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第170話 矛先の理由

サキが目を覚ますと、ブランケットがかけられていた。きっとアイリだろうと微笑んで、廊下で寝て固まった身体をパキパキと鳴らした。ドアに耳を寄せると、まだ寝息が聞こえた。 ゆっくり立ち上がり、サキはミナトの部屋を叩いた。  「おはよう。来ると思ったぜ」  レンが出てきてニヤリと笑う。奥のソファーにはミナトが小さく丸くなって眠っていた。  「ヒロが潜入できたから、サトルも近くでスタンバイしてる。今回お前は顔を見られてるから、俺と同じモニター班な。」  「はい」  「秘書のやつがヒロを気に入っててやりやすいわぁ〜。あいつ本当、人に好かれるよな」  レンは嬉しそうに笑って、モニターの弘樹を見つめた。 「大泣きしてたのが、遠い昔みたいだ」  懐かしみながら、我が子を見るような目だった。 弘樹はすぐに依頼主のボディーガードについていた。依頼人にも好印象のようだが、なかなかトキカゲとの接触の機会がない。 サトルがトキカゲの尾行に切り替えると、トキカゲが毎日通う場所があった。  「刑務所…トキノリの場所ですか」  「あぁ。人情味のあるやつだからな。ハルさんはトキカゲの方を良く知っていたみたいだ。弟の存在は全く知らなかったみたいだけどな」  「隠していたのかな?」  「…どうだろうな。」  しばらく、サトルからの情報を待つしかない日々が続いた。  数日が経った頃、リョウタの解除指示が出た。リョウタは全員に頭を下げ、特にアサヒにはゆっくりと自分の気持ちを伝えた後に謝罪をしていた。  少し痩せたようにも見える頬に触れると気持ち良さそうに微笑んだ。  リョウタの前では、トキカゲの話題が出なかった。たまたまか、意図的か分からず、サキは進捗を黙っていた。  「情報が揃ったぞ。トキカゲはトキノリを守るために存在を隠し、そして土台を整えたうえで組を明け渡した。…最後の、血縁だからだ。」  「最後の…?」  「後は全員殺されてる。殺したのはトキカゲ。理由は、病弱だったトキノリを両親が売ろうとしたからだ。」  サキは驚いて顔を上げた。  レンが続ける。  「トキカゲは兄弟が欲しかった。やっと生まれた弟を殺そうとする両親に失望し、トキノリを連れて家を出て、裏の世界に来た」  「…いい奴…なのかな」  「今、最後の血縁さえ失った。矛先はこちらに向くわけだ」  レンはため息を吐いた。考えすぎて、高熱を出しながらも普通に話している。頭に冷却シートを貼り、ペンを回した。  「俺の案としては和解なんだけど、アサヒさんは絶対頷かないんだよなぁ。それに、国家レベルに手を出したのはトキノリがバカだからだし…」  そう言った瞬間、顔面から机に落ちたレンにサキは慌てて横に寝かせた。  モニターには、ニコニコして働く弘樹の姿。  (…弘樹のこの笑顔。なんだか変だ。)  サキはモニターをアップにした。  すると、依頼主との距離が近い。依頼主が離れたあと、弘樹の表情が死んだ。  (急がないと!この案件を早く終わらせないと!)  サキは冷や汗をかき、モニターを凝視した。 

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