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第166話 奇襲

いくつかのシマが篩にかけられた。直接手を下すパターンと、間接的に消すパターンがある。 「なん…だ、お前ら…っ、俺ら…は」  「……アサヒさんの暗殺なんて無謀すぎ」  リョウタは倒れ込んだ人に銃に向ける。  「あいつが…平穏を壊したんだ」  「平穏なんて、俺にはずっと無かったよ」  パン!パン!  動かなくなったのを確認して、ため息を吐く。 「レンさん、終わりました。」  『お疲れ〜!悪いな、寝てたのに急に起こしちまって!』  「いえ!」  元気よく返事した後、後ろから首を絞められる。足が浮き、咄嗟のことに頭が真っ白になる。レンとの通信は切ってしまった。なんとか足で蹴り上げ、尻餅をつく。  「アサヒの側近だな。」  「ゴホッゴホッ」  「ガキじゃねーか。こいつに殺し屋が…?」  ふざけんな、と笑い、顔を蹴られる。防戦一方で暗がりの中でやっと顔を見た。東野トキノリの兄だった。資料でしか見たことのない存在。裏社会にいない人物のはず。  「よぉ、アサヒの側近さん。桜井アサヒを出してくれ。話がある。」  「ッゴホッ、お引き取りください」  「うーん。言い方を間違えたか?」  トキノリの兄はニヤリと笑う。  「出せ。殺されたくないならな」  「っ!」  頬を掠めた後、銃声が聞こえた。 距離をとってトキノリの兄を見る。普通の人に見える。ジャケットを着て、長めの前髪をかき上げる。  「俺があいつのためにプレゼントした組織、簡単につぶすなや」  「あなたが…?」  「俺は足を洗ったのさ。他にやりたいこともあるし。…アイツが20歳になった祝いだった。それがこのザマだ。あいつはもう出てこれない。お前らが仕組んだんだろ。」  ゆっくりと近づいてくる。この人のオーラはアサヒと似ている。リョウタは冷や汗をかき、距離をとり続ける。  「いいのか?逃げてばかりで。桜井アサヒの側近がそんな逃げ腰とは笑えるな。どうした?一般人の俺が怖いのか?」 広く動ける場所に出て、意識を集中させた。ニヤリと笑ったその人は瞬きをしたら消えた。  「?」  「遅いよなぁ…」  「ッ!」  「お?反応はいい」  地面に抑えつけられて、ギリギリと押し合う。 パン!  「リョウタ!」  「…サキ!」  「は、応援のための時間かせぎ。それにしてもお前…腕がいいな。うちで雇おうか。」  トキノリの兄は優しい笑顔でサキの方を見た。  「俺は東野トキカゲ。警備会社を経営しているんだ。重役のボディーガードをメインに請け負っている」  「……。」 「お前は顔もいいな!スカウトだよ、サキ君」  トキカゲはサキしか見ていなかった。リョウタは隙を見て飛びかかるが、そこにトキカゲはいなかった。  「今日は奇襲と仇打ちのつもりだったが、いい人材を見つけたから良しとしよう。」 じゃあ、と手を振っていった。  「待て!お前は、弟の仇に来たんじゃないのか!」  「そうだよ。でも、別に今日じゃなくてもいい。」  「何だと!」  「喚くなガキ。お前は側近にしては弱すぎる。話にもならない。けど、アサヒが強いというのが、弱すぎるお前で分かる。お前が使えなくても、アサヒが自分で対処できるんだろ?」  それなら俺も準備が必要だ、と暗がりに消えた。身体が動かず、見送ることしかできなかった。 (くっそ!逃した!!)  「リョウタ、大丈夫か?」  「触んな!」  パシンとサキの手を振り払った。  気が立っていた。弱さを突きつけられて、サキに守られ、サキが奪われそうになって、身体が固まって、取り逃して…。  「落ち着け!」  「落ち着いてる!分かってる!!俺はッ!」  弱い、そう言う前に歯を食いしばった。強く抱きしめられて、サキの肩口が濡れる。  悔しかった。全く歯が立たなかった。 サキが来なかったら殺されていたかもしれない。 「落ち着け。奇襲ってのはそんなもんだ。あいつの速さが分かったなら、備えればいい」  「っ…ッ!…ッ」  「あー…もう。落ち着けって。」  歯を食いしばったまま、静かに声を殺して泣いた。

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