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第29話

ならばせめて、血で汚れても目立たぬよう帯は深紅にしたのだ。 天沢は未緒に長襦袢を羽織らせた。少々丈が長いようだが、下駄を履かせれば丁度よいだろうと思った。 この館では処女によく履かせる下駄がある。 花魁がよく履く下駄だ。 底が高く、下から十センチあろうかという下駄だ。 橋を渡るときにはコツンコツンと優美な音がなる。 今日この子が行くのは小川が流れる橋を渡った個別の荘地だ。 後で歩き方を教えようと天沢は思った。せめてその橋を下駄で優美な音を奏でられるようにと。 下駄の事を思い用意された品を見るに、その底の高い下駄が見当たらなかった。 「要君、下駄は?」 「あ、…申し訳ありません。忘却しておりました」 いつも優秀な助手にしては珍しい事だった。 「あの底の高いやつ、花魁が履いているみたいなやつを頼むね」 「申し訳ありませんでした。只今お持ち申し上げます」 と慌てて部屋を出ていく要。珍しい。いつもは隙がなく、慌てるさまなど見た覚えがない。何か思うことがあったのだろうか?と天沢は考えた。 目の前にいる未緒に目を向ける。要君がこの館に連れてこられたときは、このくらいの身長だったかな。自身と重なる部分があったのであろうと思考が過った。 長襦袢の結び目を結び、布一つ羽織った未緒に尋ねる。 「着物は自分で着付けられるかい?」。 「…貝の口でしたら出来ますが…」

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