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第161話 初恋みたいな日々

「疲れた…とっても…疲れた」  先ほどからアサヒはそれしか言わない。ミナトはアサヒの髪を乾かしてあげて、アサヒのおでこにキスをした。  「やっべぇな…歳かな…」  ぐでんとミナトに寄りかかって目を閉じた。  少しやつれた頬。長いまつ毛がよりクマを濃く見せた。  この1年走り続けた。会社員を続けている余裕もなく、次から次へと問題が起こって処理に必死だった。  お陰様でレン、弘樹、シズクはミナト並の判断力を得られた。今はレンがメインで指揮を取って貰っている。 「お疲れさま。かっこよかったよ」  「そーかい。…まぁ、お前がそう言ってくれるならやった甲斐があるってもんだ。」  目を閉じたまま、ミナトの膝に頭を乗せた。  「お前が待ってるから、耐えられたよ。ありがとうな。」  「ううん。」  「ミナト、幸せ?」  「幸せだよ」  素直に答えると、アサヒはパチっと目を開いた後、子どもみたいに笑った。  「俺も!」  (そんな幸せそうに笑うなんて…本当眩しすぎるよ)  アサヒはミナトの手を握って寝息をたてた。 ミナトの今の仕事は、ボスの癒しだ。ピリピリしていたアサヒは、一時壊れそうになっていた。レンの提案で、ミナトはひたすらアサヒの為だけに時間を使うようになった。全てがアサヒ優先。ミナトにとっては夢のような日々が始まったのだ。  疲れたアサヒも、ご機嫌なアサヒも、1番にそばに来て目を見て話してくれる。 (あぁもう…。毎日ドキドキしてバカみたい)  こればかりはコントロールができない。何度も何度も、毎日毎日、アサヒに見惚れて、好きになる。  (責任とってくれてるし…こんな幸せでいいのかな)  そばにいるのが当たり前になって、失うのが怖い日もあった。でも、帰ってくるって分かってからは、落ちることもなくなった。ただひたすらに、愛しい人を待つ、初恋みたいな日々。  誰が想像するだろう。若くして広いシマを牛耳って、恐れられるこの人が、こんな幼い寝顔で寝ることを。頼りないこの細い指を強い力で握る、繊細なところも。  (どこにも行かないよ。アサヒのそばが僕の居場所だから。)  握り返せば少し口元が開いた。  その唇にそっと口付けた。 

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