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第45話 お城勤務(1) 傀儡工房の本気
かつてカブリア王国と呼ばれていたその領域を流れる、テイム川の岸辺でも、一夜が明けていた。
おぞましい瘴気をはなつ死霊傀儡工房の村で、職人天使達はその目に闘志をみなぎらせている。
職人天使達がいま、蔵の奥から出してきたのは、漆黒の壺に入れられた、傀儡魂 の原型だった。彼らが『原液』と呼ぶもの。
赤く発光する液体だった。
「まさかこれを使う時がやってくるとはな」
職人天使の一人が緊張の面持ちで唇をなめた。別の天使がうなずく。
「遥かなる天界から持ってきた、貴重な上物 だ。作るのに三年もかかる、逸品モンよ。これを使って……」
「ああ、絶対に殺してやる。アレスとレリエル、待っていろ!」
※※※
アレスはレリエルを伴ってトラエスト城に登城した。
キュディアス、ヒルデを交えた四人で早朝の小会議が行われた。そこでレリエルの立場が定まる。レリエルの所属はヒルデを長とする宮廷魔術師団だが、アレスと共に死霊傀儡討伐にあたるので、天使捜査任務を担う第四騎士団に出向という形になった。
午前十時ごろ、アレスとレリエルは第四騎士団の野外訓練場に向かった。中では既に他の騎士団員たちが訓練している。
訓練場に入るとき、石壁の門のところでシールラに出くわした。箒ではき掃除を終えて出て行こうとするところらしかった。
アレスは怒りの表情でつかつかと歩み寄ると、紙袋に入れたメイド服を突き出した。
「これ、返します!なんでレリエルに着せたんですか!」
「わあアレス様!どうですか昨夜は盛り上がりましたか!?同棲初夜の熱いひと時を演出したシールラを褒めてくださいな!」
シールラは自分の顔を両手で包み、目を輝かせて聞いてきた。
「何一つ盛り上がってません!」
ムスッと言い切るアレスに、シールラは大きな目をますます大きく見開く。
「ええっ!?ま、まさか、何も起きなかったっていうんですか!?一晩共に過ごして!?やだアレス様、ほんとにボッキフゼン……」
「だから何考えてんですかあなたは!」
食って掛かるアレスを、レリエルが戸惑った様子でいさめる。
「なんで怒っているんだ?貸してもらったのに言い方がきついぞ」
「レリエル様、優しいですぅ!シールラもアレス様がなんで怒ってるのか全然わかんないですう!」
「ぐっ……」
アレスはこみ上げる苛立ちを懸命に抑えた。
「と、とにかく、二度とこういうのやめてください!」
アレスは紙袋をシールラに押し付けると、肩を怒らせ訓練場の中へと入って行った。
※※※
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