186 / 191
第186話 待ってる人
シズクがゆっくりと目を覚ますと、隣には疲れたように眠りアイリがいた。
横には冷却シートやタオル、水、ビニール袋などが置いてあった。
(解毒した…?…さすがにきつかった)
僅かな違和感でお嬢様であるエイミーの手を叩いた。触れてはダメだと思った頃には目眩が始まった。
シズクはそっと手を伸ばしてアイリの頭を撫でた。
「頑張ってくれたんだな。ありがとう。」
寝息が細くて、唇にみみを近づけようとした時、ドアが勢いよく開いた。
「シズク!…っ!?」
「わっ?シズク!」
あの日ぶりのエイミーと、顔を真っ赤にするリョウタ。誤解されたと分かって苦笑いをし、2人を部屋へ入れた。
「シズク、会いたかった」
熱い抱擁にリョウタはまた顔を真っ赤にして目を逸らしている。慣れているシズクはポンポンと背中を叩いてあげた。
元気そうな姿に安心して微笑むと、エイミーは下を向いた。
「シズクにも、シズクの家族にも迷惑かけちゃった。ううん…学校の友達にも…。私は、自由にしちゃダメだと分かったわ」
「自由にしちゃダメだなんて、何も分かってない」
シズクは呆れてそう言い、エイミーに向き合った。
「エイミー。それは力に負けたということだ。」
「負けたんじゃなくて…」
「人が傷つくから、やりたいことができない。そんなのおかしいんじゃない?エイミーなら誰にも私の邪魔はさせない!くらい言うと思ったのに」
シズクはエイミーのブルーの瞳を見つめた。迷いがあって濁っている。
「でも…」
「考えるんだ。結果論は誰にだって言える。どうすれば今後防げるか、自分の志を曲げずに進める方法はないのか、考え続けなければダメだ。」
リョウタはおおーっ!と拍手しはじめたが、なんとなくだろう。
「エイミーならできる。考えることをやめてはいけない。力に勝つことを考えよう」
エイミーは大きく頷き、そして笑った。
「シズク、ありがとう」
「いーえ。」
「シズクに会えてよかった」
「光栄だよ」
「わたし、シズクとずっと一緒にいたい」
リョウタはお邪魔しました、とニヤニヤしながら出て行った。
「シズクのことが好きみたい」
エイミーの真剣な言葉を聞きながら、シズクは隣の寝顔を見た。
(起きてるな…)
「エイミーのことは好きだよ」
「シズク!」
(あ、悲しそうな顔になった)
「でも、僕は待ってる人がいるから。」
「待ってる人?」
「うん。僕自身も、その子も成長するまで。」
アイリのまつ毛が震える。
エイミーは残念そうに笑って、もう一度、会えてよかったと言った。
「今日の19時に国へ戻るわ。楽しかった!ありがとう!」
「気をつけて」
エイミーは苦笑いして、引き止めもしないのね、と寂しそうに出て行った。
「…盗み聞き?」
「ち!ちがうもん!起きるタイミングがなかっただけ!」
アイリは飛び起きて、真っ赤な顔で反論した。
シズクはクスクス笑ってアイリを抱きしめた。
「シ!?シズク君?!」
「頑張ってくれて、ありがとう。」
「うん」
「これは、お礼」
「うん」
2人はしばらくそのままでいた。
ともだちにシェアしよう!