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第114話 あと三つ
ミカエルの派手な勅令により、神域内は一気に騒然としていた。
天使達は次々、人間とレリエルが潜伏していると思われる北部の森に飛び立ち、次に狙われるだろうプラーナ窟の防衛に向かった。
指示を出していたラファエルは、探索に向かう天使たちの姿を見送ると、すっかり静かになった王城前広場で一息ついた。
(ったくミカちゃんめ、勝手にこんなことしちゃって……)
「ラファエル!先ほどのラッパの音はなんだ!」
後方の上空からルシフェルの声が聞こえて、ラファエルは胃が痛くなる。
(ほら来たじゃーーーーん!)
ラファエルは引きつった笑顔で振り向いた。
ルシフェルが上空からすっと降り立つところだった。
「ルシフェル様!はいその、実はミカエルが全天使に勅令を出しまして、人間とレリエルを殺せという……」
「なんてことを!」
ラファエルは制帽を脱ぐと、腰を直角に折り曲げて全力で謝った。
「申し訳ございません!うちのミカエルが超絶バカでほんっっっとうに、申し訳ございません!弁解の言葉もございません!」
「い、いや、そなたがそこまで謝らなくてもいいが……」
ルシフェルはラファエルの謝罪攻勢に気圧された様子で頬を引きつらせた。
ラファエルは制帽を両手で握り、しおらしく目を伏せながら言う。
「でも、人間とレリエルがプラーナ窟の希石 を破壊したんです。さすがに、放っておくわけには……」
「希石 ?そうか、彼らはエネルギーを断とうとしているのだな。なるほど、宮殿への転送門を開こうとしているのか……」
「えっ!?あいつらの目的は宮殿ってことですか!?まずいじゃないですか!それでも彼らを許すのですか?」
「ああ、殺してはならぬ。彼らの欲するがままにさせよ」
読み取れない表情で淡々と言うルシフェルに、ラファエルは眉をひそめる。逡巡した後、意を決して尋ねた。
「あの、非礼承知で聞かせていただきます!なぜルシフェル様は、人間とレリエルを生かそうとするのですか?侮るのは危険です、万一、天界開闢の進行に障りがあったら!」
「天界開闢の摂理の全てを、そなた方が知っているわけではない」
そこではたと、ラファエルは思い至った。一瞬、躊躇するが、聞かずにいられなかった。
「もしや、秘中の秘とされる第四段階……あの二人はそれに関わると……?」
ルシフェルはすっと目を眇めた。琥珀色の双眸が冷たく光る。
「それ以上の詮索は、そなたの命を縮めるが?」
美しい顔でさらりと恐ろしいことを言う。ラファエルはさーっと血の気が引いた。
再度腰を直角にして頭を下げる。
「申し訳ございませんでした二度と聞きません!」
「まあ、発令されてしまったものは仕方ない。これも試練なのか……」
「試練……?」
「とにかく、サタンと話し合わねば」
ルシフェルは天空宮殿を振り仰ぐと、羽を広げて転送門方向へと飛び去って行った。
残されたラファエルは、とりあえず一息つきいた。どっと疲れた。王城の中に戻ろうと踵を返した時。
ちょうど城門の奥からミカエルとガブリエルが広場へと出て来た。
「あれ!?どしたの二人して。お出かけデートぉ?」
ガブリエルはその言葉を完全に無視して尋ねる。
「今、ルシフェル様とお話ししてましたね?」
ラファエルは肩をすくめて笑った。
「さっすが、地獄耳ぃ♪」
「人間とレリエルの殺害指令、お怒りでしたか?」
ラファエルは腰に手をやって、頭に制帽を被り直す。
「うーん……。二人を殺すなって言われた。『彼らの欲するがままにさせよ』だってさ。でも指令撤回しろとまでは言われなかった」
ガブリエルは顎に手を当てた。
「あいまいですね」
「熾天使様の考えてらっしゃることは、よく分かんないねぇ」
ミカエルはふんと鼻を鳴らす。
「あんな連中、どーっでもいいね!そんなことよりラファエル、俺いい事考えたんだよ」
ミカエルが久しぶりにいい顔をして目を輝かせている。
ラファエルはちょっと引き気味に、横目でミカエルを見る。
「えー、なんか嫌な予感しかしないんだけど……」
ガブリエルがため息混じりに呟いた。
「正解ですよ、ラファエルさん……」
ミカエルはラファエルの肩に自分の肘を載せて、ニヤつきながら言う。
「残る希石 はあと三つ。絶対、あいつらそこ狙ってくんだろ?」
「そりゃそうでしょ。だから兵士たち配備したけど?」
「兵士なんてどうせ蹴散らされるだけじゃねえか。あと三つ、ちょうどいい数字だと思わねえ?」
「は?三つがちょどいい数字?」
ラファエルはニヤケ顔のミカエルをきょとんと見つめた後、言わんとすることに気付いて額を抑える。
「あ、そう言うことー!?ったく、しょうがないなぁ……」
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