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第162話 大人と子ども
サキはリョウタを寝かせて、まだ眠くないからと、また大部屋に戻った。
大部屋にはウイとユイが物凄くリラックスしていて、サキは着物から見える胸元や真っ白な脚に顔を赤らめた。
「あ、ごめーん。」
ユイはニヤリと笑って脚を閉じたが、妖艶な表情に変わり、近づいて来た。ウイは後ろで呆れたようにため息を吐くが助けてはくれない。
「あ、あの、えっと、アイリは?」
「ん?シズク君と、夜の、お散歩」
色気のある声が耳を震わす。良い匂いと小さな輪郭。
(ど、どうしたらいいんだ!)
サキは表情には出ないが、内心大パニックだった。抵抗しようにも、触ってしまったらと考えると何もできなかった。
「うっははははは!ユイ!いじめんなよ!」
サキはハッと後ろを振り返ると、大爆笑して崩れ落ちたレンを見て、ギリッと睨む。
「それはお前だろ。ユイも悪ノリするな」
サトルが呆れてレンの頭を叩く。それでもレンは笑っていた。これは、レンの指示だったようだ。
「お前戻ってくるとはなぁ〜今から俺のチームの打ち上げなんだよ。部屋戻れよ」
「仲間はずれですか?」
「ちげーよ。打ち上げという名の情報共有。ヒロが海外行ってたからな。ユウヒが我慢できるわけねーから、先に聞いといたの。」
レンは疲れたように頭をかいた。
「海外は嫌だねぇ。眠れねえ」
「時差あるからな。」
レンは大欠伸をした後にサキに気にせず話し始めた。
海外の政治家が絡む大スキャンダル。それを証明したのが弘樹の働きだった。ネタはシンヤからだったが、大仕事になる予感がした。
(弘樹…いつの間にこんな任務…)
「んで、この件は俺たちは手を引く」
「え!?」
驚きの判断に思わず声を上げた。ウイとユイは、サキを不思議そうに見る。
「せっかくの大仕事…」
「バーカ。大国と一組織がドンパチやってみろ。瞬殺されるわ。軍レベルは手を引く。アサヒさんは仲間の命が最優先だ。この件にメリットはない。」
「弘樹のが無駄ってこと?」
「無駄じゃないさ。手を引く、という判断材料を集めたんだ。でかしたもんだ。」
アサヒの方針は、「命優先」。大義名分で命を懸けることは許されない。不要な死ほど無駄なことはない、と、この1年刷り込まれた。
「これは傘下の奴らにも流さない。ただ、金は稼げる。情報の流しどころと交渉を頼むぞ」
「「はい」」
ウイとユイが返事をした瞬間、レンの寝息が聞こえ、ウイとユイはお疲れ様でした、と去っていく。情報共有が終わったようだ。アッサリ終わった会議にきょとんとしていると、サトルがサキの肩を叩いた。
「レンの営業時間は終いだ。ここ数ヶ月ほとんど寝ていない。…そしてお前もだろ。さっさと寝ろ。」
「俺は寝てます」
「眠れるもんか。総会まで全員が気を張っていた。お前は今ハイになってるだけだ。リョウタの隣で横になれ。」
サトルはレンをゆっくり横にして、部屋を出ようとする。
「どこ行くの?」
「ん?アイリ達を探しに。シズクがいるから大丈夫だろうけど。」
(心配性だな、相変わらず)
サキはサトルを見送って、レンの寝顔を見た。疲れ切っていて、肌も少し荒れている。ミナトのポジションと、今までの仕事を両立して、弘樹の指導までしている。
「レンさん、かっこいいっす」
いつもなら、だろ?とか返ってきそうなのに、小さな寝息しか聞こえなかった。サキも横になってみると、急に体が重くなった気がした。
(眠い…かも。)
目を閉じるとすぐに落ちた。
ーーーー
「サトル兄ちゃん過保護なんだから!」
「僕まで叱られた。君といると僕の評価が下がる気がするよ」
「ひっどーい!サトル兄ちゃん聞いた!?自分の評価が悪いの、アイリのせいにした!」
サトルは2人の元気さに苦笑いした。シズクはなんだかんだアイリのワガママを聞いてやれる。さすが、ユウヒのそばにいる男、と感心した。
3人で戻ると、レンとサキが向かい合って眠っていた。
「なんか…2人とも雰囲気似てますよね」
「あぁ。」
「兄弟ですか?」
「いや。兄弟ではない。」
シズクは2人をまじまじと見た。アイリは構ってもらえなくなって拗ねている。
「本当、整ってるよな…。」
そう呟いた後、シズクはケータイのカメラを向けた。
カチャカチャ
「何撮ってんのー!?」
「うるさいよ。起きちゃうでしょ。」
「むーー!」
「お子様は早く寝なよ。」
「お子様じゃなーい!」
アイリの声にレンのまつ毛が揺れて、ゆっくりと目を開け、目の前のサキに驚いたあと、サトルを探し、目が合うとフニャリと笑った。
「「うわぁ…」」
アイリとシズクの声が揃う。
「サトル」
両手を広げて、ん、とハグを待つレンを強く抱きしめた。
「シズク、後でさっきの写真送ってくれ」
「ふふ。了解です。」
「アイリもー!」
「ダメ。またメッセージ夜遅くまで送ってくるんでしょ?睡眠の質が悪くなる」
サトルはそれを背に聞きながら、また眠ったレンを担いで部屋を後にした。
「そうだ!リョウタさんに送ろう!」
「意地悪!」
アイリは怒りながら、サキに毛布をかけて、お気に入りのクッションをサキの頭の下に敷く。
「…君のこういうところ、すごく好き」
「へっ?」
「さぁ、寝よう。おやすみ」
「お、おや、おやすみなさい」
アイリは顔を真っ赤にして挨拶をした。
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