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第12話
単語で喋るスーパーでの買い物だったり、郵便物の受け取り、もちろん仕事も一人では成り立たないし生きていけない。
ただ、深く関わるのが苦手で、避けていた。
体だけの関係なら大学時代に経験しているので、もう必要ない。
藤巻はきっと、もっと根本的に玲也と付き合いたいのだろう。言葉の端々からそんな気配が伝わって来ていた。
だから、避けた。
その点、椎奈は仕事で来ているので個人的な詮索は全くしてこない。
その距離感の間合いがとても心地良いと感じていたのだ。
椎奈がマンションのエントランスで呼び出しのチャイムを鳴らしたのは週明けのやっと青空が見え始めた午前の昼前の頃だった。
自動ドアのロックを解除し、玲也の住む八階まで来るのを玄関のドアロックを外して待つ。まだ理性は保たれていた。酷い時には何も手につかないので、管理人に開けて貰うこともある程だ。
いつ始まるのかわからないので常に傍にいて欲しいし、それだけで安心する。
「おはようございます」
椎奈が丁寧に挨拶をする。
「おはよう」
こちらはややフランクに言葉を返す。
「暫くお世話させて頂きます。まだ大丈夫そうですね。ゆっくり休んでいてください。朝食は摂られましたか?」
「食べました」
「じゃあ、昼は俺が作りますね」
ダークブラウンに染めた髪色で大きな瞳はコンタクトレンズが入っているのだろう椎奈はテキパキと室内の様子を見回して、必要な物と不必要な物を選別していた。年上のはずだが、綺麗な顔立ちは年齢を感じさせない美しさを保ち、柔和な雰囲気を醸し出していた。
aの椎奈に対しては甘えたい欲が出てくる。
冷蔵庫を覗き込む椎奈の少しだけ背の高い背中にしがみついてはaのにおいを嗅ぐ。
「甘えたさんですね、時津さん」
「うん」
甘えたかった。すがりたかった。強い自分であろうと普段から気を張っているぶん、世話を焼いてくれる椎奈にだけは素直に甘えることが出来た。例えそれがかりそめのものだとしても、この2LDKでは恋人ごっこをすることが可能だった。
冷蔵庫の扉を閉めて振り返った彼から強い抱擁を受けながら口付けられる。舌先で絡め合い、次第に深くなっていく。とても気持ちが良い。
グレーのドレープカットソーの上から胸の突起をなぞられただけで腰が砕けて彼にしがみついて触り心地の良いラグを敷いたフローリングに押し倒された。
「前来た時よりにおい強くなってますよ。何かありました?」
「ふぇ?」
「俺より強いaでもいました? 妬いちゃうなー」
揶揄うように言葉が紡がれる。
「何言ってるんですか。椎奈さんが一番ですよ。リピーターしてるじゃないですか」
「良かった」
そうして、爽やかに笑う顔が本当にタイプだった。気さくで言葉の半分に笑いを含んだような喋り方をする人で、店にいるaは大抵ガツガツと攻めるタイプが多く、椎奈のように柔和な人は珍しいのだ。
まろやかな攻め方。
下から見上げると軽く小首を傾げて微笑まれ、首筋に沿うようにその唇を這わせて気紛れに強く吸い付いては胸を弄っていた手が下降して柔らかくペニスに触れて、手遊びのように撫でられた。
少し顔が離れて玲也の髪を撫で梳いてくる。その全てがΩの玲也にはとても甘美なものとして膨れ上がっていた。
「お仕事、大変なんでしょう?」
「もうとっくに慣れたよ」
「抜く時間取れてます?」
「ん……一回だけ」
「ヒート以外でも、ちゃんと抜いてくださいね」
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