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第24話 番外編1
ベッドではヤンが気持ちよさそうに寝ている。
シーツの隙間から見えるきめの細かい肌に漆黒の髪がよく映える。
しなやかなで男にしては華奢な体は薄い筋肉に包まれていて美しい。
ヤンを見ていると、昔何かでみた東洋の植物、竹の事を思い出す。しなやかで柔軟で強い風も受け流して立っているとても強い植物だ。昔は電球の素材としても使われていたほど強い。
「んん……」
ヤンが寒かったのか、少し身じろぎをした。俺はそっと肩までシーツをかけ、ベッドを出る。
軽く着替えてキッチンに向かった。
ヤンは最近仕事で忙しい。長年の夢だった自分の店を始めたからだ。
今日は久しぶりの休みで、昨日の夜久しぶりにヤンを抱いた。最近、忙しいのもあって触れあうことが少なかったから、遅くまでいたしてしまった。
いつもこの時間なら、ヤンは起きている。それなのに寝ているということはかなり疲れさせてしまったようだ。
お詫びのつもりで、不慣れなではあるが朝食を作り始めた。
複雑な料理は作れないことは分かっているので、出来るだけ簡単な物を作ることにする。
まず、コーヒーメーカーに水を入れてコーヒーの粉を入れる。粉がちょっとこぼれたけどなんとかセットできた。
次は食パンをトースターに入れてスイッチを押す。
そして次に冷蔵庫からベーコンと卵を探すことに。
少し手間取ったがなんとか発見できた。フライパンを火にかけベーコンを入れ、卵を割る。
「あ、殻が入った……」
力加減を間違えて殻がぐしゃぐしゃに割れた。慌てて取り出そうとするが上手く出来ない。そうこうしているうちに、今度は焦げ臭い匂いがしてきた。トースターでパンが焦げていたのだ。
「あ、しまった」
慌ててパンを取り出す。お皿に出してみたが黒いところの方が多い。
「削ればなんとかなるか……」
誤魔化すためにナイフで削ってみる。焦げたのは表面だけだ。
「おはようございます。あれ?フィストどうしたんですか?」
「あ、ヤン……」
ベッドまで朝食を作って持っていって、ヤンを驚かそうと思っていたのに起きてきてしまった。
「あれ?大丈夫?フライパンから煙が……」
「しまった!忘れてた」
目玉焼きを焼いていたのを思い出す。
慌てて火をけしてフライパンの中を見る。卵とベーコンは見事に焦げていた。
「朝食を作ってたんですか?」
ヤンがそう言ったので、驚かそうとして朝食を作ったことを白状した。
「完全に失敗したけどな」
焦げたパンとベーコンエッグを見ながらため息を吐いた。こういった事が苦手なのは自覚はあるが、なんでこんなに簡単なことが出来ないのか、自分で呆れる。
落ち込んでいると、クスクス笑いながら「じゃあ、一緒に作りましょう」と言った。
そうして、二人で朝食を作り直す。まあ、基本的にヤンが作って俺は言われた通りに動いただけだ。
あっと言う間に朝食は出来上がった。
「ヤンは凄いな、こんなにあっという間に作れて……」
「フィストも手伝ってくれたじゃないですか」
「たいしたことしてないけどな……」
俺がしたのは野菜を洗ってちぎったボウルに盛り付けたことと、ミルクをコップに注いだくらいだ。
「あー……でも、コーヒーもちゃんと入れられてますし。大丈夫ですよ」
落ち込んでいるとヤンが慰めるように言う。そう言ったものの、コーヒーは少し薄かった。どうやら入れたコーヒーの粉の量が少なかったようだ。
そうして朝食を食べ始めた。
ヤンが作ってくれたベーコンエッグは香ばしくてツヤツヤだ。
一緒に暮らし始めて改めて分かったが、ヤンはとても器用で、要領がいい。
本人は適当で行き当たりばったりなだけですよ、と謙遜するが実は堅実な所があるのも知っている。
長年の夢だった店も、お金が溜まったらすぐに開店はせず、店を出すための下準備もしっかりしていたと聞いた。開業のノウハウを学んだり、商品の仕入れルートを作ったりしていたそうだ。
褒めると、出来るだけ長く続けたいだけだし、小心者なだけだよとまた謙遜した。
「店はどんな感じだ?上手く行きそうか?」
「うん、かなり順調ですよ。周りに似た業種の店もないし、フィストが宣伝してくれたおかげでかなり忙しいです」
ヤンが開いたお店は雑貨や食料、日用品雑貨その他諸々が売っている店だ。ヤンの親がしていた店もそんな店だったそうだ。お酒から、釣り糸まで売っていて商品数は多い。
軍を辞めてから、三年もかかって開店したのも納得できる。
店の宣伝も身近な人間に店の事を言ったくらいだ。
「俺の宣伝はあまり関係ないだろう。綺麗で便利だからみんな利用するんだ」
「そうだと嬉しいですけどね。まあ、二回目の魔王討伐で褒賞金も出たので、かなり余裕がありますから。しばらくは儲けが出なくてもなんとかなりそうなのが救いです」
ヤンは肩を竦めてそう言った。
そうなのだ、もう軍を辞めていたヤンも今回魔王討伐に参加し貢献したということでかなり褒賞金が出た。元々、資金はあったから多少失敗してもリカバリーで出来るということだ。
「もし、資金が足りなくなったら言ってくれ。あの魔王を倒せたのはヤンのおかげだし、俺はしばらく使う予定もないから」
「多分大丈夫だと思いますけど、ありがとうございます」
そんな会話をしていたら、食事も終わりに近づく。
「今日は何をする?久しぶりの休みだろ?なにかしたい事があるなら言ってくれ」
今日、朝食を作ろうとしたのはヤンを労おうと思っていたのだ。しょっぱなから失敗してしまったが、今日一日出来ることがあるならしたい。
しかし、ヤンはうーんと悩んだ後「掃除と食事をまとめ買いをしたいな」と言った。
「それなら、俺がやるよ。せっかくの休みなんだから他にないのか?」
こんな時まで家事なんてしなくてもいいのにと呆れる。
「うーんでも、このままにしておくと、結局明日困るからな……じゃあ、一緒に手伝って下さい。そうすれば早く終わるし、その分ゆっくり出来ますよ」
ヤンがそう言ったので、結局その通りにすることにした。
家の掃除を二人でし始める。俺はほとんどヤンの指示に従っただけだ。しかし、ヤンが店を始めたのだから、こういった事も出来るようにならなければと思う。
掃除はまるまる午前中かかった。昼食は買い物のついでに適当なダイナーでとった。
「そういえば、一緒に外で食事をするのは一緒に暮らし始めて初めてですね」
食事をしながらヤンが言った。テーブルにはお皿にハンバーガーと山もりのポテトフライ。
それから分厚いパンケーキもある。窓からは明るい日差しが射していて、ドライブには最高の日だ。
「そうだったか?」
「はい、二人でいる時は家で食べることが多いから……」
ヤンはやけに嬉しそうに言った。やはり料理を毎日するのは大変なのかもしれない。もっと料理が出来るようにしないとと改めて思う。
ヤンは優しいし気遣いも出来るので、どうしても甘えてしまう。
「じゃあ、また外で食事をしよう」
二人とも働いていたら時間も合わせるのも難しくなるが、出来るだけ実行したい。
次は車に乗って買い出しに向かう。少し離れたところにある大きなスーパーに向かい、必要な物を買いこむ。
ヤンも仕事があるので、保存できる缶詰やすぐに作れる冷凍食品を買った。この際だからと沢山買ったせいで車が一杯になってしまった。
「買い過ぎちゃいましたかね」
「まあ、大丈夫だろう。それより、ヤン疲れてないか?結局これじゃあ仕事してるのと変わりなくないか?」
「俺は、大丈夫ですよ……じゃあ、残りの時間は家でゆっくり映画でも見ませんか?ピザでもテイクアウトしてダラダラ過ごしましょう」
「おお、いいな」
ヤンの提案で俺達は家に帰る。帰り道にピザを買って映画をレンタルした。
買った物を片付け終わったら、リビングで行儀悪くソファに座ってビールを空けてヤンと乾杯する。
「たまにはこんな食事もいいですね」
「そうだな」
ヤンが俺の家に来る前はこんな食事ばかりだったが、ヤンと一緒に食べると格別に美味しい気がする。
早速二人で映画を見る。
映画は派手なアクション映画だ。引退した軍人が魔王と遭遇して死闘するといったストーリーだ。
ヤンにピッタリな内容だと思って教えたら、ヤンも面白がったのでこれを借りることにした。
「思ってたよりちゃんと作ってますね」
「そうだな。まあ、実際に戦ってきた身としては色々あり得ないこともあるがな」
その上でストーリーも面白い。映像もリアルで見ごたえがあった。
そんな事を考えていたらヤンがクスクス笑いだす。
「どうしたんだ?」
「だって、魔王を素手で殴って倒した人が言うセリフじゃないですよ」
「あー……確かにな」
そういえば、そうだったと思って俺は苦笑いをする。実際に映画にしたら、嘘くさくなりそうだ。
「事実は小説より奇なりってことですね」
ヤンがからかうように言った。
映画はあっという間に終わった。面白かったが、実際に魔王と戦った身としては少し迫力不足ではあった。
次に見始めたのは古いラブコメディーだ。
ピザもなくなったので、俺はヤンを後から抱きしめながら見る。今日ずっと一緒にいたのに、あまり触れあえなかった。
ヤンも嬉しそうに寄りかかってきてくれた。
「次、休みが重なったら、もっとゆっくりしような」
結局、ヤンには働かせてしまった。後悔しながらそう言うとヤンは明るく言った。
「俺は楽しかったですよ。デートみたいだったし」
「デート……確かに」
俺達は恋人同士になったが、始まりが特殊だったせいでそこら辺の段階がなかった。おかげでデートと言われるものはしてなかったのだ。
「フィストは楽しくなかったですか?」
「いや、俺も楽しかったよ。ヤンと一緒にいられたから」
ヤンと一緒にいると、きっと何をしてもきっと楽しい。映画だって一人で見ていたらきっと途中で寝ていただろう。
目の前のヤンをギュッと抱きしめる。ヤンは俺の腕を抱きしめ返し、首を回してこちらを見返した。
腕の中におさまったしなやかな体は、ぴったり重なり自分のためにあるようだ。暖かくて愛おしい、顔を近づけて柔らかな唇にキスをする。
何度もしているのに、いつもその甘さに驚く。一度キスをして顔を離すとヤンの頬が赤くなっている。つられるように俺も体が熱くなってきて、もう一度キスをする。
ヤンもそれに応えてくれた。何度かそうやってキスをしていると自然にキスは深くなってくる。
キスしやすいようにヤンの体をこちらに向かせる。
「フィスト……」
ヤンの目は少しトロリと蕩けていて、目尻が赤くなっていた。
自分がそうさせたんだと思ったら、興奮してくる。
腕に力を入れてもう一度ヤンを抱きしめ、ついでにその体に手を這わす。ヤンは華奢だがきちんと筋肉が付いていて、均整の取れた体をしている。
筋骨隆々の体とは違う美しさがあって、見ているだけでも興奮する。
でも、見ているとヤンは恥ずかしがって隠してしまう。そんなところも可愛い。
手を服の下に潜らせ直接触れる。きめの細かい肌はもうすでにしっとりしていて吸い付いてくるようだ。胸にある突起も硬く膨らんでいた。感じているんだと思うと嬉しくなる。
音がするほど深くキスをしながら、ヤンの下半身に手を伸ばす。そこもしっかり硬くなっていた。
「んん……っ」
直接触れてゆるく扱くだけで、ヤンは艶のある声を漏らす。俺はそれを飲み込むように舌をしれこみ、口の中を掻きまわす。
唾液がこぼれて、ヤンの息も荒くなっていく。
「フィスト……俺、もう……」
扱いていた俺の手も濡れてきた。
「イっていいよ」
「っ……でも……っあ!」
先の方を親指でさらに激しく刺激する。ヤンの体がビクンと跳ねた。その途端、手の中で濡れたのを感じる。濡れたそのまま、全て吐き出すまで刺激し続けた。
精を全て吐き出したヤンはぐったりと、俺に体を預ける。
火照って赤く染まった体は、とても美味しそうだ。もっと触れたいのを我慢してティッシュで汚れを拭い、ヤンの服を整える。
「あれ?もう、終わり……ですか?」
ヤンが潤んだ目で不思議そうに聞いた。
「昨日もかなり付き合わせたし、久しぶりの休みでこれ以上疲れることはしない方がいいだろう」
俺はそう言ってヤンの頬を撫でる。経験はないが入れる方はただ気持ちいいだけだが、入れられるのは、それなりに負担がかかるはずだ。
しっかり休んで欲しいのに、このまま自分の欲望をぶつけてしまっては意味がない。
あやすようにおでこにキスを落す。
「でも……」
「俺はこうしているだけで満足だから」
なおも言うヤンに俺はそう言った。するとヤンは起き上がり艶めかしく腰を俺の股間に押し付ける。
「俺はまだ満足してないんですけど……」
「ヤ、ヤンそんなことしたら。明日、体が辛くなるぞ」
「大丈夫ですよ。俺はそんなに軟じゃないです。それより、フィストのこれ……欲しい……」
ヤンはそう言ってさらに腰を押し付ける。
そんな事されたら、我慢なんてできない。
「っ……後悔しても知らないぞ」
俺はそう言ってヤンをソファーに押し倒す。
「いまさら後悔なんてしませんよ」
ヤンはそう言って俺の首に腕を絡ませて引き寄せた。
そうして、結局そのまま二回目が始まり、気が付いたら見ていた映画も終わっていたので。ベッドに移り、何度も抱き合った。
幸せな時間はあっという間に終わる。気が付いたら休日は終わっていた。
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