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第3話 出会い2 

「改めて思い出してみたけど、フィスト変わり過ぎじゃないか?」 俺は思い出しながら、ベッドに座って呟いた。相変わらずベッドに手錠で繋がれたままだ。 「あんなに男とする事を気持ち悪がっていたのに……」 時間が経っているし、考えが変わるのはあり得るがそれにしたって変わりすぎだ。 「昨日は酔ってたから深く考えてなかった……」 しかも、昨日フィストは自分から誘ってしようなんて言ったのだ。 「まあ、奥さんが妊娠してる時に浮気をする奴は多いって聞くし……単に人肌恋しくてこんな事をしたのかも……」 とはいえ、誠実で真面目を具現化したような男だったフィストが、浮気なんて信じられない。 しかし、自分の体に残る感触は昨日フィストとした事が現実だと言っている。しかも、間違いでしてしまったと言えないほど何度もしてしまった。 「朝、フィストの態度も驚いてなかったしな……」 考えても分からなくて、ベッドに寝転がる。 「まあ、フィストとするのは二回目なんだけどな……でも、最初のは必要に駆られてだったしな……」 俺はそう呟き、初めてフィストとした時の事を思い出す。 *********** あれは討伐に出て数日たった後のことだった。 「今回は随分多いですね」 俺は今さっき倒したディアボルスの処理をしながらため息をついた。 ディアボルスは黒く爛れた肌で、鋭い牙と爪を持つ怪物だ。人間の三倍の大きさで、背中にある羽で空を飛ぶ。顔は見る者に吐き気を催させるほど醜くく肌に触れると火傷をしたように痛み、一噛みでもされればその毒でのたうち回り死ぬことになる。 おぞましく、恐ろしい怪物だ。 しかし、ディアボルスの処理は簡単だ。ディアボルスは殺すと、すぐに肌が溶けて体も消えてしまう。残るのは骨だけ。 ちなみに、討伐に出た兵は倒した事を証明しなければならない、だからその骨の一部を持ち帰る。 場所は顎の骨だ。その数が多くて骨が大きければその分報酬が上がるのだ。 「俺は、実際の討伐の経験があまりないのだが。そうなのか?」 「ええ、ここまで頻繁に出会う事は少ないですよ」 そうなのだ、あれからフィストと討伐を続けていたのだが、最初はほとんどディアボルスと遭遇しなかったのだが、ここ数日連日ディアボルスと遭遇するペースが上がっているのだ。 俺は考えながら言う。 「通常は一日に一匹か多くて二匹、もしくは一度も会えないことも多いんですが……最近は毎日四から五匹は遭遇しますもんね」 フィストが優秀なので、なんとかなっているがここまで多いと命の危険を感じることも多い。 「物資も減ってきているし、予定より早いが一度戻った方がいいかもしれないな」 「そうですね」 そうなのだ。食事はなんとか現地調達できても、山では手に入らないものもある。それに何よりディアボルスを倒すための弾が残り少ない。 一応あと数日は山にいる予定だったが、このままではディアボルスと対抗する手段がなくなってしまう。 俺は心の中でホッとした。フィストとはまだギクシャクしたままだ、やっとこの嫌な空気から逃れられる。 「じゃあ、それを回収したら撤退の準備をしてくれ」 「はい。まあ、これだけ倒したから、報酬も期待できそうですね」 「ああ、そう言えばヤンは金がたまったら、軍を辞めて店を持つ予定なんだっけ?」 「はい、今回の報酬は期待できそうなので、もしかしたらこれで目標達成できるかもしれません」 俺は少しウキウキしながら言った。色々あったが目標を達成できるのは嬉しい。それに今、珍しくフィストと普通に世間話ができた。もう討伐はこれで終わりだが最後に自然に話せたのはよかった。 「そうか……ん?なんだ?」 フィストが突然周りを警戒する。俺も同時に気が付いた。 何か大きなものが唸りを上げて近づいてきたのだ。 「危ない!」 「な!なんだ?」 その大きなものは突進するようにこちらに向かってきた。俺達は咄嗟にその場から避けた。 なんとか避けられたが、俺達は目を疑った。 向かって来たのはディアボルスなのだが、今まで見たことがないくらい大きな個体だった。 「まさか……魔王か?」 ディアボルスは大体大きさは人間の三倍くらいの大きさだ。しかし、たまにそのディアボルスの二倍くらいの大きな個体が現れる。 そして、その個体をディアボルスを魔王と呼んでいるのだ。 「ヤン!すぐに戦闘態勢に入れ!」 「戦うんですか?」 いくらなんでも、こんな大きな怪物相手に戦うなんて無茶だ。すぐに逃げた方がいい。 「この状況で逃げる方が危険だ。逃げるにしても隙を作らないと!」 フィストはそう言った。確かにあの体躯だとすぐに追いつかれそうだ。 そうして俺達はバイクに乗り込み立ち向かう。 「っく、早い!」 魔王はその大な体に似合わず動きが早かった。バイクでアクセルを全開で走っても距離を開けない。しかも、デコボコの道をこのスピードで走るのはバイクの制御も難しいのだ。 フィストも攻撃を加える。経口の大きなショットガンを何度も打ち込む。 反動の大きな銃でダメージを与えるが、相手が大きすぎて何も変わった様子がない。体が大きいから攻撃を外さないというのが幸いだ。 しかし、長期戦になる上に一度でも失敗すれば二度目はない。 「ヤン!そっちの林に入れ!」 「え?!」 「林に入れば、あいつの動きは遅くなる。その隙に攻撃する!入れ!」 「っ!わ、分かりました」 俺は言われた通りに林に入った。 フィストは簡単に入れと言ったが、木をよけながらバイクを走らせるのはかなり難しい。 しかし、これくらいのことをしないと、現状を打開できないのも分かる。 フィストは不必要な荷物をバイクから落しバイクを軽くする。そして、フックショットを装備し、持てるだけの武器を持つと言った。 「しばらく、あいつを引き付けておいてくれ!」 「はい!」 俺が返事をすると、それと同時にフィストはフックショットを使って木に飛び移った。 魔王はそれには気が付いていないようでそのまま、俺の方に向かってきた。 バイクは荷物とフィストの重量分が減って少しスピードが出る。 「これなら、なんとか……」 少し魔王と距離がひらき余裕が出来た。攻撃はフィストに任せて、操縦に集中する。 後は離れすぎないように魔王を引き付ける。 チラリとフィストの方を見ると軽々と木に飛び移り、魔王に近距離で弾を打ち込んでいる。 反動の大きな銃なのに軽々と扱っていて流石だ。 ほとんどの攻撃を的確に当てていっている。 「このままいけば、上手くいくか……」 しかし、その所為でこんどは魔王の意識がフィストの方に向かってしまう。 「フィスト!」 大きな声で魔王は唸り、フィストがいる木に大きな腕を振り回す。フィストは間一髪のところでなんとか他の木に飛び移る。しかし、魔王はそのまま執拗にフィストを追う。 俺はその隙にバイクを一旦止め、武器を手に取った。 なんとかこちらに注意を引きたい。 フィストが持っている物より小さいが、威力のあるショットガンを持ち撃つ。 焦っていたが、なんとか当たった。魔王は二か所からの攻撃に混乱しているようだ、動きに迷いが出る。 迷った末に魔王は距離の近い俺の方に来た。 「よし!」 俺はすぐにバイクに乗り走らせる。ついでに手榴弾も落しておく。 魔王は拳を振り回しながら追ってくる。丁度その時落した手榴弾が魔王の足元で爆発した。 運よくそれがいいダメージを与えたようで、魔王は足からくずれた。 「今だ!!」 俺はまた武器を持ち、ありったけの銃弾を打ち込む。魔王は暴れる。 フィストも木から降りて攻撃を加える。 こうなると、流石の魔王も苦しそうに暴れ始めた。滅茶苦茶に暴れて周りに木が倒れる、しかも滅茶苦茶に腕を振り回すので動きが予想できない。 「っく!弾が持つか?」 俺は攻撃を避けながら言った。もう帰ろうと計画していたのだ、弾も残り少ない。 魔王が死ぬか弾切れになるかの勝負だ。 俺とフィストは魔王の周りを回りながら攻撃を加える。 「っく!弾が切れた!」 「フィスト!これを使え!最後だ」 俺はそう言って、残り最後の弾倉を投げる。フィストはそれを受け取ると走りながら弾倉を付け替え撃ちこむ。 「っ……足りるか?」 俺も弾はもうほとんどなくなった。あるのは小さなハンドガンくらいだ。とりあえず何もしないよりマシだと思って気休めに撃ちこむ。 ガキン!という音と共にフィストの弾が切れた。 もうダメかと思ったがそれと同時に魔王の動きも止まった。そして、力尽きたように倒れこんだ。 「やった!フィスト大丈夫か?」 「ああ、なんとか……っうわ!」 ホッとしたその時、最後の力を振り絞るように魔王の腕が持ち上がった。 「フィスト!危ない!」 俺はすぐにバイクのエンジンを全開にして魔王の方に走らせる。 そして、ぶつかる直前にバイクから飛び降りた。 バイクはそのまま魔王に突っ込んだ。 その勢いは大きかったようで、魔王は大きな断末魔をあげ動かなくなった。 「ヤン……ありがとう」 「どういたしまして」 フィストは俺に近づき倒れている俺に手を差し出した。俺はその手を取った。 その時、フィストの後で何か嫌な音がした。 「危ない!」 そう言ったと同時に魔王に突っ込んだバイクのが爆発した。おそらくガソリンに引火したのだろう。 フィストは俺を庇うように覆いかぶさってきた。 「っぐあ!」 「フィスト!大丈夫ですか!」 フィストは顔を歪め、倒れこんだ。俺は慌てて下からどいてフィストの背中を見る。 「酷い……」 フィストの背中や足には色々な破片が突き刺さっていた。しかも、特に大きな破片が足に刺さっていたのだ。 「だ、大丈夫だ……」 「フィスト、喋らないで今治療します。あ、そうだ荷物は落したんだったか」 バイクに乗せていた荷物は落してしまった。しかも、当のバイクは魔王にぶつけて今、爆発した。少し残っていた荷物ももうない。 「待っていて下さい。探してきます」 俺はそう言うと簡単に止血をして、荷物を落したであろう場所に走った。 幸いにも治療に必要な応急キットは見つける事が出来た。 そうして、ギリギリながらなんとか応急処置を施すことは出来たのだった。 「傷は酷いが腱は切れてなさそうだな」 フィストは顔を痛そうに歪めながらそう言った。破片は運のいい事に大事なところは避けて刺さったようだ。 「でも、しばらくは無理に動かない方がいいですね」 なんとか魔王は倒したものの、今度は新な問題が持ち上がってしまった。 バイクは魔王に突っ込んで跡形もなくなって移動手段がない。そしてこの怪我では歩いて要塞に戻る事はできないのだ。 「ヤンすまないが。俺はここで待っているから。助けを呼びに戻ってくれないか」 「それは無茶です。バイクがないから時間が掛かりすぎる。それにこんなところに置いて行けません。危険です」 「しかし……」 そんな事を言っているうちに、日が傾いてきた。 「もう、こんな時間か……どちらにしろ、もう動かない方がいい。休める場所を確保します」 「そうだな……」 俺は急いでまた点々と落ちた荷物をかき集め、休める場所を作りはじめた。

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