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番外編1

※番外編です。御園が高校生の時の話。 ※モブ×御園描写を含みます。 自分がオメガだと発覚しても、栄司(えいし)は特に驚きもしなかった。アルファでないことは何となく予想がついていたし、母方の祖母はオメガで、遺伝確率的にはベータよりオメガの方が可能性が高い。そう知っていたから、結果を言い渡されても冷静でいられた。母親はショックを受けていたが、それは彼女がオメガの生きづらさを理解しているからで、栄司のことを疎んでいる訳でないことは分かっていた。 何があっても強く生きなさい。そう教えられた母の言葉を、栄司は今になっても忘れることなく、胸に刻み込んでいる。 夏休みになって、初めて部活の強化合宿に参加した時のことだった。練習中に軽微な熱っぽさを覚えた栄司は、汗を拭って顔を顰めた。 (風邪か……?) あるいは熱中症か。念の為、水分を摂って端の方で休んでいると、近くにボールが飛んでくる。拾って、近づいてきた部員にパスを出した。受け取った彼は、栄司ににこりと笑みを返した。 「ナイスパス」 レギュラーの(はなわ)だ。栄司によくアドバイスをしてくれる、優しい先輩だった。ベンチから出られなくても、彼のプレイを見ているだけで参考になることは多かった。 彼と目が合った瞬間、ぐらりと視界が揺れる。一瞬体温が上がった気がして、いよいよまずいと思った栄司は、自発的に医務室へ行った。 (身体が熱い……) 熱を測られて、微熱ということでベッドに寝かされる。横になっても良くなる気がしなかったが、それ以上に良い対処法も分からなかった。熱い息を吐き出して、ころりと寝返りをうつ。 「……っ、?」 シーツに擦れた肌がざわりとして、妙な感覚に眉を顰める。 「御園(みその)くん、先生しばらく離れるけど、酷くなったら無理せず誰か呼ぶのよ」 「っ、はい」 暫くして教師が出て行くと、静かな部屋に自分の息遣いだけが響いて煩わしかった。身体の奥で何かが疼いているのを感じて、堪えるように枕へ顔を押し付ける。どくん、どくんと、心臓以外の箇所が脈打っているのを感じて、シーツを力いっぱい握り締めた。 (触りたい、触りたい、気持ちよくなりたい……っ) 衝動に抗いきれず、手を下履きに突っ込んで、硬くなった性器に触れる。既に先走りを零していたそこを扱くと、頭がビリビリと痺れるような気持ちよさを感じた。 「は、ぁ、あ」 開いた口から涎が枕に垂れる。出すことしか考えられなくなって、溢れる声を気にすることなく自慰に耽った。 「あ、あ、あっ……!」 カクカクと腰をくねらせて、手のひらを精液で汚した。いつもより薄いそれに疑問を感じるよりも、まだ身体の熱が冷めないことに意識が行く。栄司の本能は、もっと内側の快楽を求めているようだった。 (足りない、足りない……もっと、奥) きゅん、と腹の奥深くが疼きを訴える。臍の下辺りを指で押さえると、言いようのない快感がぞわぞわと腰に走った。同時に、尻の間から何か、トロッとした物が溢れ出る。下着まで全て脱いで、本能的にそこへ指を突き入れた。 「〜〜っは、あ♡」 粘液でドロドロになった直腸の中は、最早生殖器と化していた。拙く指を出し入れする度に、こぷりと中から愛液が溢れ落ちる。 「あ、あ……♡」 何かが擦れるだけで気持ちが良かった。自慰の数十倍気持ちのいい行為に夢中になっていると、突然カーテンが開けられる。 「……御園」 そこにいたのは塙だった。熱に浮かされたような目をして栄司を見ている。クラクラと目眩がして、彼の全てが魅力的に見えた。ごくん、と生唾を吞み込む。 「……先、輩」 鼻にかかった栄司の声に突き動かされるように、塙は勢いよくベッドに乗り上げた。乱暴に前を寛げて、何もしていないのにガチガチに勃起した陰茎を栄司の尻の穴に押し付ける。 「あ――ああああっ!!♡♡♡」 一息に全てを突き入れられて、仰け反りながら身体を痙攣させる。びゅく、と中で出されるのが分かって、その瞬間また中が収縮し始めた。 「あっ♡あうぅ♡はああっ♡」 「御園っ、御園……っ!」 「ひあっ♡あ♡せんぱっ、あっ♡」 じたばたと善がる栄司の腰を鷲掴みにして、塙が一心不乱に腰を打ち付ける。肌がぶつかる音と、粘液が混ざる卑猥な音が鼓膜を揺らす。自分の指と比べ物にならない程気持ちが良くて、甘い声を上げながら栄司もみっともなく腰を振った。奥の方で種付けされる度に、中がヒクヒクと喜んで彼を締め付ける。この為に生まれてきたのだ、と馬鹿になった頭で思った。 「あん♡きもちいのくるっ♡きちゃうぅ♡♡」 「はっ、出すぞ、御園……ッ」 ギュッと力強く抱き締めながら射精されて、栄司の記憶はそこで途切れた。 目が覚めると病院にいた。母が泣いていて、何かとんでもないことがあったのだということは分かった。 「守れなくて、ごめんね……」 そう言って母が栄司の体に泣き縋る。身体の重さと喉の痛みで、自分が先輩と避妊も無しに性行為に及んでしまったことを、ようやく思い出した。 先輩はアルファだった。あの時は栄司のフェロモンにあてられて、我を失っていたのだ。互いに責めるつもりはないということで表面上は和解したが、そこからの学校生活は地獄だった。 「あいつ、オメガの」 「塙とヤったんだろ」 「めちゃくちゃ淫乱だって」 根も葉もない噂が栄司と塙を苛んだ。さらに、噂の出処が部内からだと確定していることもあり、部活内にも不和をもたらした。 塙はそのうち、学校に来なくなった。その翌年、彼は他県の学校に転校していった。 栄司は、意地でも部活を辞めなかった。そこにいるだけで辛かったが、負けてたまるかという気持ちだけで、部活を続けていた。 二年になって、噂も落ち着いてきた頃。栄司はベンチからスタメンに昇格した。しかも彼と同じポジションだ。いなくなった彼のことを思うと、胸がジクジクと痛んだ。 それを機に、心無い噂がまた尾ひれをつけて広がり始めた。 「監督と寝てスタメン取ったんだろ」 「ハニトラで先輩のこと引きずり下ろしたらしいよ」 「怖ぇよなあいつ、俺も襲われるかも」 (……どいつもこいつも) 目の前で陰口を叩く奴らは、睨みつけて黙らせていた。そんな栄司も、流石にヒートと試合が被って欠場した時は酷く落ち込んだ。 (くそっ、くそ、こんな体……!) 浅ましく快楽を求める身体をむやみに抑え込んだ結果、逆に発情期が長引いてしまった。自らの性を呪いながら、それでも気丈に生きてこられたのは母がいたからだった。 「シュート決めたの? すごいじゃない」 栄司の活躍を純粋に喜んでくれる彼女は、栄司の心身の支えになった。今思えば、彼女の方もそれで支えられていたのだと分かる。とにかく、栄司は彼女に恥じないよう、バスケに全力を注いだ。 しかし、その情熱は高校最後の大会と共に、すっかりと冷めてしまった。 (どうして俺は、こんなに一生懸命になっていたんだろう) 目の前でブザービーターを決められて、二回戦敗退が決定した。泣く部員を慰める輪の中に入っていけなくて、栄司は自分のしてきたことの意味を問い直した。 初めは、バスケが好きだった。それだけだったのに、いつしか義務感から、バスケから逃げないように、彼のことを忘れないように続けていただけだった。 (……もう、辞めよう) もう十分頑張った。贖罪を終えたとは思わないが、これ以上続ける意味はないと感じた。上っ面だけの付き合いだった部員達に未練はなく、そこからは受験勉強に思い切り心血を注いだ。図書室で勉強するのが日課になった栄司の元に、ある日一人の教師が現れる。 「頑張ってるな、御園」 偉いぞ、と頭を撫でられて、はたと顔を上げる。彼との出会いが人生を決めることになるとは、その頃の栄司は思いもしなかった。

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