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第158話 手
(サトルさんは俺に優しい)
弘樹はじっとサトルを見上げると、何だ?と無表情で問われる。でも、声は優しくて、他のメンバーとは違う。
(可愛がって…もらえてるかも…)
無表情で寡黙で淡々としているが、何かと気にかけてくれる。レンの弟子だからかと思っていたが、それにしても優しい。
(サトルさんの隣…安心する。組長やユウヒとは違う…。いてもいいんだな、って思わせてくれる。)
ハルには生存的安心、ユウヒには恋愛的安心、サトルには…
(精神的安心)
飾らなくても許されるわけではない。礼儀をもって隣に立てる。
「良いことがあったのか」
「え?」
「嬉しそうだな。」
優しい声の後に、大きくて温かい手が頭を撫でてくれる。
(あぁ…落ち着く。)
パシンッ!
「セークーハーラー!」
「はぁ?」
「なんだよ!このロリコン!ショタコン!」
(まーた始まった…)
弘樹の癒しを一瞬で掻っ攫う師匠。子どものように嫉妬したり拗ねたりする。なのに、任務や修行中では別人みたいにかっこいい。
「ヒロ!お前はペット的に好かれてるだけだ!分かるか!?犬だ犬!ワンチャンだ!」
「犬…か。確かにな」
「同意すんなーーっ!」
こうなったレンは止められない。サトルがレンにしっかり向き合うまで癇癪を起こし続ける。終いにはたまに、泣く。
(師匠は可愛いなぁ。)
綺麗だから許されてるところがあると思う。でも、あの無表情のサトルが唯一表情が緩む人物。今も愛おしそうにレンを見て微笑む。あの大きくて温かい手の在りかみたいに収まる場所。
「っ!」
そして、勝ち誇ったレンの顔。
「あっはは!」
(可愛いすぎるよ師匠!)
思わず笑って、弘樹はレンに抱きついた。レンも楽しそうに笑って、弘樹を受け止めた。
「サトル!」
「サトルさん!」
2人でサトルに飛びかかると、驚いた顔をした後、満開の笑みを初めて見た。
「お前ら…加減しろ。2人は無理だ」
「あっははは!いってぇー!」
「全く…」
サトルは尻餅をついたレンと弘樹に呆れて両手を出した。
「ほら、これなら2人でも大丈夫だ。」
レンと弘樹は目を合わせて、クスクス笑い、サトルの手を取った。
手を繋いで帰ってきた3人は、みんなに爆笑されたけど、弘樹は嬉しくてたまらなかった。
「おい!ヒロ!」
怒ったように手を引くユウヒの勢いで、サトルとの手が離れた。ユウヒについて行きながら、サトルよりは小さな手が何故か頼もしくて握り返す。
「ヒロ!お前は、俺の手だけ握ってれば良いんだよ!」
プンプン怒っているユウヒにも、可愛いなぁと笑って、ユウヒの新しい部屋に2人で入った。
(嫉妬したユウヒ…。今夜は長くなるね)
弘樹は苦笑いしてユウヒを抱きしめた。
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