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第174話 私情

レンが長期任務に入って、数ヶ月が経った。  リョウタ達は交代でレンのボディーガードを行いながら様子を見た。  今回は変装などはせず、レン自身で対応した。国家レベルの犯罪をどう覆すのか、緊張感が継続する任務だった。  何度もトキカゲとトキノリと打ち合わせをして、資料を集める。あれだけトキカゲとの接触が難しかったのに、トキカゲはレンを信頼し、何度も何度も会っていた。  『20年は刑期が短くなると思います』  『ダメだ。20年では…。5年…いや、3年にしてくれないか』  『国家レベルの問題です。そんなことはあり得ません。』  『では、仮釈放はないだろうか。トキノリは持病がある。責任能力は無かった。』  早期の釈放に拘ることにレンは首を傾げ、隠しカメラをチラリと見た後、質問をした。  『何か、トキノリさんを早く出さなきゃいけない理由が?』  『…あぁ。』  『聞いても?』  トキカゲは初めて渋ったような顔をした。レンはじっと見つめて、トキカゲが声を発するまで沈黙を耐えた。  『俺は、余命3年。長くてだ。』  『え?』  『だから、早くしないと弟を守る人がいなくなる。すべて引き継いでから死にたいんだ。今の会社は安定してる。秘書もいい奴だ。あのぐらいうるさいほうがトキノリに合う。』  トキカゲは、バッグからたくさんの薬を出した。それは一目で分かる、違法なものばかり。  『中毒症状だ。臓器がもうもたない。…親を殺してから、まともではいられなくなった。どこにいても、休まることはない』  トキカゲは注射器を腕に通して、ふぅ、と息を吐いた。 『今日はもう引き取ってくれ。このあと10分で俺は俺でなくなる。』  レンはトキカゲをそっと抱きしめた。  『あなたの苦しみを、もっと早くわかってあげられたらよかった』  『っ!』  『時間がありません。最善を尽くします』  トキカゲは目を見開いた。その目からは大粒の涙が溢れた。薬の効果かカタカタと震え、汗も滲む。歯を食いしばってレンのジャケットを握った。  『頼む…。お前しかいないんだ。』  「レン、引いて」  モニターを見ていたミナトが指示をするが、レンは抱きしめたままだ。  『私にできることがあれば、全力で協力します。』  ミナトは頭を押さえて、崩れるように椅子に座った。  「サトル、後で薬の解析を。」  『御意』  「リョウタ、トキカゲが暴れたら突入して」  『了解です!』  指示をした後、ミナトは頬杖をついてモニターを見ると、濃厚なキスをして押し倒されるレン。お互い焦ったように服を脱がせて、レンは気持ちよさそうに声を上げる。  (今は、飾らないレン自身。レンが必要だと思っての行動…)  それにしても、レンの様子も、トキカゲの様子もおかしかった。必死にお互いを求めて誘い、レンの方がとびそうなほど声をあげる。治らない2人の熱。ミナトはモニターの映像を拡大して、薬の銘柄を調べた。  (媚薬ではない…みたいだけど。)  首を傾げて、更に調べていくと、他の薬との相性が悪いことが分かった。もともと強力な薬が、改造されより強いものになって出回っているようだ。 中毒症状が出ているトキカゲには、普通のものとは思えない。  『ぁーーーーッ!!』  レンが思いっきり反って、絶頂を迎える。出したばかりでビクビク跳ねる熱をトキカゲは夢中で頬張り、レンは視線が合わないまま叫び続ける。後ろも前も同時に攻められ、何度も何度も連続でイっているようだ。そして、トキカゲの熱が入ればレンは落ちた。  『あっ!あっ!トキカゲさん!トキカゲさぁん!』  『はぁ!可愛いよ、レン、可愛い』  『だめえっ!だめ!っ!んっ!いやっ!やぁ!』  『またぁ!イッ…くぅ!!!』  トキカゲをきつく抱きしめてレンは達した。その後、ガクンと脱力し、トキカゲはレンから引き抜いてレンの顔にかけた。ピクリとも動かないレンにミナトは冷や汗をかいた。  (まだ、まだ…トキカゲが落ちるまで)  トキカゲはしばらくぼんやりしたあと、ベッドの下に倒れた。  「サトル、リョウタ、レンの回収!」  2人に指示して、ミナトはトキカゲの顔を見てゾッとした。  (…生きてる?!)  「サトル、トキカゲの容態を確認して」  『御意』  2人が突入すると、レンは失神しただけですぐに意識を取り戻し、シャワーを浴びていた。トキカゲは副作用で嘔吐し、顔は真っ青だった。  薬の情報が送られてきて、ミナトがアイリに見せると、トキカゲをかなり心配していた。  トキカゲに服を着せて、部屋を元どおりにした。レンは手書きでメッセージを書き、この部屋を後にした。  (う…気まずい)  レンとサトルの距離感がおかしい。  いつもならレンがすぐにサトルに甘えるのに、見えない壁があるようだった。  レンは窓の外をみながら、口を開いた。  「任務だから、そんな怒るなよ」  リョウタは驚いてサトルを見たが、いつも通りの無表情だ。  「別に。怒ってない。」  「あっそ。じゃあ何その態度。イラつくんだけど。」  レンがピリピリしていて、リョウタは静かにした。  「そうか。悪かった。」  「…心開かせるには対価が必要だろ。重い情報をもらったんだ、それの…」  「だからって、セックスしなきゃいけなかったか?今回のは必要だとは思えない」  サトルがレンの話を遮って反論した。リョウタは降りて逃げたいのを我慢して下を向いた。  「俺の判断が間違えたって言うのか!?ああ!?じゃあお前ならどうすんだよ!お前ならできんのかよ!お前じゃ話すこともままならなかったくせに!お前が俺に任務のことで口出ししてんじゃねーよ!」  「レンさん!言い過ぎですよ!落ち着いてください!」  さすがに荒れている気がしてリョウタは身を乗り出して止めた。サトルは目を見開いて車を脇に止めた。  「レンさん…疲れてるんですね、サトルさん、早くアジトに…」  「なら、全てお前がやればいい。俺が使えないのはお前なら分かりきってたことだろう?」  「そんなことないですよね!レンさん…」  「任務な私情持ち込むなよ。うぜぇ」  レンはシートベルトを外して、車を降りてしまった。インカムとなっているピアスを踏み潰してレンは振り向いた。  「俺がヤりたくて、誰とでもヤる奴に見えてんだろ。お前にだけは、そう思ってほしくなかった。」  泣きそうな顔で怒って、レンは勢いよくドアを閉めて、夜の公園に消えた。2人は慌てて車を降りたが、姿が見えず見失った。  「サトルさん…どうして…」  「……。私情を挟んだのは事実だ。申し訳ない。」  サトルは頭を抱えて蹲ってしまった。  「レンが、レンとしてあいつの名前を呼んだのが…耐えられなかった。」  「サトルさん…」  「一瞬でもあいつの中から俺が消えたのが分かって、思った以上にきつかったんだ。」  ポタポタと水滴が落ちる。  サトルのいるところだけ、雨が降ったようだった。 

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