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第132話 星が生まれる

 アレスは上空まで飛翔した。  周囲を飛ぶ、異形の新生天使は、どんどんその数を増していた。  崩壊したサタンから生成された砂つぶの数は膨大だった。それらすべてが卵になり、次々と孵化しているのだ。すべて孵化しきれば、とてつもない数になるだろう。  さてどうやって、おびただしい数の新生天使達を、殲滅するか。  アレスは、あの術しかないと思っていた。    魂自壊(セフィラ・カタストロフ)。  かつてイヴァルトが行おうとしていたものだ。  自らの魂構成子(セフィラ)一つを再生不能レベルに完全崩壊させることで莫大なエネルギーを生み出す術。  半径数キロ範囲にあるもの全てが灰燼となるらしい。普通の天使の魂構成子(セフィラ)一つで、その威力。  果たして、「神の夫(ドゥムジ)」なる異形と化してしまった己の魂構成子(セフィラ)ならば、どれほどの威力があるのだろうか。  あるいは大して変わらないのかもしれないが。  まあエネルギーに不足があれば、新生天使を殲滅するまで一つずつ、自らの魂構成子(セフィラ)を壊していくだけだ。      アレスは己の胸に手を当てた。  自分自身の(セフィロト)に、耳をすまし、目をこらす。  思えば敵の(セフィロト)ばかり見つめて来た。攻撃でも受けない限り、自分の(セフィロト)を意識する事などなかった。  なぜか十一個に増えてしまっている。苦笑しか出ない。だがこれのおかげで戦ってこれた。どんな異形に身を落とそうと、勝てればそれでいい。  魂自壊(セフィラ・カタストロフ)は、自殺とは違うのだろう。  先ほど神は手から自分自身に思念波を放ち、自らの魂を崩壊させたが、それで莫大なエネルギーなど産まれなかった。  おそらく、攻撃魔法を加えずに魂構成子(セフィラ)を崩壊させねばならないのだ。  とにかく、やってみる。  思念の中で自らの魂構成子(セフィラ)をじっと観察した。  そしてそれが、崩壊することをイメージする。  自らの魂構成子(セフィラ)に亀裂が入り、亀裂が広がり、パリンと崩れ去るイメージ。  アレスの体が、青白く光り始めた。  よし、とアレスは手応えを得る。これでいいのだ。  アレスはイメージをより鮮明に脳内に描いた。    壊れる。  壊れる。  魂構成子(セフィラ)が、壊れる。  壊 れ る。 ※※※  一瞬後、かつてこの地上で誰も見たことのないような大爆発が起きた。  いやそれは、爆発というよりは星の誕生とでも言うべきものだった。  王国をすっぽり覆う、超巨大な青い火の玉が出現した。  青い火の玉は、その中のあらゆるものを瞬時に焼き尽くした。    森も、石造りの建物も、天使も。  全てのものが文字通り、「無」に帰した。  遠く離れた国々からも確認できたその巨大な輝きは、後に「地上に青い太陽が生まれた」との表現で、語り継がれることになる。  伝説として。あるいは、神話として。 ※※※

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