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第30話

「それでは初夜の色気には足りないかな」 用意された着物は最上級の品物だ。 それを後ろで貝の口などという、一般庶民の帯結びではお客の前には出せない。 貝の口結びとは一般的に後ろに廻した帯を一結びしただけの在り来たりな一般的な帯締めだ。 それは町行く町人やそこいらの村人が巻く帯の結び目だった。 「二回目以降ならそれでもかまわないという嗜好の方もいるけれど、今宵は着物の指定をなさっているお方だ。帯も華やかな結びにしないとね」 天沢は要が用意した帯に目をやった。 「う~ん、ここは華やかに文庫結びにしてみようか」 最近吉原辺りで流行りしている流行りの帯の結び目だ。 帯の羽を上にあげてふわりと広げると華やかな印象になる。 結び目は後ろにして、蝶の羽のような形になる。 この結び目なら、太刀役も帯を解け易いだろうと思った。 未緒の体にその白い生地をあててみた。 「君は白が似合うね。白い肌が一層陶器のようだ」 こんな上等な着物、着たとこがない。 別次元に脚を踏み入れている事を未緒は実感した。 「…あの、ふんどしは付けないんですか?」 「この館では受け子にふんどしは基本付けないよ。色気が削がれる対象となっているのだよ」 素股に深紅の長襦袢姿の未緒は、前を隠すように裾をあてがった。

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