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番外編4

金曜日の夕方。デートも終わって、今は彼の家にいる。なんといっても明日は休日だ。そのまま帰るのが名残惜しくて、後ろから抱きついた。 「急になんだ」 荷物を片付けていた栄司(えいし)が、柔らかい声色で笑う。離れたくなくなって、ふと思いつきで我儘を言ってみた。 「栄司さん、今日泊まってっていい?」 「……いいぞ」 栄司の返答は一拍の空白の後、イエスだった。もしやと思い「明日仕事?」と訊くと「午後からな」と返ってくる。 「明日仕事なら無理しなくていいよ」 「いや。問題ない」 今度の返事は食い気味だった。それならいいけど、と頬を首筋に擦り寄せる。流れで唇を寄せると、サッと立ち上がって避けられた。 「それは夜にしとけ」 「えー」 今イチャイチャしたいのに、と唇を尖らせる。台所に行くのが見えたので、千晃(ちあき)も着いていく。姉に日頃から散々扱き使われているので、料理には自信があった。 「栄司さん、俺作ろっか?」 「いいのか」 後ろから声を掛けると、栄司はぱちくりと目を瞬かせて、エプロンを持った手を止める。 「へへー。任せてよ」 「なら、頼んだ」 そうして千晃がメインで台所に立ち、御園との共同作業でその日の夕食が作られていった。 「ごちそうさまでした」 「お粗末さまでしたー」 結果的に、その日の食事は栄司にとても好評だった。 「美味かった。料理が出来るとは聞いていたが、ここまでとは思わなかったな」 「でしょでしょ!」 千晃は無事に彼の胃袋を掴めたのでご満悦だった。今度から料理は自分が作ろう。調子に乗ってそんなことを考える。 食べ終わった食器は栄司に洗ってもらい、千晃は皿を拭こうと隣に立つ。栄司は袖を捲りながら、チラリとこちらを見て言った。 「先にシャワー浴びてこい」 「あ、いいの?」 黙って頷かれたので、お言葉に甘えてそうすることにした。寝巻きと下着を借りて浴室に入り、シャワーを浴びながら悶々と考える。 (今日もエッチするのかな?) デートの終わりはだいたい彼の家に来るし、彼の家に来た時はだいたいそういう行為をする。むしろ、それを期待して来ている節すらある。しかし、今日はそういう雰囲気になる前に夕食になって、流れてしまった感じがあった。この後にするのなら、もう寝る前しかない。 (そういえばベッドでするのって初めてだよな……) なんだかんだ言って、いつもはソファでしかしていなかった。今日は汚さないように気をつけなくても平気かな、と気楽に考えて風呂から上がる。使い慣れないドライヤーで髪を乾かして、脱衣所から出た。 「上がったよー」 「ああ」 何かの書類を片していた栄司が、千晃の声に振り向く。すれ違いざま、そっと呟かれた。 「先にベッドで待ってろ」 「……うん」 なんだか艷っぽい空気にドキドキしてしまった。言われた通り、寝室に足を踏み入れる。心なしか、彼の匂いが強まったような気がした。 (ちょっと緊張する……) 何となく改まった感じがして、背筋が伸びた。携帯で何か見ていようかとも思ったのだが、何も手につかないまま数十分経過した。 ガラッと扉が開いて、栄司が寝室に入ってくる。前髪が真っ直ぐ下りていて、普段より少し幼く見えた。 「……なんで緊張してるんだ」 「いや、なんとなく」 見透かした栄司が呆れたように口角を上げる。力が入った肩を撫でて、上からキスを落とした。 「……する?」 「しないのか」 「する」 即答にまた苦笑して、ベッドに乗り上げる。キスしながらもつれ合って、自然と――かなり誘導された気もするが――栄司が下になるように、マットレスに倒れ込んだ。顔の横に手を突いて、ふと頭の片隅を疑問が通り抜ける。 (あれ? この体勢ってなんか) 最後まで、行けちゃいそう。そんな予感を頭の中に留めつつ、見上げてくる彼の唇を奪って、服の隙間に手を入れる。控えめな胸の頂を、慣れた手つきで撫で摩った。口を離した隙に、栄司がボソリと不満げに呟く。 「……すっかり手慣れやがって。可愛くない」 「え、そんな風に思ってたの?」 栄司がつん、と顔を逸らす。空いた首筋をペロリと舐めると「ン」と鼻にかかった声が上がった。その下、首元に鎮座している黒い革にガジ、と忌々しく齧りつく。 (邪魔だなぁ、これ) 「こら。まだ早い」 ペし、と頭を叩いて離された。まだ、ということは、裏を返せばいずれは許してくれるということで、思いがけず気分が浮上した。 「栄司さん、あのさ」 「ん……?」 触れる手を止めて、じっと彼を見つめる。今の彼になら、もっと多くを求めても許されるような気がした。 「……今日、最後までしてもいい?」 ぱち、と栄司が瞳を瞬かせる。そして次の瞬間、唇の間から細く吐息を零した。 「……いつ言われるかと思ってた」 「え?」 ポカンと口を開けると、栄司が苦笑を浮かべる。 「お前の我慢強さを舐めてた。俺の方が焦れったくなってきてた所だ」 「えー……と」 「だから」 ぐい、と首筋に手を回して引き寄せられる。艶やかな声が、耳元で低く囁いた。 「いいってことだ」 それを聞いた瞬間、千晃は衝動のままに栄司の唇にかぶりついた。ほんの少しの隙間さえ惜しい。流し込んだ唾液を、栄司がこくりと喉を鳴らして飲み込む。胸を弄っていた手を下ろして、スウェットに手を掛けた。 寝巻きは普段の服より脱がせやすい。いつものように下を脱がせようとすると、いつもは入らない所で待ったが掛かった。手を掴んで、スウェットの上の方に移動させられる。 「こっちが先だ」 「ん、うん……」 言われるままに上を脱がせると、均整のとれた上半身が顕になる。千晃に虐められた乳首が赤く色づいて、ピンと勃ち上がっているのが可愛らしい。下も脱がせようとすると、その前に千晃のTシャツに手が伸びてきた。 「お前も先に脱いでおけ」 「ん、わぷ」 首から服を引っこ抜かれて、思わず変な声を上げてしまった。素肌が空気に晒されて少し妙な気分になる。思えば、彼の前で裸を晒すのも初めてだった。そう気がついてしまうと落ち着かない。 「……また筋肉ついたか?」 「そう、かな」 ぺた、と栄司の手のひらが千晃の胸元に触れる。慣れない感覚にますます鼓動が速くなった。 「下、脱がせていい?」 「ん」 ウエストに手を掛けると、彼が腰を浮かせる。まとめて引っこ抜くと、スラリとした脚が現れた。視線を上げる前に彼がさり気なく足を閉じて、上体をベッドの外に傾ける。ベッドの下から何かを取り出して、千晃に手渡した。 「うわっ……」 ローションのボトルだった。一気に現実味が増してきて、情けなく戦いた声を出してしまう。栄司が笑いながら枕の位置を変えていた。 「なんだ、怖気付いたか」 「ち、違うもん……」 栄司は腰の下に枕を敷いて、緩く脚を曲げた状態になった。何だか慣れた様子にモヤモヤとした感情が湧いてきたが、過ぎたことをグチグチ言うのは不公平なので思うだけに留めた。 「やり方は分かるか」 「た、多分……」 「多分じゃ困るな」 「だって初めてなんだもん……!」 千晃の曖昧な返答に苦笑を浮かべる栄司。ボトルを指さして「まずそれを手の上に出す」と指示が入った。言われた通りにトロッとした液体を手のひらに出して、指にまとわりつかせる。 「で、ここに」 自ら脚を開いて、穴が見えやすいようにしてくれた。のだが、その姿勢がとてつもなく扇情的で、思わず目を逸らしてしまった。 「ちゃんと聞いてるか?」 「聞いてます……」 (えっちなことしてる自覚ないんだろうなぁ……) こんなことで音を上げているようでは先が思いやられる。気合いで堪えて、指先をひたりと穴の縁に当てた。 「い、入れるよ……?」 「ん」 つぷり、と指を沈み込ませると、意外にもすんなりと根元まで入っていった。熱くて柔らかい内壁の感触が指から伝わって、一気に頭に血が上った。 「やば……」 「ふ、指でもう満足か?」 正直、色々とキャパオーバーだ。中は指一本でもキツそうで、こんな所に自分の物が入るとは思えない。 「中、拡げるんだっけ」 「そうだ。痛みさえなければ平気だから、多少キツくても指を増やしていけばいずれ入るようになる」 拡げる、と言っても何をすればいいのか。とりあえず、持っている知識を総動員して、ゆっくりと指を引いた。 「うわ……すごい、吸い付いてきた」 中から出ていくのを引き留めるように、粘膜が柔らかく指に絡みついてくる。ピク、と栄司の脚が小さく震えた。 「…………天然か」 「え?」 「なんでもない。指、増やしていいぞ」 「もう?」 訝しみつつ、言われるがままに指を増やす。流石に少しキツいのでは、と思って栄司の顔を覗き込むと、何とも言えない表情をしていた。 「痛い?」 「痛くはない。大丈夫だ」 (痛く“は”ないってことは、違和感はあるのかな……) どうにかして和らげる方法はないものか。考えた末、別の感覚で上書きしてしまえばいいのだと気づいた。 「栄司さん、気持ちいい所ってどこ?」 「は、お前に分かるかな」 「意地悪しないで教えてよ。栄司さんに辛い思いさせたくないんだよ」 「そう言ってもな……」 栄司はそう言って体を少し起こすと、千晃の手首を掴んだ。慌てる千晃を他所に、手首ごと指を動かして、ある一点でピタリと止める。 「ここ」 「ここ?」 くい、と指先を曲げて壁に触れる。確かに、少し周りと比べて弾力があった。マッサージをする要領で内壁を揉む。しかし栄司の反応は鈍かった。 「本当に気持ちいいの?」 「そのうち良くなる」 いまいち手応えが感じられないが、その言葉を信じて刺激し続けた。手持ち無沙汰に左手で太股を撫でる。ツルツルして肌触りが良かった。 「っ……」 「栄司さん?」 きゅ、と中が一瞬締まった。顔を見上げると、栄司が口元に手を当てている。 「痛い? 大丈夫?」 「…………来た」 「え、何が?」 「いいから、続けろ」 睨めつける目が熱っぽい。言われた通りに続けていると、突然栄司の反応が変わった。 「んん、ふ」 ガク、と腰が揺れる。声の質が明らかに違った。触っていないはずの陰茎が勃ち上がって、薄く先走りを零している。 「気持ちいいの?」 「ん、ん……っ」 声を抑えながら、こくこくと必死に頷く。ようやく掴んだ手応えに、ごくりと喉が鳴った。 「……そこ、だけじゃなくて、ちゃんと拡げろ」 「あ、うん」 周りの壁をぐにぐにと押しながら、時折教えてもらった場所に触れては彼の反応を窺う。栄司は気持ちよさそうに目を細めて、嬌声が口から零れそうになる度に、手のひらでそれを遮っていた。彼が声を抑えるのは今に限った話ではないが、今日は何だか面白くない。 「栄司さん、声聞きたい」 「ん、なん、でだ」 「なんでも。いいじゃん、俺しか聞いてないのに」 「……嫌なものは嫌だ」 「…………ふーん」 無理強いするのは良くない。一旦は諦めることにした。要は、声を抑えられなくなるくらい、気持ちよくしてやればいい訳だ。いつになるか分からないが、我慢できなくなるくらい気持ちよくさせてやる。と胸の内で目標を立てた。 指をそのままに、体を倒してかぷ、と胸の頂きにかぶりつく。小さな粒に歯を立てると、きゅんっと中が締まった。 「ん、っ」 「指、増やしていい?」 「っ、ああ」 若干の余裕が出来た内側に、指をもう一本差し込む。三本まとめてゆっくりと出し入れすると、栄司の膝が震えて千晃の腹に当たった。 「痛くない?」 「……ない。大丈夫だ」 いつもより吐息を含んだ声で、栄司が答える。電話の時に聞いた声に段々近づいてきていた。胸元から口を離して、物欲しそうに開いた唇を吸う。 「ふ、んぅ……ん、ん」 「ん、栄司さん……」 「ん……千晃、もういい」 「……あ、えと」 指を抜いて、恐る恐る栄司の顔を見る。はあ、と息をついて、栄司がベッドの下からまた何かを取り出した。正方形の形をした、薄いパッケージ。 「着け方分かるか」 「多分……?」 「……しょうがないな」 栄司が体を起こす。下を脱げと言われて、栄司の目の前で全て脱いだ。お互いに全裸の状態で向き合うと、今からやることを改めて意識してしまって恥ずかしくなった。 栄司がパッケージの封を切って、千晃の性器に手を伸ばす。硬くなった先端を指で突かれて、ビクリと陰茎が震えた。 「待たせて悪かったな」 「う、ううん……全然……」 「覚えろよ」と言われて、自分の性器をガン見しながら装着方法を覚える羽目になったが、幸いそこまで難しくはなかった。こんな薄い物で守れるのか、と心配になった程度だ。 「えっ、と……じゃあ、お邪魔します」 「っふ、どうぞ?」 栄司の腰を抱いて、自身の先端を後孔に合わせる。気分を落ち着かせるために深呼吸して、ぐっと腰を押し付けた。ぬる、と何度か滑った後、ようやく先端が僅かにめり込んだ。 (っ、うわ) 未知の感覚に息が詰まる。指で感じたのとはまるで比べ物にならないくらい、中は熱くて柔らかかった。逸る気を抑えて、慎重に腰を進めていく。 「は……」 栄司は目元を腕で隠していた。隠れていない耳が赤い。 (本当にこんな狭い所に、全部入るのかな……?) 半分ほど入った辺りで腰を止める。何も激しい動きはしていないのに、既に汗だくになっていた。栄司の腰を擦りながら声を掛ける。 「栄司さん、半分まで来たけど、痛くない? 大丈夫?」 「ああ…………半分?」 ぼやっとしていた栄司が、突如として視界を開けた。千晃の下腹部を見て、ひくりと口元を引き攣らせる。 「冗談だろう……」 「え、何、どしたの?」 「常々デカいとは思ってたが、これで半分か……そうか……」 「く、苦しいの? 止めようか?」 「バカ」 べち、と栄司の脚が千晃の太腿を叩く。同時に中が締まって声が出そうになった。 「ここまで来て止められるか」 ニィ、と挑発するように口角を上げる。どうやら栄司は腹を括ったらしい。彼の覚悟に引っ張られるように、千晃も気合いを入れ直した。腰を押し進めると、栄司が切れ切れに息を吐いた。 「あ、は、う」 「ん……もうちょっと、だから」 やがてぺた、と栄司の太腿の裏側と千晃の腰がくっついた。にわかには信じられないが、あの小さな場所に千晃の物が全て収まってしまった。 「栄司さん、全部入った」 「ん」 栄司の中は熱くて溶けてしまいそうだった。呼吸を整える栄司の腹筋が上下していて、何だか堪らない気持ちになった。生きていて、今こうして繋がっているのが奇跡のような気がした。 「栄司さん……」 「んぁ、ふ、何だ」 ぎゅっと彼の身体を抱き締める。裸で抱き合うのが、こんなに気持ちがいいなんて知らなかった。汗ばんだ素肌が触れて、熱い体温が混ざり合う。 「ずっとこうしてたい……」 「……俺は」 首の後ろに腕を回しながら、栄司が耳元に囁いた。 「ずっとこうされたかった」 トスッと胸に矢が刺さった。したかった、ではくされたかった。なんだその言い方は、可愛過ぎる。すりすりと頬擦りしながら、ふと気づく。 「ずっとって、いつから?」 「それを今聞くのか」 「だって大事でしょ」 栄司はふっと吐息を零して、少し上擦った声で告白した。 「お前に『項を誰にも渡すな』と言われた時だな」 「そんなに前から?」 「逆にいつだと思ってたんだ」 「いや……いつって言われたら困るけど、そんなに前だとは思わなかった」 ということは、二年近く両片思いの状態だった訳だ。あの時間が無駄だとは思わないが、そう考えると何だか間抜けだ。いや、あの時間はかけがえのないもので、とても尊いものだ。 「ずっと我慢してたのがお前だけだと思うなよ」 「ご、ごめん……?」 さっきから栄司が可愛いことしか言っていない気がするのは気のせいだろうか。極めつけにチュ、と耳朶を吸って、濡れた声が耳の穴に吹き込まれる。 「だから、たくさん抱いてくれ」 「ンッッッ」 何それ。あまりの破壊力に危うく心臓が止まるかと思った。 「栄司さん、どうしちゃったの……?」 「浮かれてるんだ。察してくれ」 「あんまりえっちなこと言われると、俺すぐ出ちゃいそうなんだけど……」 「出せばいいだろ、何回でも」 「ううぅ、勘弁してよぉ」 今日の栄司はおかしい。ようやく初めて体を繋げられて、浮かれたのは千晃も彼も同じだったようだ。 「なあ、いつまでこうしてるつもりだ」 「だって、気持ちいいんだもん……」 「動いたらもっと気持ちいいぞ」 「うぐぅ……」 余裕綽々な彼に唆されて、ギュッと唇を噛み締める。どうにか三擦り半にならないように気合いを入れて、出来るだけゆっくりと腰を引いた。 「あ、あー……ヤバいって、ほんと」 「ふ、っふふ……めちゃくちゃ可愛いな、お前」 「笑わないで栄司さん、気持ちいいから」 ふうふうと息を吐きながら、再び腰を押し進める。内壁に擦れる感覚が堪らなく気持ちよくて、途方に暮れた。 (セックスって、こんなに気持ちいいの……?) 手でしていたのとは比べ物にならない。もう一度腰を引き切った辺りで、ぐっと込み上げてくる物があった。自らの限界を悟る。 「ごめん栄司さん、もう無理、出る」 「いいぞ。出せ、ほら」 ずぷ、と彼の中に全てを収めて、導かれるままに欲望を吐き出した。ぶるりと背筋が震えて、頭の中が真っ白になる。結局、三擦り半も持たなかった。 「童貞卒業おめでとう」 「あ、りがと……」 からかう栄司の言葉にも、今は反発する気力すらない。脱力したまま、どうにか性器をずるずると引き抜く。スキンの中には、確かに白濁が溜まっていた。彼の中で、射精してしまった。 (どーしよ、全然頭回んない……) 過ぎた快楽に思考が侵されて、正常に回らなくなってしまったらしい。 「栄司さん、あの……」 「なんだ」 栄司はまだまだ余裕そうだ。千晃の方も、スタミナ的にはまだ余力が残っている。何故か自身の方もまだまだ元気そうだった。 「もう1回、いいですか……」 「っふは」 彼は笑いながらベッドの下に手を突っ込んだ。半笑いのまま、さっき見たばかりのそれを差し出してくる。 「もう分かるな?」 黙って頷いた。包装を破ってもたつきながら装着し、栄司の腰を抱く。 「入れるよ……?」 「ああ」 2回目はスムーズだった。少し勢いをつけてとん、と腰を当てると栄司が軽く背中を反らせた。 「っあ、は」 思わず、といったような掠れ声が零れ落ちる。ぞわぞわと腰から這い上がるものを感じながら、ゆっくりと動かし始めた。 「うぅ、あー、気持ちいい……栄司さんの中、あつい」 「は……っ」 「ね、栄司さんもちゃんと気持ちいい?」 「ん……」 千晃が問いかけると、栄司が両腕を伸ばしてくる。体を倒すと、ギュッと抱き締められた。 「はぁ、好きだ、千晃」 「うん、俺も好きだよ、大好き」 「千晃……」 耳元で名前を呼ぶ声がする。千晃が腰を動かすと、押し殺した吐息が耳に掛かった。 (うわ、すごい……俺、今栄司さんとセックスしてる……) 頭の中で何かが繋がったように、途端に実感が湧いてきた。昂る気持ちを余すことなく彼にぶつけるように腰を振る。 「ん、ん、はっ」 「……っ」 揺さぶられている栄司が、千秋の背中に僅かに爪を立てた。気持ちいい時の彼の癖だ。かり、と肌を引っ掻く感触にますます興奮した。 「んん、あ、ぅ、千晃」 ぺちぺちと肌のぶつかり合う音と、ベッドの軋む音、荒い息遣い、噛み殺した嬌声が混ざって寝室に響く。栄司は首にすがりついて顔を見せてくれなかったが、頻りに名前を呼ぶ声が甘ったるく蕩けていて、それが何よりも雄弁に快感と愛情を伝えてくれていた。 「っ……栄司さん、俺、もうイきそう」 「ん、ぁ、いい、イけ」 「うん、栄司さんの中で、イく……」 腰を押し付けて、奥の方で精を吐き出す。ぶるりと腰が震えて、気持ちいいこと以外何も考えられなくなった。全部出し尽くして、息を整えながら目を開く。栄司が真っ赤に染まった顔でこちらを見上げていた。 「……見ないでよ」 「エロかった」 「ちょっと」 「っん、ふふ」 気だるげに笑う彼の方が余程色っぽい。入れた物を引き抜いてゴムを捨てていると、ふと大事なことに気がついた。 「栄司さん、1回もイってないじゃん」 「俺はいい」 「えー、俺がやだ」 起き上がろうとする彼を押さえつけて、ベッドに押し戻す。栄司がきょとんと目を丸くしてこちらを見た。千晃ばかり気持ちよくなっていては不公平だ。千晃も彼のことを気持ちよくしてやりたかった。 「栄司さんがイくとこ、俺も見たい」 「ば、っ」 悪態をつこうとした彼の後孔に、指を2本差し込んだ。驚いた栄司は反射的に固まった。構わずに指を動かして、教えられた場所を探る。コリ、とある一点に指が触れた途端、栄司の身体がビクンと跳ね上がった。 「見ぃつけた」 「や、千晃」 そこを刺激しながら、ずっと触れずにいた前に手を触れる。栄司は息を呑んで口元を押さえた。片手で千晃の肩にしがみつく。 「あ、う、んんッ」 「気持ちいい?」 「ん、んんっ」 ぐっと爪が肩に食い込む。その痛みすら興奮を煽るだけだった。ガクガクと栄司の腰が動いて、きゅうきゅうと中が指を締め付けてくる。 「ひ、ぅ、千晃、イく、イく……っ」 「うん、イくとこ見せて、栄司さん」 「あ、あぁ、あ……――っ!♡」 千晃にしがみつきながら、ビクビクッと身体を震わせて達する。千晃の手の中に勢いよく精液が溢れ出した。じっと顔を見ると、遅れてぷいっと横に逸らされる。余韻にヒクつく中から指を引き抜いて、ティッシュで手を拭く。栄司は横向きになってぐったりとしていた。 「…………お前、本当に童貞か?」 「たった今卒業したけど」 「…………行く末が怖いな」 「どういうこと?」 返事は無かった。ゴミを捨ててからベッドの上に戻り、後ろから栄司を抱き締める。素肌が少し汗ばんでいた。 「栄司さん、可愛かった」 「………………ふん」 「なんか機嫌悪くない? そんなに顔見られたくなかったの?」 機嫌直してよ、と正面に回ってキスを落とす。それには素直に応じるのだから可愛い。キスをしていると少しずつ変な気分になってきたが、栄司の明日を考えてこれ以上強請るのは止めておいた。栄司の首筋に顔を埋める。 「このまま寝ちゃいたい……」 「……いいぞ。電気消してこい」 「やったぁ」 直々にお許しを貰ったので、喜んでスイッチを切りに行った。隣に潜り込んで掛布団を被る。初めて一緒に寝るのが裸とは、なかなか大人だ。と子供じみた思考をした。 「明日何時に起こせばいい?」 「……10時」 「分かった。おやすみ」 「おやすみ」 目の前で栄司が瞼を閉じる。愛おしさで胸がはち切れそうになった。 (…………天国?) 目を開けた途端、視界に入ってきた寝顔が綺麗過ぎてどこぞのお姫様かと思った。カーテンの隙間から陽の光が漏れている。 (……7時か) 枕元の時計はまだ早い時間を指している。折角栄司が寝ているのだから、起こさないでおこうと二度寝を決め込んだ。チュ、と軽く頬に口付けて、再び目を閉じる。 (幸せ……) 好きな人と迎えた初めての朝は、温かくて心地よかった。

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