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第31話

「さあ、その姿では寒いでしょ。要君が選んだ着物を着ようね」 壁に吊るされた白い着物を未緒に羽織らせた。 「腕を通してごらん。うん。処女に相応しい反物だね。じゃあ、後ろを向いて。帯を整えるからね」 腹を帯でぎゅっと締められた後、素早く腰に廻された帯を文庫結びに仕上げた。 「うん。可愛い、可愛い。最高の出来じゃあないかな」 そこへトントンと二回部屋のドアを叩く音がした。 「要です。下駄をお持ちしました」 「はい、は~い、こっちは出来上がっているよ。おいで」 ドアを開けると、そこには先程まで質素な着古した木綿の着物を着ていた少年とは思えない未緒が立っていた。 「どう、これ要君!いい出来栄えでしょう!」 白の着物の奥から見える深紅の紅が、まるで手の届かない高級な品を包んでいるようだ。帯締めの金も高級感を醸し出していた。 要は先程用意し忘れた通常遊女が使用する下駄を天沢に差し出した。 「着物との丈は合いますでしょうか?」 「うん。いいじゃあないかな、未緒ちゃん履いてみて」 艶々した黒く底の厚い下駄を履いた。 両脚を履けたときだった、突如バランスを崩して天沢の胸に寄り掛かってしまった。 「す、すみません」 いつも薄い草履を履いていたので、下駄の底の高さの感覚に体がついていかなかったのだろう。 「大丈夫かい?」

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