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第32話

「そうですね」  違うにおいを纏った藤巻にそれ以上触れることはせずに、彼のマンションへ共に帰る。その私物だけは彼のにおいに満ちていて、思い切り抱きしめて胸いっぱいにその芳香を吸い込んだ。それでやっと安心する。  着替えてリビングに戻ってきた藤巻はそんな玲也に何も言わずに、後ろから抱きしめて首筋に噛み付いた。ビクリと身を震わせて振り向けば唇を奪われた。舌先をねとりと絡められ、かっちりと着込んだシャツの隙間から手が差し入れられた。そして胸の突起を執拗になぞる手付きにゆるりと腰が揺れる。少しずつ硬くなっていくそこを転がしては引っ張られれて気持ちが良いと声が漏れた。 「圭くん」 「どうしました?」 「俺のこと、好きって言って」 「好きですよ。愛しています」 「ありがと……っひ」  捲り上げられたシャツは、くしゃくしゃになっている。それは良いとして、いきなり彼の口で胸の尖りが吸われ、息がつまる。そのまましゃぶられ、変な気持ちに拍車がかかった。好き勝手に腔内で舐め尽くされている。 「ん……、駄目。虐めないで」  すっかりスラックスを押し上げているペニスが痛い。屈み込んで胸元に顔をうめている彼を押し倒して勃起している性器を彼の腹へ擦り付ければ嬉しそうに笑われた。ずるずると腰を動かされれば熱く硬い彼の性器と布地越しに触れて擦り合った。  恥ずかしいとかいう感情は一切なく、ただ快感だけを追い求める獣の状態だ。  スラックスと下着が一気に下ろされ、飛び出した性器を優しい手付きで扱かれるので、同じように彼の下肢も剥ぎ取り自分とは比べ物にならない太長い性器を握って擦る。  その一連の流れに言葉は一切必要なく、体だけでなにを求めているのか全部理解していた。  自身の先端から溢れた先走りが藤巻の手を汚していく。それでも離さずにその体液を塗りたくられ、それだけでぞくぞくと感度が増していった。  ぐちゅりと内壁を擦りながら挿入される空気と体液が混ざり合った音が、そこそこ広いベッドルームに響く。そこに広がるのは淫猥さだけで、他に必要なものは全てクリーム色の壁に吸い込まれてしまった。  自重で飲み込んでいく熱い肉棒で満たされていた。昼間の冷や冷やとした感情を取り払うには十分な性交だった。  後は腰を振って好き勝手に気持ち良いところを虐めてやればそれで良かった。それで良いが、下からも突き上げられ上半身を支えられずに傾ぐ。咄嗟にラグに手を付いて体勢を持ち堪えさせる。  下からくつくつと笑われる。 「笑わないでくれないかな」 「あんまり可愛いから」 「酷いな」 「酷いことをしたい気分なんです」 「……っンあ」  本格的に付き合げられれば肉同士がぶつかる音がして呼気と共に甘ったるい声が漏れた。  あっけなく達して彼の放つ体液がゴム越しに出されたのが伝わった。服を汚さないように気を配ってくれたのだろう。きちんと抜いてゴムを縛るのを横目で眺める。  脱力感で動けないが、汗でべたべたになった体を清めたい願望はあった。中途半端に脱がされた衣服を脱ぎ去り立ち上がろうとするが、足腰に上手く力が入らずにへたり込んでしまった。 「ちょっと待ってください」 「洗ってくれるの?」 「もう一回付き合ってくれるのなら」 「若いなぁ」 「1つしか歳違わないじゃないですか」  夜が少しだけ心地良く感じるのは、何も若い感性のみの特権というわけでは無論ないだろう。その時間帯により一層自意識を発露出来ると錯覚するのは、電気を消した暗がりの中に、指先の、爪の白い部分から溶けてしまうように感じるからで、精神性と肉体性の反比例の加減のことを玲也はぼんやりと考えている。  流されるまま衣服を脱いだ彼と繋がり、抱きかかえられるように浴室まで連れて行かれもう一度激しく求められ、意識が霞んでいき、次に目を覚ますと翌日になっていた。  日の出の早いこの頃、カーテン越しに透過された陽光が差し込んでいる。朝方でも過ごしやすい気温で薄い掛け布団さえあれば充分だった。隣を見れば端正な顔の藤巻が静かな寝息を奏でながら眠っていた。その腕の中に包まれている。嬉しいなと思う。今日と明日は休日のため、のんびりと過ごすことが出来る。と言っても腰に鈍く残る怠さからほとんど動けないだろうことはわかっていた。

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