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第37話
いつだったか玲也がそんなことを言っていたのを思い出しつつ帰りの電車に揺られながら思い出していた。
Ωは特別扱いはされても、どこまでも卑下される対象なのだ。そして地位的にも低い所を右往左往するしかない。そこから脱却するには並大抵の努力ではなし得ない。
それは藤巻も重々わかっている。
同じマンションに帰宅するようになって油断していた。鞄から端末を取り出して着替えに別室へ行っている間にリビングから玲也の声が聞こえて来た。
「どうしたんですか?」
「これ、何?」
玲也は例の可愛くラッピングされた包みを鞄の隙間から見付けてしまったようだ。
嘘をついても仕方ない。
「今日、姫宮さんから貰った」
「へぇ、手作りで特別感満載だねぇ」
玲也はごろりと寝転がりながらそれを眺めている。見られるべきじゃなかった。余計な詮索こそしてこないだろうが、余分な嫉妬を抱かせてしまう。
「気にしないで良いですよ。彼女にも興味のある素振りは見せていないし、玲也さんが気に病むことは何もないから」
彼の手から包みを取り上げると、両肘をついて見上げてきた彼の視線と重なる。
「こうやって隠れてやり取りしているから圭くんも言い寄られるんだろうね。いっそのこと周りに言っちゃおうか」
驚いて彼の視線から目が離せなくなった。
今まで黙っていることが決まり事のようになっていたので、それを覆すと言うのだ。驚かずにはいられなかった。
「俺は良いけど玲也さんは嫌じゃないの?」
「人の意見を勝手に決めてた? 良いよ。その方が変な心配もしなくてすみそうだし」
嬉しかった。
嬉しくて気が付くとフローリングの床に敷いたラグに膝をついて彼を思い切り抱きしめていた。
胸の中で苦しいと小さな声で言う彼の存在が愛しくてたまらない。そのまま小さく口付けて、互いに笑い合った。
お互いの両親にも合わせると話し、いつ挨拶に行こうかと相談する時間が楽しかった。
いきなり付き合っていると言うと驚くだろうか。
「会社に言うんだから親に言っても平気だよ。どのみちわかることを隠す方が俺は嫌だな」
「そういう所は男らしいよね」
関心する。
「圭くんは謙虚だよね」
「そうかな。……確かに強気に出たのは告白した時くらいな気がする」
「あと恋人ごっこの時もね」
「ほとんど本気で口説く気でいましたから」
「はは。うん、惚れてた」
「ねぇ、玲也さん。会社で公表したらもう少し広い部屋を借りて一緒に住みませんか?」
「同棲?」
「今もほとんど家から会社に通っているようなものだから家賃勿体ないでしょう?」
「そうだな、それも良いかも」
のんびりと返答する彼に答えは急かさせない。今はこれからの生活を楽しむことだけが脳裏を占めていた。
共に過ごせることの喜びを何よりも大切にして生きていける。
明日にでも朝礼の場で言ってしまおうと二人で決め、仕事着から持ち込んでいる部屋着へと着替えた玲也は、自分の家のように勝手知ったると言わんばかりに共に夕食を作り、シャワーやら歯磨きを済ませて一緒に眠った。 もうそれが自然であるようにここ数週間続いているルーティンワークとなっているので、何の違和感もない。
おやすみと言って眠りについた。
翌朝も普通に朝食を一緒に作って食事をし、身支度をととのえて同じ電車で出かける。昨晩話したことは、お互いの頭の中で何度もシチュエーションを繰り返しているようで、一言も話の折に触れることはなかった。
立場的には玲也の方が上のため、会社に着くと荷物を置き、上役に話して来ると言い残して行ってしまった。
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