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第116話 南部プラーナ窟(2) ラファエル

「お探しものは、これかな~?」  黒づくめの上下に緑のネクタイ。緑の羽に緑の髪の、美しい男。  頭の上の制帽を指でつんと上げ、もう片方の手には、銀色の丸い球を持っていた。  レリエルは顔を引きつらせる。 「ラファエル様……っ」 「困んだよねえ、大事なものポコポコ壊されると。これの原石、地球にないしどーすんのって話」  アレスはラファエルを睨みつけた。 「お前は……ルヴァーナ監獄にいた、ミカエルの舎弟!」 「違うっての!むしろ保護者だから!にしても俺が最初とはねえ。くじ運良くて嫌になるな♪」 「最初?」  ラファエルが苦笑いをしながら肩をすくめる。 「喧嘩大好きミカちゃんがね、残り三つのプラーナ窟で大天使が一人づつ待ち構えようぜーって。司令官なのに自分で戦いたくなっちゃうんだよね、ミカちゃんは」 「なるほどな……。ルヴァーナ監獄では三人いたが、今回は一人……!」  睨め付けるアレスの言葉に、ラファエルはふっと口角を上げる。 「おやぁ~?勝つ気ぃ?なめてんじゃねーぞ人間の分際で……って凄みたいところなんだけど、その前にさ。チビ羽ちゃんに聞きたいことがあるんだけど」 「ぼ、僕に!?」 「そ。もし、もしもさ。天使がお前を許す、処刑なんてしないし破格の待遇でこっちに迎えるから、代わりにその人間を裏切れって言ったら、どうする?」  アレスが眉間にしわを寄せる。 「ちょっ……なんだよその質問!」 「お前には聞いてねーよ♪」 「ああそうかい……」  アレスは舌打ちし、レリエルはぐっと拳を握って言う。 「う……裏切らない!」 「へーえ、なんで?」 「だって僕は……アレスのヨ……」  レリエルは何やらモジモジと言いにくそうにする。 「ヨ?」  ラファエルは耳に手をやって聞き耳をたてる仕草をした。 「僕はアレスのヨメ!……だから……!」 「レ、レリエル……」  顔を真っ赤にするレリエルと、感極まって胸を熱くするアレス。  ラファエルは眉根を下げて吹き出した。 「ヨメってあれか、人間の(つがい)の雌のことだっけ?あはっ。なにそれ意味わかんない!まいいや、りょーかい♪じゃあ……はい、どうぞ」  言ってぽん、とその銀色の球をアレスに投げてよこした。 「はっ!?」  アレスは慌ててその球を両手でキャッチする。全くこんな展開は予想していなかった。 「なんだなんだ!?」 「壊したいんでしょ?やればー?」 「なぜ戦わない!?わ、わかったぞこれは偽物なんだな?で壊そうとすると大爆発をする爆弾とかなんだろう!」 「疑り深いなぁ。てかお前、タフガイ過ぎて爆弾ごときで死ななそうじゃん。俺が殺した方が早いっての。一瞬でここの兵を全滅させるとか、ちょっとゾクゾクしたな♪一万人しかいない天使の貴重な兵力が減っちゃったよ」  レリエルも当惑の表情で尋ねる。 「なぜ僕たちを見逃すんですか、ラファエル様!?」 「んまあ、俺、チビ羽ちゃんのことそんな嫌いじゃないし?出来損ないと人間の恋の力がどこまでやれるのか見てみたくなった♪」 「ここ、こいのちから……」  レリエルはどもり、ラファエルはぺろっと舌を出す。 「なーんちゃってね。まあ単純な話、熾天使様の命令は絶対なんだよ。ミカちゃんはちょっと、頭に血が昇っちゃってるけどねえ。……ルシフェル様がお前たち二人を生かして神のもとに行かせたいなら、それがきっと天使の為、天界開闢の為なんだ」  レリエルは困惑の表情を浮かべ、アレスは生唾を飲み込んだ。  アレスの胸の奥からゾッとするような嫌な感覚がせり上がってきた。 (何を……言ってるんだ、こいつは?)  アレスは天界開闢を潰すためにここにいるのだ。  まさか何か罠があるとでも?  アレスは何かの手の平で踊らされているとでも、言うのか? 「あはは、怖い顔♪アレスちゃんそんなセクシーな顔も出来るんだ、いいねえ♪」  アレスはクソっと悪態をつくと、希石(コア)を放り投げた。  その瞳に苛立ちを滲ませたまま、剣を振るう。丸い石は綺麗に割れた。    ラファエルはパチパチと手を叩く。 「すごおーい、お上手~」  アレスはラファエルに鋭い一瞥をくれると、背を向ける。 「……行こう、レリエル。もうここに用はない」   「あ、ああ!」  戦闘から避難していたデポが飛んで来た。 「デポ、走るぞ」 「クルックー!」  デポはむくむくとダチョウ形態になる。アレスはまだ疲労しているレリエルを抱きかかえると、ひらりとデポに飛び乗った。 「ちょ、だ、大丈夫だよ自分で飛んだほうが……」  デポに跨って、後ろのアレスを見上げたレリエルは、しかしそこで口をつぐむ。アレスがあまりにも深刻な顔をしていたからだろう。 「アレス……」 「行け」  アレスは低い声で号令をかけ、デポは走り出す。 (俺を神の元に招き入れたいだと?)  上等だ、とアレスは思った。  望み通り神の元に参じてやる。そして必ず後悔させてやる、と。  ルシフェルが何を企んでいようと、逆にそれを利用してやるだけだ。 (俺は必ず、天界開闢を止める……!)

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