて、役に立てた。嬉しいに決まってんだろ」  ユウヒは反対側を向いたが、耳も首も真っ赤だった。  「ユウヒ!かーわいー!!」  「やーめーろー!」  きゃっきゃと騒いでいると、人の気配がして振り返る。  「ユウヒ…」  「ゆーひ。ヒロさんずっと見てたのにイチャついて…」  ため息を吐くシズクと、嫉妬で涙目になる弘樹にユウヒは慌て始めた。リョウタがケタケタ笑うとユウヒに八つ当たりされて、パンを丸呑みして逃げた。  (あー賑やかな日々だ!)  「コラ!逃すか!」  「ゆーひ、まずはヒロさんでしょ」  「あっ!えっと、ヒロ!ごめん!」  シズクは呆れて見ている。大人っぽいのにユウヒと同級生だなんて不思議だった。弘樹もシズクに慣れて、今や2人の方が仲良く見える。きっとシズクはよく人を見ているのだ。  でも、例外があった。  「シズク君!お兄ちゃんばっかり責めないでよ!」  「責めてない。事実でしょ?現にヒロさんは傷ついたわけだし。」  何故かアイリがシズクに噛み付くのだ。シズクは正論しか言わない。そこに噛み付くとすれば少し理不尽なアイリが珍しい。  「あっはは!また始まった!」  弘樹は拗ねていたことを忘れたのかケタケタ笑っている。ユウヒも困ったようにそれを見る光景が日常化していた。  「ていうか、もう任務もないのにどうして毎日いるの?」  「あれ?論点が変わったね?さっきの話は?」  シズクも意地悪でニヤつきながらアイリを突く。珍しくギャーギャー騒ぐアイリを見ながら、リョウタは女の子だなぁとつくづく思った。  レンが言っていた言葉を思い出す。  『アイリはシズクを物凄く意識してる。今までは、お兄ちゃんとしての好きはいっぱいあっただろうけどね。本人もどうしたらいいか分かんないんだろうな』  シズクが来ない日はユウヒに聞いているし、来たら来たで悪態をつく。  「アイリは可愛いね」  「え?どこがですか?」  「何よ!最低ー!」  ポカポカシズクを叩くアイリを、リョウタと弘樹は微笑ましく見ていた。 「あーもう。うっせぇな…。何でこんな合わないんだよ」  ユウヒは全く気付いていなくて、それにまた爆笑していた。  (アイリ、頑張れ!)  シズクの大きな手がアイリの頭をぐしゃぐしゃに撫でる。セットが崩れると怒るアイリだが、顔が真っ赤で嬉しそうだった。  毎日綺麗に髪をセットしているがシズクの来ない日は少しラフだ。そんな日にユウヒがシズクを連れてくると部屋から出てこないそうだ。  ボサボサになった髪型を直すために、ゴムを解くと、シズクはニコリと笑った。  「本当髪は綺麗だよね。触りたくなる」  「う…あ、あ、あ…」  言葉が出なくなったアイリは、口をパクパクと動かした後、顔を真っ赤にしてダッシュで逃げていった。首を傾げるユウヒとシズク、そして悶えるリョウタと弘樹だった。 

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