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第168話 オーバーワーク

『弱すぎる』  この声を思い出しては、夜中に目を覚まして、走りに行ったり、打ち込みをしたり、身体が悲鳴を上げるまで痛めつけた。何度もサトルに叱られ、それでもあの声がすると、動かずにはいられなかった。  「リョウタ、何で呼ばれたか分かるか?」  ついにアサヒのお仕置き部屋に呼ばれた。正直、話をしてる時間も惜しく感じて、早く終わらそうとすぐに受け応えをした。しかし、アサヒは離してくれない。  (アサヒさん…分かっててやってるんだ)  理解すると、とても苛立ち始めた。  アサヒさんに迷惑をかけたくない、側近としての責務を果たしたい、それだけなのに。 (どうして、邪魔するんですか!!)  ギリギリと歯を食いしばり、目つきが変わってしまったのも自覚がある。 「何…笑ってるんですか…?」  「焦りすぎだろ。」  笑われたことにイライラが爆発した。この人を守りたい、それなのに、この人に向かっていく自分。  『弱すぎる』  (うるさい!うるさい!うるさい!!)  「久しぶりだな?こんなお前」  まだ笑ってるアサヒに止まらない。弘樹を救出したあの日みたいに。  ドカン!!  バキバキ!!  「アサヒさん?!」  廊下からハルの声がするが、アサヒが大丈夫大丈夫と軽く返す。それにもイラついて完全に理性がとんだ。  『大丈夫。お前は良くやってる』  アサヒの優しい声がした。一瞬見えた顔は優しい微笑み。瞳は茶色のままだった。  ドサッ  「ハルー?来てくれ」  アサヒはどうせ近くで待機しているだろうハルを呼んで、倒れたリョウタを預けた。  「アサヒさん…リョウタ、何かしたんですか?」  「…オーバーワークさ。相当焦ってる。まずは休ませなきゃな。とりあえずお仕置き部屋に監禁だ。出させるなよ。外から鍵かけとけ。」  「え!?」  「今のこいつは周りなんか見えちゃいない。外に出したら即死だ。」  アサヒは気絶するリョウタの顔を見て、頬を撫でた。  「こんなクマ…。お前らしくねぇ。側近は強けりゃいいってもんじゃない。周りを見て動ける奴じゃないと務まらない。」  分かってると思ってたけどな、とアサヒは残念そうにお仕置き部屋を出た。  ハルはお仕置き部屋に布団を敷き、リョウタを寝かせた。リョウタの好きな食べ物を横に置いて、手紙を書いた。  『食べたいものがあったらリクエストしな』  連絡が取れるようにリョウタのケータイをそばに置き、ハルはため息を吐きながら南京錠をかけた。  (東野トキカゲ…あいつは手強いぞ。…弘樹のやつ、上手くやれるだろうか…)  ハルは心配しながらキッチンに戻った。  ーーーー  「時給が高いので来ました!中卒です!」  「……。イサム、履歴書には中卒って書いてあったか?」  「いえ!高卒だと…」  「高卒って書かないと落ちるかなぁーって!でも大丈夫です!英語は日常会話できます!俺、お金持ちに憧れてて!」  トキカゲはげんなりして、面接にきた青年を見た。ニコニコとしてまるで汚れを知らない純粋無垢。  「ボディーガードは命の危険もあるが、分かってるのか?」  「もちろんです!空手も得意です!はっ!はっ!」  「……。」  秘書のイサムはオオ!素晴らしい!と拍手をし、面接に来た青年ときゃっきゃとはしゃぐ。  (うるさいのが増えそうだ)  英語ができるなら、とトキカゲは採用とした。  「よろしくお願いします!俺、なんでもやります!」  「よろしくね、藤堂くん!」  「はい!!」  『潜入成功です。明日から任務に入ります』  弘樹の報告に、レンとミナトはハイタッチをした。 

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