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第51話 キリア大聖堂(4) 硬い傀儡魂

 アレスの声に反応し、死霊傀儡の動きがピタリと止まった。  その赤い目がいきなり三倍くらい光度を増した。    巨大鳩が、すっかり廃墟と化した円の神殿のはじっこに舞い降りる。  死霊傀儡は鳩から地上に飛び降りたアレスとレリエルに振り向いた。  その姿を認め、歓声をあげた。 「フオオオオオーーーー!アレす!れリエる、見ツケたーーーー!!!」  喜びで活性化したのか、ひき肉のようになっていた肉片が、すごい速さで死霊傀儡に集まった。  両脚も、短くなっていた右腕も一気に復活し、むくりと起き上がった。  レリエルがその巨体を呆然と見上げた。 「こっ、こんな大きい死霊傀儡、初めて見た!」  死霊傀儡が右腕を振りかぶった。と思うやその巨体がジャンプした。  ドシンという轟音とともに、一飛びで目前まで来た闇色の巨体。  そのどでかい拳が、アレスの頭上めがけて振り下ろされる。 「くっ……!」  すんでのところで、アレスは剣で拳を受け止めた。  とてつもない重量だった。  遠目に放心していたミークが息を飲んだ。 「あ、あの化け物を剣一本で支えてる!?あれがカブリア王国の聖騎士様!噂どおりのド超人っっ!」  死霊傀儡がグリグリと拳を剣に押し込んで来た。  アレスの腕はぷるぷると震え、額には脂汗がにじみ出ていた。  踏ん張る両足が、ズズと後ろに滑る。体ごと押される。  アレスは息を整えながら、技名を唱えた 「——炎斬剣(ザン・ガエン)!」  途端に、ただの神霊剣が燃え盛る炎の剣に変化した。  剣技と魔法の組みわせ、「魔剣技(まけんぎ)」。  剣と魔法を極めし者、すなわち「聖騎士」のみが使える技である。 「フンガッ!?」  剣に拳をめり込ませていた死霊傀儡は、熱がってその拳を離した。  アレスはその足元に走り込んだ。  のこぎりで巨木を倒すように、巨大な足に刃を垂直に入れたまま、走り抜ける。  そして一気に切断。 「グガアアアアア」  片足を失い敵は吼える。  アレスは瞬時に踵を返し、もう片方の大足まで駆け込むと、また一太刀で駆け抜けの大切断。  両足を失い、倒れくる巨体を俊足で交わし、 「——風魔法(ウェンディノ)跳躍(ローカスト)」  術名と共に軽く十五メートルは飛び上がると、上空からその巨体めがけて落下する。  落下のエネルギーと共に、縦一閃。  その巨体が真っ二つに分断された。 「あわわわわ、俺一体今、何を見ているんでしょう、これは夢でしょうかっ」  ミークがアレスの超人っぷりにおののいている。  死霊傀儡を切断しながら着地したアレスは、ふうと息を吐き、レリエルを見た。  そこには、両腕を突き出し、顔をしかめているレリエルがいた。 「?どうしたレリエル?」 「こ、この傀儡魂(ギミック・セフィラ)、硬い……!破壊できなったっ……」 「なに?」  アレスも霊眼を発動させ、「見る」。アレスは眉をしかめた。 (なんだこれは)  赤い傀儡魂(ギミック・セフィラ)にあやしい黒いつぶつぶがくっついていた。  こんな傀儡魂(ギミック・セフィラ)は見たことがなかった。アレスはいままで、死霊傀儡への(セフィロト)攻撃は全てレリエルに任せていたが、後学のために毎回、霊眼の発動と観察は行ってきた。こんなのは初めてだ。    アレスもとりあえず一発、放つ。魂を破壊する呪殺の念。 「破魂(クリファ・セフィラ)!」    効果を凝視した。  透明な球体が赤い傀儡魂(ギミック・セフィラ)に触れる寸前、粒子(つぶつぶ)がアメーバ様に形状変化した。  分厚いアメーバは、赤い傀儡魂(ギミック・セフィラ)全体を黒く覆い隠した。  透明な球体が通り過ぎると、傀儡魂(ギミック・セフィラ)を覆っていたアメーバはシュルシュルと縮んで、粒子に戻った。  傀儡魂(ギミック・セフィラ)は傷一つついていなかった。  粒子がまるで微細な生き物のように、傀儡魂(ギミック・セフィラ)を守ったのだ。  そうこうするうちに、アレスのばらした死霊傀儡の肉片は、もう寄り集まり形を成し始めていた。 「なんだあの、つぶつぶ……!そうだ、氷結させられないか?」  アレスは手の中に冷気の塊を作った。 「レリエル!今からあいつを凍らせる。凍ったら(セフィロト)攻撃してくれ!」 「わ、分かった!」 「極大氷結玉(テラ・クリンガ)!!」  アレスの手から放たれた巨大な冷気の玉が、今まさにその形状を復活し赤い目を光らせたばかりの死霊傀儡に直撃する。  見事、氷結。瞬時に凍りついた。  巨大な死霊傀儡は氷の像となった。  ミークが口をあんぐり開けた。 「詠唱もなしで極大魔法!?しかもあの馬鹿みたいな威力!?」  続けざまにレリエルが、 「傀儡魂(ギミック・セフィラ)、破壊!」  レリエルの攻撃を受ける傀儡魂(ギミック・セフィラ)の様子を、アレスは固唾を飲んで観察した。しかしその期待を込めた顔が、悔しさに崩れて渋面となる。  体は凍結しても、あの「つぶつぶ」は凍結させられなかった。  再び、粒子はアメーバ化して傀儡魂(ギミック・セフィラ)を覆い隠し、守りきったのだ。  アレスはいらだたしげに、右の拳で左の手のひらを打った。 「くそっ!一体、どうすれば……!」

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