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第173話 作戦練り直し

「アサヒさん、ミナトさん。…トキカゲ相手に頭脳戦は不利です。」  ハルはアサヒとミナトの部屋で、神妙に訴えた。作戦が撤退という形になったと知り、ハルは口出しすみません、と頭を下げた。  「トキカゲは…頭のキレる奴です。」 「うん、そうだよね。こちらから下手に動くと不利になりそうだから一回引いたんだよ。」  「正解かと思います。かと言って放置もよくない…。桜井テンカがトキノリを傘下に入れた…トキノリを丸め込めばトキカゲは追ってこないはずです。」  アサヒはあからさまに嫌そうな顔をした。要らない人は要らない、そう言っている表情だ。  「トキカゲの弱点は弟のトキノリ。傘下に戻す訳じゃなくて、刑期を縮めるとか…無理っすかね」  ハルは恐る恐る提案した。 アサヒの殺気が立ち込めて、手から汗が吹き出る。  「そうだね。それならやれそうだよ。」  「あ!?あいつを助けるってのか!?そんなことするぐらいならタイマンでいくわ」  「やめてよダサイ」  ミナトに一蹴され、アサヒはきょとんとしていた。ミナトも調べていたのか、上告の仕方の資料を持ってきた。 「弁護士にレンをつける。トキカゲの交渉は、弘樹やサトルでは無理だから。」  「ミナト、本当にやんのか?」  「何でも力で解決しようとしないで。もうアサヒは僕らだけのボスじゃないんだよ。世間体もある。この件は僕らの名前がでちゃいけない」  ミナトの提案にハルは頷いて、緊張がほぐれた。アサヒはそれを見逃さず、話せ、と言ってきた。  ハルは少し迷ったあと、下を向いて話し始めた。 「俺の…兄貴分の人がトキカゲに殺された。しかも、他の組のやつを装って…。俺たちと、その他の組のやつが抗争にまで発展した。俺も、その時は信じて、仇を討つためにほとんどの幹部を殺した。最後の幹部は言ったんです。“俺たちじゃない。トキカゲ、あいつに違いない”って。」  「……。」 ーーーーーー  幹部の奴が息絶えて、ハルは言葉の意味を咀嚼してゾッとした。その瞬間後ろから拍手が聞こえた。  「お見事だ。一瞬だったね?若いのに素晴らしい。」  「誰だ…てめぇ」 長めの前髪、上等なスーツには汚れひとつない。この抗争のなか、悠然と立っている。  「よくやってくれた。この組に存在意義はない。弟を貶した罪は重い」  「弟…?」  「可愛い弟が入りたいって希望したんだ。初めてだよ、自分から兄貴と一緒に頑張りたいって言ってくれたのに…。バカはいらないなんて、」  「っ!」  「バカはどっちだと思う?」  鳥肌が立って、距離をとった。  トキカゲは笑って、何もしないと言った。  「君のとこの兄貴は、そいつらが殺した。仇はとれたね」  そう言って去っていった。  後に、死んだ幹部の発言が正しかったことを知るも、トキカゲは姿を消していた。  ーーーー  「本当は仇を取りたい…でも、今は関わりたくない。俺には新しい大事なものが増えた。それを守っていきたいから。」  お願いします、と頭を下げた。  アサヒは頬杖をついて笑った。  「頭上げろ。お前にそこまで言われちゃ仕方ねーよ。」  だから、辛気臭い顔すんな、と頭を叩かれた。顔を上げるとミナトとアサヒは仕事の顔になっていた。  「よし、ハル!レンの栄養管理頼むぞ。これからもっと忙しくなるからな」  「了解です」  ハルも気合いを入れて、ミナトとアサヒの部屋を出た。 

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