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第176話 すれ違い
裁判所にはさすがに潜入できず、リョウタとサトルは外で待機した。レンは徹夜で資料を読み込み、法廷に立った。
「あの…サトルさん、大丈夫ですか?」
「問題ない。任務に集中しろ。」
会話も続けることができず、ひたすら沈黙が流れた。
「あ、レンさん来た!」
ベージュのスーツ姿のレンはニコニコとこちらに手を振り、車に乗った。
「良い手応えだ!」
レンは興奮して楽しそうに話す。レンはいつも通りに戻ったような雰囲気だったが、サトルがまだ対応できなかった。
(う、サトルさん、リアクション…)
リョウタはひやりとして慌てて2人を見るが、楽しそうに笑っていたレンから笑顔が消えた。
「……。なんか冷めた。…お前のつまんなそうな顔見てると疲れを思い出すわ」
寝る、とシートを倒して目を閉じたレン。リョウタは不安そうにサトルを見ることしか出来なかった。
そのままの状態が1ヶ月続いて判決が下りた。
「完全勝利〜〜ッ!」
「レンさんすごい!!刑期2年って!」
弘樹は目を輝かせてレンを見た。ご機嫌なレンは弘樹の頭を撫で、わははと笑っている。トキカゲからの報酬も多く、さらにアサヒへの仇討ちの必要がなくなった。
「すげーな。話し合いで解決することってあるんだな」
「アサヒは何でも力に頼りすぎ」
リビングにはサトル以外の全員が集まっていた。レンは気付いているようだが、特に何も言わなかった。
その日の夜、レンはトキカゲに呼ばれ、朝まで帰ってこなかった。
リョウタはランニングに行くために早起きすると、リビングにサトルが座っていた。
「サトルさん、おはようございます!」
「あぁ。おはよう」
「え…サトルさん、すっごいクマ。寝てないんですか?」
「いや、寝た」
視線が合わないままで心配だが、リョウタはランニングに行こうとドアを開けた。
「お、リョウタ!早いな!」
「レンさん!今帰りですか?お疲れ様です」
「おうよー!」
酒の香りが残るレンとすれ違った後、後ろから大きな音がして振り返る。
見ると、サトルがレンの胸ぐらを掴んで床に叩きつけていた。
「サトルさん!?」
「これも任務なのか!?あぁ!?」
初めて見るサトルの怒りの顔。頭を打ったのか何も話さないレンに不安になって駆け寄る。
「お前の任務の境界はどこだ!!?なぁ!教えてくれよ!!」
「…っせーな…男が喚くなよ」
「普段はお前が喚くだろうが!!」
「疲れてんだよ…離せ。大声出すな。みんな起きるだろ。」
レンは冷たい目でサトルの手を振り払った。その瞬間、サトルの目が死んだように色をなくした。
そうか、と呟いた後、出て行こうとするサトルをリョウタは必死に止めた。
「お互い、時間を、おきましょ!?ね!?」
「離せ、リョウタ」
「っ!」
強い力に勝てなくて、リョウタは大きく息を吸った。
「ミーナートーさぁあああああん!!!!」
「「っ!?」」
大声で叫ぶと、ミナトとアサヒ、そしてハルがリビングに出てきた。レンは気まずそうに床に座って、サトルは力を抜いた。
「リョウタ!どうしたんだ!」
「びっくりしたよ、大丈夫?」
「朝からうるせーぞ!!」
ごめんなさい、と謝って、リョウタはサトルの腕を掴んだまま言った。
「2人が、喧嘩しちゃって…でも、どうやったら仲直りできるか分かんなくて。ミナトさん、教えてください」
しゅん、と落ち込んでそう言うと、ハルとアサヒはぽかんと口を開けた。ミナトだけは微笑んで、分かった、と頷いた。
「2人とも、お仕置き部屋に来なさい」
「「えっ?」」
「?お、おい、ミナト?」
「アサヒ、僕はこの2人に説教しなきゃならない。でも、アサヒにもそばで聞いてて欲しい」
「???…分かった。」
アサヒは首を傾げたままだったが、サトルとレンをお仕置き部屋に入れた。
「リョウタ、ありがとう」
「はい!」
「サトル、任務が終わったらレンと話したいって言ってたんだ。…けど、レンと話せなかったみたいだね」
ミナトは寂しそうな顔をして、もう一度ありがとうと言った。
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