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第23話 夜が明けるまで
「わ!」
ベッドに連れていって欲しいと言った途端。フィストは荷物をその場に置いて、俺を横抱きにすると、ままベッドルームに向かった。
そうして、そのままベッドにドサッと寝かされる。
「ヤン、悪い。手加減出来そうにない」
フィストはそう言いながらせわしなく、俺の服を脱がせる。しかし、怪我の所為でなかなか脱げない。
しかもお互い隙さえあれば唇を重ねていたので余計に時間がかかる。それくらい切羽詰まっていて、常に触れていたいと思った。
「っフィスト……あの……」
しかし、いざ脱がされて肌が晒されると今度は恥ずかしくなってきた。自分から脱いで、フィストにのしかかったこともあるのに今更だ。
久しぶりなのもあるが、何故か少し怖く感じる。
肌が晒されフィストの視線が注がれる。食い入るように見つめるその目は熱くて、見られているところだけ熱く感じる。
思わず手で胸のあたりを隠し、足を閉じる。
「何で隠すんだ?」
「だ、だって……」
説明出来なくてがらにもなくもじもじしていると。フィストは俺の腕をつかみ、ベッドに押さえつけると足を開かせて自分の体を入れ込んだ。
「今更止めてやれないぞ」
「嫌なわけじゃないけど……何だか……」
足を開かされてフィストは自分の体をねじ込む、全てを晒されるとさらに顔が熱くなるのを感じる。
「ヤン、可愛い……」
「また、そうやって」
「自分の気持ちを自覚してから、ずっとこうしたかったんだ」
「ずっとって……」
「今日はずっとヤンとこうする事を想像してた。そのために仕事も終わらせてきたし、何日か有給休暇も取ったんだ」
フィストはそう言ってニヤリと笑う。
「まさか、有給の間ずっとするつもりですか?」
「それくらいのつもりだ覚悟しておいてくれ」
フィストはそう言うと体を下げて、下腹部から下に舌を這わせ、俺のゆるく勃ったものまで行く。
「ん……あっ」
いきなりで体が跳ねる。久しぶりの刺激のせいか強烈だった。しかも、フィストがそんな事をするとは思わなくて驚く。
「フィ、フィスト……そんなとこ舐めても大丈夫なんですか?」
「一度してみたかったんだ」
フィストは嬉しそうにそう言うと、躊躇なく口に含む。
「っあ、そんな……」
濡れて暖かいものに包まれたせい一気にそこに血が集まる。フィストの意外な行動のせいもあって頭がクラクラしてきた。
オロオロしているうちにフィストは裏筋に舌を這わせながら、後孔を解し始めた。久しぶりだから少し狭くなっている。
「初めてだけど、なかなか面白いな」
「っあ……お、面白いですか?」
大きく開けた足の間にフィストの頭がうごめいている。グロテスクな性器の横に端正な顔のフィストの顔があってなんだか変な感じだ。頭が沸騰しそうになる。
「ヤンの反応がよくわかるし、ビクビク震えてるのも面白い。自分の物はこんな事思わないけどヤンのこれは可愛く感じる」
「っ……可愛いって……そこはあんまり嬉しくないです……っあ」
変なところまで可愛いと言われ、複雑な気持ちになりながらも身もだえる。
しかも、久しぶりだからか早くも限界が近づいてきた。
「っフィスト。もう、イキそう……」
足に力が入ってシーツを引っ掻く。怪我をしている足に力を入れてしまって。
「いいよ。出して」
「で、でも……っあ、ああ」
我慢していたのに、フィストが先の方を強めに吸ったのでもう我慢できなかった。足の怪我が少し痛かったがそれ以上に快楽が勝る。気持よくて目の奥がチカチカして体が跳ねた。
全て出し切ると脱力する。
フィストはお構いなく俺が出したものを飲んでしまった。
「どうだった?気持ち良かったか?」
「き、気持ちいいっていうか……」
荒く息を吐きながらそう答える。急激な快楽に落されて混乱してきた。
「じゃあ、そろそろ、入れるよ」
「っあ!ああ」
フィストはそう言って足の間に体を割り入れると、解したそこに硬く立ち上がったものを挿れる。
思わず足が跳ねた。
出したばかりで敏感になっていた所為か入れられた途端に軽くイってしまった。
「っく、締め付けられる……まだ、早かったか?」
フィストは顔をしかめながらもそう言って、ゆるゆると腰を動かす。
「っあ、だ、大丈夫だけど、っちょっと待って……またイっちゃう……」
体がビクビク跳ねる。フィストの形をはっきりと感じてそれだけで気持よくなってしまう。
フィストとは何度もして来たが、これだけでこんなに体が反応してしまうなんて初めてだ。フィストに足を絡めてしがみつく。
生理的な涙が出て、目が潤む。
「ヤン、お願いだからあまり煽らないでくれ。酷くしてしまいそうだ」
フィストはギラギラした目で食いしばるように言う。俺のために我慢してくれているんだと思うと胸が締め付けられる。
嬉しくて、滅茶苦茶にしてして欲しい気持ちと少し怖い気持ちがある。
「フィスト……キスして……ん」
根本まで入れ込まれた状態でさらに密着する。さっきあんなにキスをしたのにまだ飽きない。
「ヤン……ヤン……」
ピッタリ抱き合いながらゆるゆると動く。ゆるい動きなので少しの刺激しか感じなくてじれったいが離れたくない。
荒く息をしなが見つめ合う。
「フィスト……動いて」
フィストは酷くしそうだと言いながらも、痛いことや嫌がることはけしてしない。こちらの反応を見て我慢してくれているのが分かる。その事に気が付いて、またフィストの事が好きになった。
いまならどんな酷い事をされてもいいとさえ思う。
フィストがゆっくり腰を引く。内壁にフィストのカリの部分がゴリゴリ擦れる。それだけで何かが漏れた。もし俺が女だったら酷く濡れていただろう。
「っく……」
もうすぐ抜けそうになったところで、フィストは一気に腰を叩きつける。
「っあ!ああ!」
「っあ、やばい持って行かれそうだ」
フィストはそう言いながらも、徐々に動きを激しくしていく。
「っあ、っあ」
痛みはなく、快楽だけがただ注がれる。
フィストの手がくしゃりと髪を掻きまわす。それだけで鳥肌が立つくらい気持ちがいい。
二人は無言で荒い息の合間にキスをする。
さっきイッたばかりなのにもう、限界が近くなってきた。
「もう、イキそうだ……」
「んん……来て……いっぱい出して……」
「っく……」
フィストは眉を顰め、さらに激しく動く。痛いくらいに叩きつけられているのに、全部快楽に変換される。
「んあ!っあ!」
「っく!」
ひと際体が跳ねる。それと同時に中に出された感触がした。
「あ、……熱い……」
指では届かないさらに奥まで来る刺激に、脳が焼ききれそうなくらいの快楽を感じる。
ギュッとフィストにしがみつく。ギュウっと中を締め付けるとさらにフィストの形を感じる。
今日何度もイッたのにまたイってしまった。連続で出したからか精液は少ない。
なかなか治まらない痙攣に息を弾ませていると、フィストがこちらを覗き込みながら言った。
「ヤン……愛してる」
真っすぐで真摯な言葉に、息が止まりそうになる。何度も聞いたが言われると、やっぱり嬉しい。
「俺も……愛してる」
それから俺達は喉が枯れて、何も出なくなるまでセックスし合った。最後には何もせずただ抱き合って飽きもせずキスをした。
「セックスってこんなに気持よかったんだな」
疲れて倦怠感にぼんやりしていると、フィストが俺の頬を撫でながら言った。外はとっくに暗くなっていて真夜中だ。食事も取らずにお互いの体を貪っていて気が付かなかった。
「いままで、気持ちよくなかったんですか?」
「正直ヤンと以前していた時は罪悪感があった。多少は気持ちは良かったが、した後後悔の気持ちが湧いてきて、やめなくちゃと思うのにまたしたくなって手を伸ばしてしまっていた。それの繰り返しだった」
「確かにそれは辛いかも……」
「それに、リリアスとの結婚生活では義務感しか感じられなくて辛かった」
「……そうか」
奥さんも辛かっただろうが、フィストだって悩んでいたのだ。
「リリアスの事は好きだったが、そういう気持ちにはどうしてもなれなかったんだ。今思うと友達として好きだからこそ性的な物と結びつかなくて、余計辛かったんだ」
フィストは苦しそうな表情で言う。俺もフィストの頬をなでる。
「そういえばこの間、リリアスと電話で話ました」
「そうなのか?」
「うん。リリアスにフィストと恋人なんでしょう?て言われました。それからフィストのことお願いって」
「リリアスは分かってたんだな……」
そう言うとフィストは驚いた顔をした。
「泣かせたら許さないとも言われた」
「リリアスがそんな事を?」
「うん。今でも親友だからって……いい関係なんですね」
そう言うと、フィストは嬉しそうに微笑む。
「そうか……」
「もし、また苦しいことがあったら。相談して下さいね」
「ああ」
フィストはそう言って微笑んで、俺の髪を触る。指に絡めて梳いて何度も撫でた。
セックスの後の気だるい空気の中でこんな風に会話する事に幸せを感じる。
ずっと、こうしていられたらいいなと思う。
「そういえば、フィストが前言っていた。黒いものって何だったんだですか?わかりましたか?」
「ああ、その事か……たぶん分かったと思う」
「本当ですか?」
「うん。多分だけど、俺は昔から男の方に性的魅力を感じてたんだ……」
フィストは考えながら、ゆっくりとさらに言う。リリアスも言っていたがやはりそうだったようだ。
「でも、こんな事は普通じゃないしいけないことだと思ったんだろう。だから無かったことにしたんだ」
「ゲイじゃないって思い込ませていたってことですか?」
「そうだな。でも、無いふりをしてもまったく無くなるわけじゃないから黒い物として記憶してたんだ」
本当の気持ちを、無視していた結果が黒いものとして現れていたということか。
「昔から見ていたって言ってましたし、辻褄はあいますね」
思春期はそういった事に目覚める時期だ。フィストはその時期から見ていたと言っていたし、それなら理由も分かる。
「もっと、早く気が付いていればリリアスにこんな悲しい思いをさせなくてすんだのにな……」
フィストが後悔したように言う。俺は思わずフィストの髪を撫でる。フィストはフッと微笑み、もっと撫でてくれというように顔を寄せた。
そのしぐさが可愛くて俺も顔が緩む。
「そういえば、俺のこと好きになったのは何がきっかけなんですか?」
ふと気になって聞いてみる。フィストは思い出すように首をかしげた。
「おそらく、軍で一緒に組んでいた時だと思う」
「そんな前だったんですか?」
「ヤンとバディを組むと決まった時、同僚に羨ましがられたんだ」
「え?羨ましいって?なんでだろう?」
俺は首を傾げた。
「ヤンは自己評価が低すぎるよ。気が利くし、相手をよく見てフォローも上手い。だから、みんなヤンと組みたがってた」
「俺って、そんな風に言われてたのか」
初めて聞く話に驚く。
「それで、その時同僚が『特に肌がきめ細かで、そこも最高なんだ』って言ったんだ。最初聞いた時は意味が分からなかった。でも、着替えをした時なんかに見えた肌は確かに綺麗で目を引いた。多分それがきっかけだ」
フィストは思い出すようにいってクスリと笑う。そして、さらに言う。
「でも気が付かない振りをして、その事は考えないようにしていた。それなのに、ヤンに夜の相手の事を聞かれて、隠していたものを暴かれたような気がしたんだ」
「あ、……だからあんなに怒ってたんですか?」
「あれは、本当に悪かったな。図星を突かれた気がしてパニックになってたんだと思う」
フィストは申し訳なさそうな顔になる。
「それで、その後魔王との戦いで怪我をしてしまって、ヤンとセックスしてしまって。それから忘れられなくなった」
フィストは自嘲して言った。
「無事に軍に帰れた後もずっと頭に残っていて離れなかった。それでも、故郷に帰って結婚したら流石に思い出すことも少なくなった。でも、リリアスとはうまくいかなくなってしまって離婚までしてしまった。それで俺は酒に逃げたんだ。正直その時の記憶は曖昧だ」
フィストは暗い顔で言った。
「そんな時にヤンに再会したんだ」
「それで、何で軟禁なんて事したんですか?」
そう聞くとフィストは困った顔をして眉間に皺を寄せる。
「自分の事なのに正直よくわからない。おそらく、ヤンがいればリリアスと上手くいかなかった原因も分かると思ったんじゃないかな。だから、間違っているのは分かっていたけど逃がしたらダメだと思った。本当に支離滅裂でまともじゃなかった」
「そうだったんですね……」
「本当に悪かったな。突然軟禁なんてして、怖かっただろう」
フィストは本当に後悔したように言う。
「最初は驚きましたけど。軟禁したって言っても、家の中に逃げられる道具とか置きっぱなしにしてたり、手錠の鍵を落してたりしてたから、逃げようと思えばいつでも逃げれたんだ」
「そうだったのか?」
「そう。でもフィストの事が放っておけなくて。ここに残ったんですよ」
「……それは……俺にはありがたいが、格好悪いな……」
フィストは複雑そうな顔をした。
「そんな事ないですよ。それに、俺はそんなフィストが可愛くて好きになったんですから」
俺はそう言って、フィストの頬にキスをする。
「複雑な気持ちだけど、嬉しいよ」
フィストは苦笑いしながらも俺のおでこにキスをしかえしてくれた。
そうして俺達はキスをした。
「ヤン、愛してる」
俺は思わずクスクス笑う。
「今日、何度も聞きましたよ」
「飽きたかもしれないが、何度でも言いたくなるんだ」
フィストは優しく微笑み言った。愛おしそうに笑うその笑顔に胸が苦しくなるくらい幸せな気持ちがこみ上げる。
「飽きてなんていませんよ。俺も愛してます」
俺はそう言って、今度は深くキスをする。夜はまだ始まったばかりだ。
二人は朝まで会えなかった時間を埋め合わせるように抱き合った。
おわり
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