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第159話 初めての総会

桜井テンカを討伐して1年が過ぎた。この1年間は様々な組からの奇襲を制圧する日々が続いていた。絶対的に君臨していたテンカの死は、他の組に火をつけた形になった。もちろん、アサヒをよく思わないところが殆どで、今まで以上に命の危機があった。ユウヒとアイリは学校どころじゃなくなり、レンが見つけてきた家庭教師や、シズクから勉強を習った。  リョウタはアサヒとユウヒが外に出る時のボディーガードとしてそばに着いた。そして移動先には離れたところからサキが見てくれている。  そして、今日は1番気を張る日。  『総会』  桜井アサヒが統べることを公表する日。大荒れが予想されるが、アサヒは落ち着いている様子だった。  「リョウタ、緊張しすぎ。」  「だって…!」  ボディーガードには見えないほど、そわそわしては何度深呼吸をした。 「やっぱり…サトルさんが隣にいた方が、なんか…良くないですか?俺なんかじゃなめられちゃう」  「あ?なめさせねぇよ。お前の力を見せればいいだけだ。まぁ…サキもいるし。」  アサヒは大きな椅子に座って足を組み、怠そうに頬杖をついた。  『アサヒさん、門を開けます』  「あぁ。頼む」  サトルの声にリョウタはビクッと肩を跳ねさせ、アサヒのそばに立った。  「リョウタ、大丈夫だ。」  「はい!」  それでも緊張が取れないままでいると、腰に物凄い衝撃が走って倒れ込んだ。  「おい!しっかりしろよ!父さんが弱く見えるだろ!」  「ユ、ユウヒ…蹴るなんてひどいよ!」  「ゆーひ、謝りなさい。」  「チッ!」  1年前よりも背が伸びたユウヒは立派なスーツを着こなしてサイドの前髪を少し上げ、大人っぽい。その姿のまま、同じくスーツが様になるシズクがユウヒの頬を横に伸ばして注意していた。  いつも通りの2人に安心して、リョウタはアサヒの横にそっと寄り添った。  「さぁ、お出ましだ。」  アサヒが目を閉じて笑うと、障子が飛んできた。桜井テンカを慕っていた若頭、東野トキノリだ。リョウタよりも1つ上という若さで、年上の部下たちを仕切っている。  「俺ァ認めねーよ!テンカさんの息子だか知らねーが!!真似事してんじゃねぇーよ」  ずんずん向かってくるトキノリの前にリョウタは立つ。トキノリの意志の強い大きな瞳は、テンカを失った悲しみも見えた。  「どけよ!クソガキ」  「アサヒさんに触らないでください。喚くならそこからお願いします。十分聞こえるので」  「あぁ!?」  「もう一度言いますか?」  リョウタはニコリと笑ってそう言うと、トキノリの拳が動いたのを見た。  パシン  「ッ!?」  「落ち着いてください、トキノリさん。俺、緊張してて…うっかり骨折っちゃうかもしれませんから。」  加減できないかも、と掴んだ腕に力を入れると、顔面蒼白で後ろに下がった。  「アサヒさんは貴方に期待しています。だから呼ばれたんです。貴方は選ばれた。おめでとうございます。」  リョウタが笑うと、トキノリはガタガタ震えながら頭を下げた。  アサヒは微笑んでその様子を見ていた。集められた組は10組のみ。どれも若頭だけ。アサヒが集め、他の団体や組織は全てアサヒ自ら壊滅させた。  暴れた者を抑えて、総会が始められた。  アサヒの言葉に、涙する者、強い光を持つ者など様々だった。新しい、憧れとしての存在に代わった。 事実上の傘下となった10組は、来た時と帰りではまるで態度が変わっていた。役立てば組のランクが上がる、報酬が上がる、それを聞いて奮い立つ若頭たち。アサヒの人を育てるカリスマ性、選ばれたという自信から、ギラギラしていた。  『桜井アサヒのNo.2になってやる。』  若頭たちの目指す場所がそこになった。全員のライバルは息子のユウヒだ。  「上等。かかってこい」  ユウヒの挑発に指揮がさらに上がる。組織が大きくなる瞬間に立ち会えたリョウタはゾクゾクと震えた。  (何これ…すごい…っ!)  無事に総会を終えて、全員が豪邸に泊まることになった。 ハルが何日も仕込みをして作った豪華な料理を食べ、談笑し、弘樹も任務から帰ってきてドンちゃん騒ぎになった。  気疲れしたユウヒはシズクにもたれ掛かってウトウトし、シズクが弘樹にユウヒを預けた。弘樹はレンみたいに気品が出てきて、驚くほど綺麗になった。ユウヒを抱き上げると、みんなに挨拶をして部屋に戻った。  「シズク!」  空いたシズクの隣に、ウイとユイのそばにいたアイリがすぐに座った。真っ赤な着物を着て、綺麗な髪を結いあげている。アイリは嬉しそうにシズクにゆっくりとお茶を淹れた。  「僕に接待して意味あるの?」  「うん。ある。」  「へぇ、そう。」 アイリはシズクへ積極的になった。シズクは気付いていてそのままにしていた。ウイとユイが遠くで応援しているのが面白くて、微笑ましかった。  「あ、あれ?アサヒさんは?」  「1番気疲れしただろうからな。さっきミナトさんが連れて行った。」  サキが答えてくれて、リョウタの頭を撫でた。  「今日かっこよかったぞ。アサヒさんの側近お疲れ」  優しい笑顔に、サキに甘えたくなってコテンと頭を預けると、ぎゅっと抱き寄せられた。  サキもひと回り大きくなった。レンに憧れているのか、香水や持ち物はレンのお下がりが多かった。良い匂いを嗅ぎながらグリグリと顔をサキのシャツに押し付けた。  「サキ、リョウタ連れてけ。相当疲れてるだろうから。」  ハルに言われて、体が浮いた。 「おやすみなさい」  「「「おやすみーー」」」  みんなの声を聞きながら、ゆっくりした振動が気持ちよくて目を閉じた。 

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