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第28話

「そのにおいは反則ですよ」 「圭くん、圭くん……」  うわ言のように名前を呼んで愛しさをつのらせる。それだけでは足りないくらい愛して欲しかった。 「おしり、いれ……ァあ!」  最後まで言い切る前に突き入れられた熱いペニスはしっかりとした質量を伴っていた。 溶けたアナルにずぷりと入れるのは容易だったようでその熱量に付けられたスキンは極々薄いものだった。  擦られる気持ち良さに抱き付く力が抜けてベッドへ横向きに倒れ込む。 それでも腰を掴まれてガツガツと攻めてくるものだから堪らずに腸液が漏れ出して留まることを知らない。  ただ喘いでいるだけだったが、自然と彼自身を離すまいと肉襞で締め付けていた。そして前立腺を擦られたところで堪らずにまた吐精してしまった。  随分と薄くなった精液を指先で掬った藤巻がそれを舐め取るのをぼんやりと眺める。  波間を彷徨っているかのように不安定ながら心地良い感覚に酔い、満足感を抱えて再び眠りについたのはうっすらとした雲が広がる朝と昼の狭間のことだった。    夢を見た。  周りにいた人が一人、また一人と去っていく夢。それは何度も繰り返し見てきた夢だ。最後には一人きりになってうずくまって暗闇の中で目が覚める。  とても夢見が悪く、また、見覚えの薄いデザインのかけ布団にどこにいるのかわからずに慌てて身を起こすと体の中心に鈍い痛みが走り、痛いと呟いた。ゆっくりとした所作で周囲を見回すと昨日から世話になっている藤巻の自宅だったなと思い出す。  独特のテンポで響く音楽に身が引き締まるように、昨日までとは明らかに感情が異なっていた。  そして、何も挿入されていない後孔に不満がつのる。彼が眠っていたであろう、片側のベッドには温もりが残っておらず随分前に起きたらしい。枕に顔をうずめると彼のにおいがして、おざなりに着せられているバスローブの裾から手を侵入させて指でアナルの周辺を優しくほぐしていく。  手首の柔らかな手錠がどこに繋がっているのかなど知らない。  後処理のされたらしい箇所はいとも簡単に腸液が漏れ出して飲み込む準備は万全になる。 数本飲み込ませた指でぐちゅりと中を擦り上げれば、ひたすら気持ち良くて何もかもがどうでもよくなった。  ただ、彼のにおいと孔を埋めてくれるものが欲しい。ただそれだけ。  自分で持ち込んだ荷物の中にあるそこそこの大きさのある男性器を模した玩具を取り出し、ベッドの上で慣らす必要もないとずぼっとカリの部分を埋め込んだ。  一瞬だけ息がつまる。  空気を吐いて吸って体が緩んだところで改めて少しずつ挿入していく。この瞬間も好きでたまらない。  勿論人間と比べると人との方が好きだが、主導権を持って行かれてしまうので自分の意思でゆったりと抜き差しをするこの作業が好きだった。  奥まで挿入したところでやっと落ち着き、緩くバイブレーションをかけてみる。体温は残っていないが、彼のにおいで満ちるこの空間で使われた形跡のタオルを見付けて鼻に近付けるだけで興奮した。  緩く勃ち上がりかけていた自身のペニスをゆるゆると扱いてやると直ぐに硬くなった。 「玲也さん」  急に声がかかり、一人遊びに没頭していた玲也は驚いて、バスローブを捲り上げて前と後ろを好きなように虐めていた手が止まった。 「そんな風に遊ぶんですね」  優しい笑みで綺麗な顔を向けられて正直反応に困った。 「一人にするから」  少しだけ拗ねたように返す。 「すみません。眠っていたのでその間に買い物を済ませておこうと出かけていました」 「お願いだから一声かけて。一人は嫌なんだよ」 「……一人じゃなくて、俺がいないと嫌なんでしょう?」 「圭くんがいないと寂しい」 「そう。それで正解です」  言われて初めて気付いた。  誰でも言い訳じゃない。

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