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第155話 2人きりの時間

「アサヒ元気出しなよ」  アサヒは超絶落ち込んでいた。新しい組織だとかシマの整備だとか、病み上がりに激務に追われたアサヒを待っていたのは愛娘からの「一緒に寝ない」発言だった。トドメを刺されてアサヒは屍のようにミナトの部屋の隅っこで座り込んだ。  「ミナト…俺、かっこ悪かったよな…だからきっとアイリは愛想つかせたんだ…俺が弱かったからだ」  ぶつぶつと泣き言を言うと、ミナトは心底ウザそうな顔をした。  「ひどい!もうお前らのこと信じられない!支えてくれてもいいだろぉー!?俺頑張ってるのにーっ!」  ミナトに飛びついてグリグリと頭を擦り付ける。うざそうにしていたミナトは、ふふっと笑って抱きしめてくれた。  「アイリも成長したんだよ。見守ってあげよ?」  「嫌だ。ずっと一緒にいたい」  「子離れしなさい」  「いやだぁあああ」  駄々を捏ねているとミナトから短いキスをされてキョトンとした。  「はい。お父さんしっかり。」  「ミナト、今…」  「もう2人ともお年頃だから…希望するならそれぞれ1人部屋でもいいんじゃない?」  「うー…」  アサヒは甘えながら少し考え、ミナトを見た。  「なぁ。俺、お前と寝ていい?」  「へ?」  「2人でってあんまないよな…初めてか?」  いつも体を重ねた後はユウヒとアイリのところへ戻っていた。風邪を引いた時とか仕方ないときはミナトの部屋に行ったが、ソファーで寝ていた。  何も言わないミナトに不安になるが、もう一度聞く。  「嫌か?」  「嫌なわけ…ない」  ミナトは顔を真っ赤にして目を逸らした。  「ずっと、言えなかった」  「へ?」  「朝まで、一緒に寝て欲しい」  「っ!!?」  恥ずかしそうに、でも、嬉しそうに笑う顔にたまらず体が動いた。薄く柔らかい唇を奪ってソファーに押し倒す。  「アサ…んっ!…っふ、ぅ…っ、ん」  「あぁ、一緒に寝よ」  緩い上衣を脱がせて真っ白な肌にたくさんの痕をつける。いつも以上に敏感な身体に興奮して、小さな乳首を吸い上げると頭をキュッと掴んで甘い声をあげる。歯を立てれば腰が浮き、顔を見れば見惚れてしまうほど美しい。  (ミナト、俺の、ミナト)  気持ち良すぎると泣いてしまうところも、それなのに強い快感がないと不安になるところも、必死にしがみついて全身で愛を伝えてくれるところも、魅力的すぎて今更手放せない。 あの日出会った時から、ミナトが欲しかった。本能で、直感で、いつの間にか腕に抱いていた。 「ミナト…ッ、ミナト」  「うん…ッ、僕は…、ずっと、アサヒのそばに…いる…ッ」  ミナトはアサヒの身体の傷痕に舌を這わせた。愛おしそうな顔に、アサヒも余裕がなくなっていく。  「ミナトッ、も、それ…やめろ」  「嫌。アサヒが頑張った証だもん」  ゾクゾクして、ミナトの顔を両手で持ち上げると、パチンと目が合う。  「っ!」  「っ!」  2人して固まって、顔を真っ赤にした。  「な、なんか…照れるな」  「なんでアサヒまで照れるの」  「分かんねぇ。好きすぎるからじゃねーの」  ミナトを起き上がらせて、アサヒの上に乗せた。  「アァ…ッ!これ…苦手ッ…アァッ!」  「は…ぁ?…じゃあなんだよ、この締め付けは」 「んぅ…ッ、は、ッ、待って、ッ、」 「待てるわけないだろ」  ミナトの腰を落とすと、空を仰いだ。パサリと揺れた髪がまた綺麗できつく抱きしめた。  「アッ…ッ…ッ…ッ」  「ミナト…ッ」  同時に絶頂を迎えて、ミナトをそっと横にした。  「風呂…」  「やだ。まだそばにいて」  火照った顔のミナトが可愛くて、ミナトの身体をタオルで拭いた。  「アサヒ?」  「んー?」  「いてくれるの?」  「おう」  たったそれだけのことで、ミナトは嬉しそうに抱きついてきた。  「アサヒ…どうしよ、僕…浮かれてるかも」  「思いっきり浮かれろよ」  ふふふ、と嬉しそうに顔を擦り付けてくる。やりたいようにさせながら、アサヒは部屋割りに頭を悩ませた。  (サトルとハルに頼んでみるか。あ、リョウタはもと作業員だから…)  考えごとをしていると、ミナトが拗ねていることに気がついた。  「今は、僕だけのこと考えてよ」  「っ!?」  「…あ、やっぱり今のなし」  「はぁーー!?お前!何今の!可愛すぎるだろーが!」  「可愛くないし。眼科いけば」  「いいし。目、いいし。」  まだ拗ねてるミナトを抱きしめると、満足したのか大人しく収まっている。また傷痕を指がなぞってゾクゾクする。  「良かった。生きてて」  「おう」  「僕も、一緒にいかなきゃって焦った」  「お前を置いていかねーよ」  頭を撫でると気持ち良さそうに欠伸をした後、長いまつ毛が瞳を隠した。  (やっぱりミナトが現場に出たのはそういうことか。)  『独りにしないで』  ミナトが1番恐れていることだ。  「ジジイになっても独りにしねーよ」  アサヒは寝顔にキスをして、薄い毛布をかけた。  (…今日から寝てもいいよな?)  アサヒも一緒に毛布にくるまり、目を閉じた。 

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