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第177話 ずるい人
レンはお仕置き部屋に連行されながら、サトルの言葉を思い出していた。
『お前の任務の境界はどこだ!!?なぁ!教えてくれよ!!』
(俺が…悪い。)
ちらりと見上げたサトルはもう、どこを見ているのか分からなかった。ここまで追い詰めてしまったことをだんだん自覚して目の前が歪む。
ずるいと思う。
辛いのはサトルで、不安にさせたのは俺で。
なのに、廊下を濡らしてしまう。
きつかったんだ。
ギリギリだったんだ。
“浮気”をするくらい。
誰でもいいから、発散したかったんだ。
サトルにはバレてる。
だから、サトルはこうして怒って、そして、失望した。
「レンが泣くのは違うよね」
ほら、すぐに見つかった。
ミナトの目も、サトルの目も、誤魔化せない。
言い逃れはできない。
涙をゴシゴシと拭いて、また廊下を見つめた。
突然、隣を歩いていたサトルが立ち止まった。レンが顔を上げると驚いて息が止まりそうだった。
静かに、そして大粒の涙。
「レン、別れよう。」
「っ!」
「ミナトさん、アサヒさん、俺たちに時間を割かなくていいです。これは、俺たちの問題です。」
アサヒは首を傾げた後、レンを見た。
「お前、何した?」
「……。」
答えられず、下を向いた。
アサヒは大きなため息を吐いた。
「で?サトル、別れるってことは…」
「今まで…お世話に…」
「ダメだ。許可しねぇ」
アサヒが遮るとサトルは歯を食いしばった。
「俺…は、あんたについてきたんじゃない。」
「おう!知ってるよ」
「だから…」
「でも、こいつを叩き直せばいい話だろ?」
アサヒがニヤリと笑い、レンはゾクッと震え腰を抜かした。
「手柄あげたのにお前は〜何してんの」
優しい言い方が余計に怖くてレンは目をぎゅっと瞑った。
首を掴まれて、お仕置き部屋に投げ入れられた。反射なのかサトルはレンの後頭部をそっとカバーした。
「サトル。残念だけど、お前はこいつから離れられねーの。身をもって体感しろ。」
ミナトは呆れたように後から入り、内側か
鍵をかけた。
「話で解決したいのに…」
そんなミナトにクスクス笑って、アサヒがレンに手を上げようとすると、サトルがパシンと庇う。お互いそれに驚いていてもアサヒは止まらない。
(なんで…っ、なんでだよ)
今度はサトルが狙われたような気がして、レンは思わずサトルにしがみついた。
「もうやめろよ!!!」
はっとレンをみるサトルは無意識のようだった。レンは見ていられなくてサトルに抱きついた。
「ごめん、サトル、ごめん」
「…。」
「俺が悪い。ごめん。」
必死に謝った。
強ばったサトルの体が少し緩んだ。
ミナトとアサヒは椅子に座ってそれを見ていた。
「いっぱいいっぱいだったんだ…余裕なくて…きつくて、近くにいたトキカゲに甘えた」
「っ!」
「じゃなきゃ保たなかった…これは、言い訳だ。任務と偽って、浮気したんだ。」
アサヒは嫌そうな顔して見ていた。ミナトは分かっていたのか、真顔のままだ。
サトルは、やっぱり傷ついた顔して泣いていた。
(こんなに泣くの…初めてだな)
ぎゅっと抱きしめると、大人しく体を預けてくれた。
「俺だって…きつかったよ…」
「だよな、言ってたよなお前…」
サトルはそれ以上話せなくなって、レンはひたすら謝って抱きしめた。
いつの間にかアサヒとミナトはいなくて、鍵はきっとかかっていないのに、俺たちはずっとそうしていた。
「サトル、許してほしい。」
「許すしかないこと、知ってるだろう。お前はずるい奴だ」
本当にな、そう思ってまた抱きしめた。
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