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第16話 謎と理由と不安

フィストが仕事に出た後、朝食の片付けをしながら俺はフィストとの会話を思い出していた。 「今日はフィストの意外な面を知れたな……」 まともだった人が何かあって変になったのかと思っていたが、元々少し変わっていたようだ。ただ、それがあまり表に出ず、優秀な人だったから気付かれなかったのだろう。 「誰にも気付かれず、注意もされなくて、気付いたとしてもまさかフィストがそんな間違いするわけないと思われてて、指摘もされなかったってことなんだろうな……」 お皿を洗いながら、そんな事を考える。 俺は何に関しても適当で大雑把なので、こんな事になる余地もない。 今回、逃げずにフィストの元に戻ったのも、好きだと告白して押し倒したのもあんまり深く考えず行動した結果だ。 「俺も俺で、結構常識が無いな……」 改めて考思い返してみると、滅茶苦茶な事をしていた。 人の事を評価できるほど自信のある生き方はしていない。本当に適当で行き当たりばったりなのだ。 「フィストが俺の事好きなのは確実だと思うんだけどな……」 フィストの態度は俺に好意があるようにしか見えない。 本人はまったくそのつもりはないみたいだが、俺にはそうとしか見えない。 「まあ、それも可愛いと思っちゃう俺も相当変なのかも……」 不器用だが生真面目で真っすぐなあの性格は自分には無いものだ、だからこそ軟禁されても逃げなかったし、なにかと世話を焼いてしまう。 そして、そこを好きになったんだろう。 夕方になり、フィストが仕事から帰ってきた。 昨日から変だった空気は少し和らいでいる気がする。フィストはちょっとこの関係性に慣れてきたようだ。 俺はいつも通り夕食の準備をして、向かい合って食べる。 フィストの仕事の話とか、家で何をしていたとか。今度これを買ってきて欲しいとか他愛のない話をする。 食事中も明らかに昨日より和やかな雰囲気になった。 ふと、フィストが何かしらの結論を出さなくてもいいかもしれないと思う。 知りたいが、無理をする必要もない。こんな風に穏やかな時間をすごしていくのも悪くないと思う。 「本格的にここで店を探そうかな……」 ポツリと呟く。 「うん?なんの話だ?」 「いや、自分の店を持つために準備してるって言ってたでしょ?」 「ああ、そうだったな」 「ここの街に来たのも、物件を探しに来たのがきっかけでしたし。他の街でも考えていたんですけど。どうせならもっときちんと探していい物件があれば買ってしまおうかと思って……」 探すと以前に言っていたものの、真面目には探していなかった。でもこのままだとこの街にいる時間が長くなりそうだ。いっそのことここに長くいると決めて探してみてもいいかもしれない。 「なるほど、そうか。だったら、俺も応援するよ。そうだ、知り合いに不動産をしてる奴がいるから、なにかいい物件がないか聞いてみる」 「本当?ありがとう、フィストはここが地元ですもんね、心強いです」 「まあ、地元と言ってもそこまで顔は広くないから期待はしないでくれ」 食事が終わり片付けがおわると、フィストはシャワーを浴びにバスルームに入った。 俺も、食器を片付け終わると、頃合いを見計らってバスルームに向かった。 「ん?ヤンか?な、なんだ?」 フィストは俺が入ってくると、驚いて後ずさった。そして、俺の姿を見るなり真っ赤になる。 「フィストも前、俺にしただろ?」 俺はニヤリと笑って言う。 「あ、あれは……」 「これは、仕返し」 俺はジリジリと近づきフィストを壁際に追い込む。フィストは俺より大きな体のくせに、オロオロして逃げようとする。 俺は壁に手を突いて逃げられないようにして、そのままフィストの唇を塞いだ。 フィストは俺より力があるのに、素直にキスをさせてくれる。最初は軽いキス、角度を変えて何度もキスをしていく。 フィストも次第に力が抜けていった。 「フィスト、口を開けて下さい」 俺はそう言いながら、唇を舐める。フィストは顔を真っ赤にさせつつ素直に口を開いた。 すかさず舌を入れ込み、深くキスをする。 探るように舌を絡ませ、唇を甘く噛む。シャワーの水音とは違う水音が聞こえる。 俺はさらにフィストに密着してフィストの物に触れた。 フィストはビクリと体を反応させたが、止めさせようとはしない。だから俺は自分の物とフィストの物を束ね扱く。 そうすると、硬かった体もそれと分かるくらい力が抜けきた。しかし、逆に股間のものは硬く熱くなってくる。 それと同時にフィストの腕がおずおずと俺の体に回された。しかし、背中を迷うように触っているだけだ。 「フィスト、好きなところを触っていいですよ」 「っ……ああ……」 顔を上げそう言うと、迷いながらも頷く。それでもその目には確実に熱が籠っていた。 フィストの手がそろりと下の方に触れる。 ついこの間まで、何度もセックスしていたのになんでこんなに戸惑うのか分からない。 「っん……」 最初は触れるだけだったがその手は次第に大胆に奥まで探るように動く。フィストの体は熱くなっているがこちらも負けず熱くなっているのがわかる。 キスも最初はこちらがリードしていたがフィストも積極的になってきた。 「っ……は……」 息を継ぐために一度離れるとトロリと糸を引く。気持よくて頭がぼんやりしてきた。フィストの目の奥は欲望が燃えていて真っすぐにこちらを見ている。 「フィスト……ここ、入れて……」 俺はフィストに背を向けて壁に手を突きながら言った。少し恥ずかしいが見せつけるように足を開き、さっきまでフィストが解していたところを自分の手で広げる。 フィストは少し迷ったものの、ゴクリと喉を鳴らしたあと、すぐに中に入ってきた。 「っあ……」 さっきまで戸惑って遠慮がちだったのに、入れてしまうとガツガツと勢いよく動き出した。 一気に快楽が体を襲う。 「っく……ヤン……」 「っあ……あん!……あ……フィスト……気持ちいいよ」 背中を逸らしいいところに当たるようにする。何度もしているから、フィストもそれが分かっているのかガッツリと腰を掴み、そこを何度もえぐるように動かす。 「っく、ヤン!!」 後を振り向きながら、そう言うとフィストの動きがさらに激しくなる。 自然と声がこぼれ、体の熱がさらに上げる。冷たいタイルに体の熱を逃がしても追いつきそうにない。 限界はすぐに来た。バチンバチンと肌がぶつかる音がバスルームに響く。 「っあ!……ああ!」 目の奥でチカチカ星が飛んだと同時に下半身に溜まっていた熱を吐き出す。背中にゾクゾクしたものが走り中に入っているフィストを締め付ける。 足ががくがくして立っているのがやっとだ。しかし、しっかりフィストに腰を掴まれていてさらに奥に押し込んだ。 「っく……俺もイク……ぞ……」 フィストがそう言った途端中でフィストの物がブワリと大きくなり弾けたのがわかった。 何度かに分けて吐き出すと、フィストはそこから引き抜く。 「あ……っあ……」 ドロリと中に出されたものが出てきて、敏感になった体がそれにも反応してしまう。 「大丈夫か?」 「はい……でも、ちょっと休憩させて……」 シャワーを浴びながらだったから、少しのぼせた。俺達はバスタブにぬるめのお湯を貯めてそれに浸かりながら休む。 座っているフィストの足の間に座りもたれる。 「はー、気持ちよかった……」 適当に体を洗いながら呟く。 「そうか……それは良かった……」 フィストは少しぐったりしたがら言う。 「フィストは良くなかったですか?」 「いや、まあ……気持ちは良かったが……」 少し赤くなりながらもごもご言った。それを聞いて俺は笑う。こんな事を言っているがフィストの手は俺の太ももを撫でている。俺はフィストの厚い胸板にもたれ顔を上げた。 丁度目が合ったがフィストは恥ずかしそうに目を逸らしてしまった。 それが面白くて俺は笑う。 「そんなに笑わなくても……」 フィストは困ったように言う。 「だって、ついこの間まであんなに何度もセックスしてたのに、なんでそんなに初めてセックスした高校生みたいな反応になるんですか?」 「そ、それは……ヤンがいきなり俺の事を好きなんていうから……」 「それだけで?フィストはモテるだろうし、好きだって言われることはよくあるでしょ?」 俺は首を傾げながら聞く。 「自分でもよく分からない……ヤンが近くにいると緊張してどうしていいか分からなくなる……勝手に顔が赤くなるんだ」 フィストは心底困ったように言う。 「やっぱり、それ俺のこと好きでしょ」 「そ、そうなのか?」 「違うんですか?」 目に見えて明らかなのに、フィストはまだ分からないようだ。 「そう言えば、黒いものがどうのって前言ってましたけど、なんのことか分かりましたか?」 答えが出なさそうなので、俺は話題を変える。 「ああ、その事か……」 「魔力とかディアボルスとは、関係ないって言ってましたよね……」 人間は魔力のあるものとないものがいる。昔はどんな人にも魔力があったらしい、しかも人によるが今よりもっと魔力の高い人間がいて銀の弾なんて使わなくても、その魔力で直接ディアボルスと戦えたんだそうだ。 しかし、魔力はたいして使い道がない。それこそ、ディアボルスに対抗するくらいだ。だから、魔力が衰退したし、その代わり科学が発展した。 魔法は古くて、廃れた技術なのだ。 「一応なにかあるかもと思って、過去の文献を調べたが分からなかった。ただ、それとは関係なさそうだ」 「そうですか……」 「でも考えていくうちに思い出した事もある」 「本当ですか?」 「よくよく思い出してみたら、ずっと昔にもこの黒いものは現れていたんだ」 「え?以前から?思い出したって……忘れてたんです?」 以前からあったとは初耳だ。 「自分でもよくわからないんだ。明らかによくわからないものなのに思い出しもしてなかった」 フィストは不思議そうに言う。 「それは、不思議ですね……最初はあったのはいつからですか?」 「俺の記憶がそもそも信用できないから確かじゃないがおそらく高校くらいの年だったと思う」 「そんな前ですか……じゃあ、確かにディアボルスとは関係なさそうですね」 俺は首をひねり考えこむ。 しかし、感覚的なことだしフィストにしかわからないことだ。 ぼんやり考えながら水面を波立たせる。 その時、フィストがギュッと俺を抱きしめた。 「フィスト、どうしたんですか?」 「ヤンはどうして……そんなに優しいんだ?」 フィストは絞りだすように言った。 「そうですか?」 「嘘をついて軟禁して……それなのにこの家にいたいと言って俺のよくわからない話に真剣に付き合ってくれて……」 「フィスト……」 「俺は自分で自分の事が信じられない。また、なにかしてしまうかもしれない……だから……」 そう言ったフィストはとても辛そうだった。 「フィスト……辛いなら、俺はここにいない方がいいですか?」 俺がここにいるのは、俺の我儘だ。もしかしたら、フィストが変になるのは俺が要因の可能性もある。 しかし、そう言うとフィストは泣きそうな顔になって、さらに俺を腕に力を入れて抱きしめた。 「ヤンがそうしたいならそうしてくれ……でも……」 フィストはそこで言葉を切ってしまう。それでも何となくここにいて欲しいと言っているように感じた。 その表情からフィストは一人思い悩んで不安にもなっていたのだろう。 何だか可哀想になってきた。そして、それと同時に愛おしさがこみ上げる。 「フィスト」 そう言ってフィストと向かい合い、の顔を両手で挟む。 「ヤン……」 「もう、いいです。今日はもう何も考えないで……」 俺はそう言って、キスをする。 「ヤン、でも……」 「今夜だけでもいいです、もっと、気持ちいいとしましょう」 そう言ってさらにさっきより深くキスをして腰を押し付けた。 フィストはもうなにも言わなかった、その代わりに俺のキスに応える。 キスは次第に激しくなっていった。息を継ぐために少し離れた。フィストの目には熱が戻っている。 「フィスト、ここじゃゆっくり出来ない。ベッドに行きましょう」 「ああ」 そうして、俺達は声が枯れて何も出なくなるまでお互いを貪り合った。

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