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第56話 繋がる川(2) レリエルの豹変 (※)
言いながら、レリエルはすくと立つと、服を脱いでいく。
「レ、レリエル何を!」
慌てて立ち上がったアレスの目の前、レリエルは全てを脱ぎ捨て一糸まとわぬ姿になった。
緑の中に浮き立つその白い裸体、淫靡な目つき。まるで森に住み男を誘惑するという好色な女妖精のようだ。
レリエルは自らの後ろ、つんと上を向く情欲そそる丸い双丘に、指を這わせた。
そして夢見るように目を細めながら、指を割れ目に差し入れる。
ぬちゃり、という水音がした。
自分で後孔をいじりながら、レリエルは口角を上げる。引き抜いた指を、アレスに見せ付けるように前に掲げた。
指の間で、淫らな蜜が糸を引いた。朝露に濡れる蜘蛛糸のように。
「その大きくなってるの、僕のこの中に入れて。入れて、注いで。アレスの遺伝子」
「っ……!」
アレスは理解する。半分天使であるレリエルが、下界で定期的にしなければならない「ある事」の中身を。
レリエルが必要としているのは血肉ではない、精液だ。
天使は人の精液を摂取することで、人の遺伝子を取り込み、環境適応するのだ。
この甘い匂いは、人のオスを誘惑し勃起を促すフェロモンのようなものだろう。
アレスは今、捕食者にとらえられた獲物も同然だ。
(駄目だ、そんなことしたら。レリエルは今、正常な精神状態じゃない)
アレスは必死の思いで首を横に振った。今この瞬間にもレリエルを押し倒し、獣のように犯してしまいそうな自分を懸命にいさめる。
「で、できない……!」
それはこんな風に本能の奴隷になって行うような行為ではない、と思った。性行為というのはもっと……。
レリエルがショックを受けた顔をする。アレスにしがみついて両腕を揺さぶった。
「なんで?なんでしてくれないんだ?」
フェロモン物質を撒き散らしながら全裸でしがみついてくるレリエルから、必死に顔をそむけた。
「こ、こういう行為はなぁ!け、結婚してから、行うものなんだ!レリエルはその、どう……思ってるんだ、俺のこと……」
頭の片隅で、そんなことにこだわってる場合じゃないだろう、と心の声が囁いた。
レリエルを死なせるわけにいかないのだから、アレスの遺伝子を摂取させてやらねばならないに決まっている。選択の余地などない。
分かってはいたが、その行為の前に「レリエルの気持ち」を確かめずにいられなかった。
天使と人間、男と男、そもそも結婚できる関係ではないが、でも大事なのは心だ。
前からうすうす気づいていて、今はっきりと自覚した。「行為」を前にして自分の気持ちは定まった。
レリエルと結婚したい。
制度としては無理でも精神的な意味で。
人間と天使とか、男同士とか、敵同士とか。そう言った諸々のこと全て、どうでもいいと思った。
それでも自分は、レリエルを生涯の伴侶としたい。
ずっと思っていた、強がる素振りの内側に垣間見える深い孤独を、自分が埋めることができたら、どれだけ幸せだろうと。生涯そばにいてレリエルを愛し、守り、慈しみたい、と。
でもレリエルはどうなのか。
そこをはっきりさせないままで、こんな行為はしたくない。
レリエルは泣き出した。
「ケッコンってなんだ?お前が何を言ってるのか分からない」
「さては結婚制度がないな天使!」
「いいから遺伝子をくれ!」
レリエルはしゃがむと、アレスの腰をまさぐって、脚衣を無理矢理ずり下げた。
立ち上がるものが空気に晒される。
「ちょ、待てっ!」
大きく立ち上がるその屹立の根本を見て、レリエルが驚き、目を見開く。
「もしゃもしゃしてる……」
涙が一瞬で乾いたようだ。
「悪かったなっ!」
「でもおいしそうだ」
そう言って、にこりと笑い、血管の浮き立つ凶悪な幹を綺麗な手指できゅっと掴む。
「なっ……」
レリエルは愛らしい口を開けると、躊躇無く先端をあむとくわえた。
「!!」
自分の手以外触れたことのなかった敏感な場所が、初めて味わう甘美な感触に包まれる。ぬるつく温かい口内の、なんと魅惑的なことか。
ペニスは一気にその嵩を増し、レリエルの口の形も合わせて広がる。だがレリエルは苦しがるどころかうれしそうに目を細めた。
咥えたまま、裏筋の感触を楽しむようにちろちろと舌を動かす。
「ッ……!」
強烈な快楽に腰が震えた。
レリエルはまるで飴でも舐めるように、
「おいしい……」
と囁いた。さっきよりも大きく口を開けて、アレスのペニスをくわえ込む。その口は深く深くアレスの猛りを飲み込み、上下する。小さな舌があちこちを舐めて甘い快楽を与え、同時に唇が力強く陰茎を締め付け、しびれる様な快感を容赦なく加えてくる。
「くっ……」
抵抗などできるわけもなかった。
アレスは己の屹立を愛撫するレリエルをただ凝視する。とてつもなく淫らで、愛おしい。止められるわけもなく、快楽を享受してしまう。
だが自らの先端がレリエルの喉奥に当たるのを感じ、どきりとした。痛くないのか、苦しくないのか。
レリエルは微笑みながら、喉奥でアレスのペニスを締めてくる。
「ハッ……!」
とてつもない快感がアレスを肉欲の虜にさせる。もう何も考えられなくなった。レリエルの強烈な口淫は、アレスのそれをあっさりと陥落させる。
アレスの腰がぶるりとわななく。精液がアレスの管を駆け上る。
レリエルの口内に、大量の白濁が放たれた。
レリエルは恍惚の表情で、注がれた全てを飲み下した。喉をならして嚥下する。じっくりと味わうように唇を舐める。
その舌はアレスの放ったものにまみれて白く変色していて、ひどく卑猥だった。
アレスは息を荒げ、罪悪感を感じながらそんなレリエルを見つめた。だがレリエルは口の端をぬぐいながら、ニコッと微笑んだ。萎れていた背中の羽が、張りを取り戻しつつある。
「おいしいぞ!もっとくれ!」
まるでお菓子の催促をするように、幼げに首をかしげるその姿。淫猥でありながら純粋なその姿は、まさに天使のようで悪魔のようで。
アレスの腹の奥で、放出してもまだまだ収まらない欲望がふつふつと粟立つ。
アレスは奥歯をかみ締めた。
(もう……いい!)
着たままだった騎士団の濃紺コートも下のシャツも、もどかしく脱ぎ捨てた。中途半端にずりおろされていた脚衣も。
筋肉質で上背のある雄らしい骨格の肉体と、どこか女性を想起させる小柄な肉体が、裸で向かい合う。
アレスはレリエルの全身を穴のあくほど見つめる。
どんな美女より美しい顔、純白の肌、伸びやかな四肢、無毛の股間、小ぶりな陰茎。
飛び掛るように、草むらの中に押し倒した。
獣欲に支配され、ギラギラした目つきで自分を見下ろすアレスに、レリエルは無邪気に笑いかける。
「よかった、してくれるんだな!いっぱい遺伝子を注入してくれ!」
アレスはレリエルの両肩を抑え、唸るように言う。
「分かった、やるよ、注いでやる……!」
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