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第163話 優先順位
シズクは与えられた部屋に布団を敷き、着替えた後に横になった。
(さすがに…疲れたな…)
気を張っていた分、やっとリラックスできた。明日のやるべきことを考えて、資料をまとめないと、と思うも瞼は重い。
ヴーヴー ヴーヴー
震えるケータイに少しため息を吐いた。手を伸ばしてケータイを取ると、思った通りの人からのメッセージ。
(あぁ…もう…。)
おやすみなさい、お疲れ様との短いメッセージ。いつものウサギやキラキラのスタンプはない。部屋へ戻ってしばらく経ったことを考えると、シズクは苦笑いした。
(悩ませてしまったな。)
返信せずに、ケータイを横に置いた。寝ていることにして、シズクは天井を眺めた。
思わず出た一言。疲れて気が抜けたのかもしれない。アイリは聡いところがある。
(流しては…くれないかな…)
寝返りを打って、眉を寄せた。近すぎた1年。
(今は、そんな余裕ない。しっかりしろ)
シズクはゆっくり起き上がり、資料まとめに取り掛かった。組織のため、ユウヒのために、今やるべきことを優先した。
ーーーー
ドンドン
「シズクー!朝ごはんー!」
ユウヒの声に飛び起きた。机に伏せて眠ってしまっていた。資料も全く手付かずのままだった。
「シーズクー!」
「…テンション高いな。ヒロさん効果?」
「ま・あ・な!」
「首…大丈夫?怪我してる」
ユウヒの切り傷にそっと触ると、痛そうに顔を顰めたあと、不安そうな顔になった。
「また…傷つけてしまった…」
「あぁ…。目?」
「うん。紅くなる時なんだよなぁ…」
ユウヒは分からない、とシズクに抱きついてきた。頭をポンポンと優しく叩き、ユウヒを離そうとするも嫌がられる。
「ゆーひ。お腹すいたよ。」
「うん、もう少し」
「ヒロさんにしなよ」
「ヤダよ。抱きたくなるだろ」
「知らないよ。」
ユウヒと弘樹がどういう関係か。初めて弘樹に会った時の、弘樹の目で分かった。手を引け、触るな、離れろ、そんな必死さが可愛くも見えた。
「ゆーひ、本当僕がいないとダメだよね」
「おう。お前がいなきゃダメ」
こうして、弘樹が聞いたらキレそうな言葉を簡単に言う。
(嫉妬される身にもなってよ)
そんなこと思っても、シズクにもユウヒが必要だと分かっている。ただ、恋愛感情がない、本当の相棒。
「あ。お前さ、アイリに何か言った?」
「何かな?」
「今日あいつ変なんだよ。リョウタが、今日のスープの味が好きって言っただけで、鍋落として顔真っ赤だし、何喋っても吃るし、お前呼びに行くのも嫌がってさぁ」
ユウヒは不思議そうに首を傾げた。
「ついに告白したのか?」
「誰に。何を。」
「あー!?お前、俺にも隠すのか?」
「僕は質問をしてるの」
「先に質問したのは俺です〜」
ユウヒの質問をサラリとかわして、食卓へ行くと、席について下を向いたままのアイリ。
「おはよう御座います」
「「おはよー!」」
リョウタや弘樹が元気よく返事をする。それに笑顔で返して、アイリの隣に座る。
「朝からやらかしてるらしいじゃん?」
「う、うるさい!」
「元気そうで良かった。」
「メッセージ、返してよ」
拗ねたように言う姿は、はっきり言って可愛いと思う。でも、シズクはそのままの表情で言った。
「重い女は嫌われるよ?」
「っ!ひどい!」
アイリは怒って部屋に戻っていった。
「まぁた喧嘩か?」
「喧嘩じゃない。意見を言ったら怒ったんだ。」
期待をさせてはいけない。
アイリにもシズクにもやることがある。
シズクは食事を見ていただきます、と手を合わせた。
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