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番外編6

大学が夏季休暇に入って2週間程経ったある日、栄司(えいし)から一通のメッセージが届いた。 『急で悪いが、来週のどこかで3日間程予定を空けられるタイミングはあるか』 (なんでそんな曖昧な……?) 課題を進める手を止め、しばらくメッセージの謎について考える。来週、3日。具体的にどんな用なのかも分からない。栄司にしてはまどろっこしいと言うか、歯切れの悪い内容だった。デートの約束なら、日時から場所、泊まりかどうかまで淡々と決めてくるのに。 (予定自体が不確実なものってことかな?) 天気に左右されるとか、そういう類のものだろうか。そう能天気に考えていた千晃(ちあき)の目に、新たなメッセージが飛び込んでくる。 『そろそろヒートが来る。千晃が良ければ、ピークの間だけでも一緒にいてほしい』 「…………あ」 言われてようやく理解する。付き合いだしてから、発情期中に会うことを提案されたのは初めてだった。 『ヒートの間は正直、あまり会いたくないんだ。オメガの本能に支配されている所を、お前に見られたくない』 付き合って初めての発情期が近づいた時、一週間程連絡が取れなくなる、と申し出た栄司が、少し後ろめたそうに説明してきたことを思い出す。未成年の千晃はまだ番になれないから、一緒にいても仕方ないのかもしれない、とその場は割り切ったが、まさか今それが叶うかもしれないとは。 『言っておくが、まだ番にはならないからな』 後から念押しも忘れないが、これは照れ隠しだと既に心得ている。番にはならないが、ヒートの一番酷い時期に、他でもない自分を頼りにしてくれるのだ。パートナーとしてこんなに喜ばしいことはないだろう。 『いいよ。来週は特に予定ないから、栄司さんの都合に合わせる』 返信を送って1分も経たないうちに、通話が掛かってくる。これまた珍しいことだった。彼は普段、大体の連絡をメッセージだけで済ませてしまうタイプだった。 「もしもし? どうかしたの?」 『……いや。その……』 電話口の声はどこか弱腰だった。さっきから、本当に彼らしくない。 『……いいのか、本当に』 「何が?」 『……ヒート中のオメガは、ピークの時はまともに会話すら出来ないんだ。本能に従って、見境なくアルファを求める……獣、と言っても差し支えない生き物になる』 冷静に話しているように聞こえるが、声のトーンは常の倍以上低くなっている。声が震えるのをどうにかして抑えているのではないか、千晃にはそう感じられた。 「……うん」 『だから……幻滅、するかもしれない』 「それはないよ、絶対」 『いや、でもな』 「栄司さん」 語気を強めて、彼の弱音を遮る。 「俺、嬉しいよ。栄司さんが俺のこと頼ってくれて」 此方の意図が伝わるように、彼への溢れんばかりの愛情が電波に乗って届くように祈りながら、言葉を続ける。 「前にさ、ヒートの時は会いたくないって言ってただろ。俺に見られたくないって。でも、今度は俺に見せてもいいって……栄司さんが見せたくなかった部分を、今なら俺にだけ見せてもいいって、そういうことだよね。俺のこと、信じて言ってくれたってこと、だよね」 向こうで深呼吸をした音が聞こえてきた。まさか泣いてたりしないよな、と若干焦りが混じったが、返ってきた言葉はいつもと同じトーンに戻っていた。 『…………ああ、そうだ』 「ありがとう。俺、栄司さんが辛い時に、傍にいてもいいんだよね?」 『ああ。俺の方こそ……ありがとう』 彼からこんなに直接的に感謝の言葉を述べられたのは、もしかすると初めてかもしれない。動揺する内心を表に出さないようにしながら、日取りを決めにかかる。 「思ったんだけど、俺が来週からずっとそっちに行くんじゃダメなの?」 『い、や、ダメじゃないが。お前の方は大丈夫なのか』 「全然。じゃあ月曜からそっち行くね。何か持ってった方がいいものとかある?」 『いつも通り泊まりの用意と、後は……』 数日後、月曜の昼。千晃は自分の荷物と、頼まれていた物を持って栄司の自宅を訪れた。 「こーんにちはっ」 「よく来たな……ああ、それ」 「うん、頼まれてたヤツ。入っていい?」 「ああ」 入るのは初めてではないのに、どこか新鮮な気持ちで玄関に足を踏み入れる。靴を脱いですぐ寝室に入ると、ふわりと微かに甘い匂いが漂ってきて、ギクリと足が止まった。目敏く気づいた栄司が、振り返って少し熱っぽい目付きで千晃を見つめる。 「…………匂い、気になるか」 「気に……なっちゃった、けど、大丈夫。まだ全然余裕」 「……ヤバそうなら抑制剤を早めに飲んでおけ。俺もピルを飲んでるから妊娠はしないと思うが、万が一があるからな」 「そ、そうだね、そうする……」 抑制剤、ピル、妊娠という単語が出てきたことによって、これからの行為がますます現実味を帯びてきた。落ち着かない気分のまま、手の中にある荷物を掲げる。 「これ、どこ置けばいい?」 「ああ、ベッドの横に置いておいてくれ。2、3本は傍のテーブルの上に出しておいてくれると助かる」 指示通り、スポーツドリンクのケースをベッド脇に置くと、中から3本取り出してベッドサイドの小さなテーブルに設置する。 「夏だからな。水分補給を怠ると脱水や熱中症になる危険もある。余裕があったら飲ませてくれ」 「はーい……」 背後から生々しい注意が飛んできて、どぎまぎしながらペットボトルの封を一度開ける。恐らく、1秒でも早く飲めた方がいいだろう。理由は察するしかない。ついでに抑制剤をポケットから取り出して1錠、口に放り込んだ。甘い匂いがじわじわと和らいでいく。 「……何か、他にすることある?」 落ち着きのない千晃を、栄司はぼうっと熱に浮かされたような眼差しで見つめる。 「……恐らく、今日の夜中辺りからヒートが始まる。既に予兆が軽く来てはいるんだが」 体温が平時より高く、身体がだるく、食欲も全く無いらしい。 「今日の夜中から、少なくとも明後日の夕方頃までは、外と連絡を取っている暇は無いと思ってくれ。まあ四六時中って訳じゃないが、俺が寝てる時はお前も寝てるだろうしな」 つまり、睡眠以外は全部。そういうことだ。 「俺が寝ている間に運良く目が覚めたら、食事なり何なり好きなことをするといい。もし途中で体力が限界になったら、抑制剤を飲んで俺から離れてくれ。隣の部屋を片付けてあるから、俺が落ち着くまでそこに篭っていればいい」 「ちょっ、ちょっと待って。そんなに過酷なの? 発情期って」 「オメガアルファ共に体力勝負だからな。大昔は発情期中の死亡事故があったくらいだ。今は薬もあるし、余程でなければ死にはしないが」 「命懸けじゃん……怖すぎでしょ……」 「……お前がしたくなければ応じなくていいんだ。抑制剤を飲んでいれば、強制的に発情させられることもないからな」 怖気づいた様子の千晃に、栄司は慈愛に満ちた微笑みを向ける。 「俺は、お前が近くにいてくれるだけで充分なんだ。それだけでいい」 本当に心の底から幸せそうに笑う彼を見ていると、恐れていた自分が馬鹿みたいに思えてきた。何も恐れる必要は無い。これからこの人と、二人だけの時を過ごすのだ。 「……シャワーは」 「浴びてきた。栄司さんは」 「浴びてある。どうする、まだ昼間だが……」 閉め切ったカーテンの向こう側を気にする彼の手を取って、ベッドに誘導する。ぽすん、と何の抵抗もなく腰を下ろした彼の隣に自分も腰掛けた。少し戸惑いがちに見上げてくる瞳を、安心させるように見つめ返す。 「……いいのか。もう、戻れないぞ」 「いいよ。栄司さんの全部、俺に見せて」 目を合わせたまま唇を重ねた。熱っぽく潤んだ瞳が、角度を変えて唇を食む度にゆらゆらと揺蕩う。舌を入れてしまうのが何故か惜しく感じられて、かなりの時間、熱い皮膚を押し付けて擦り合わせ続けた。 「……っ、千晃」 「っ、んー……?」 栄司の方が先に焦れて、名前を呼んで舌を差し込んでくる。そのまま思いがけない力で肩を押されてシーツに倒れた千晃の上に、目を据わらせた栄司が覆い被さる。 「ちょ、んっ」 「んむ、は」 驚く千晃に目もくれず、上から容赦なく舌を入れられて、口の中を蹂躙される。 (び……っくりした、食われるかと思った) 元より身長は栄司の方が若干高いし、体格だってそう変わらない。力で押し負けるのは初めてだったが、不思議なことではなかった。怖い、と思うより、今まで手加減されていたらしいことを知ってしまうとどうも面白くない。 「んふ、栄司、さん……」 「んあ、ふ、うぅ」 白い首筋と濃紺の首輪の隙間に指を差し込み、少し汗ばんだ肌を猫の喉を撫でるような手つきですりすりと摩る。それだけで栄司の動きが止まり、耐えられないように身をよじった。オメガの弱点、項の中心。そこをアルファが噛むと番が成立する。 「気持ちいい?」 「う、う……ダメ、だめだ」 「分かってるよ、噛まないから」 「違う……っあ、ん、ぅ」 完全に力が抜けた身体の下から這い出し、首根っこを押さえつけて上に乗り上げる。簡単に動けないように固定して、ずらした首輪の跡をなぞるように舐めると、もぞもぞと身体の下で力無く身じろいだ。鳴き声に怯えたような響きが混じる。 「や、や、だめ、あッ、う」 「絶対噛まないから。暴れないで」 「〜〜ッ、あうぅ」 項の少し下、背骨の上に標的を変えて、点々と朱を散らしていく。首輪に隠れてしまう噛み跡より、余程目立つ痕を沢山刻み込む。 「あ、は……」 「ふふ、可愛い、栄司さん。力抜けちゃった」 ぐったりとうつ伏せになった栄司の背中には、赤い花弁が散ったような鬱血痕が残った。それを見て満足した千晃が身体の上から退くと、薔薇色に染まった頬が緩慢な動作で横を向く。 「はー……千晃……」 まだ直接的には何もしていないのに、感じ入った吐息がやたらと艶っぽい。その声のせいか、はたまたフェロモンが強くなったのか、血の巡りが良くなったような感覚があった。 「なーに?」 「もう、触ってくれ……我慢できない……」 「ン゛」 あの栄司が、自分からおねだりを。熱に浮かされているとはいえ、物凄い破壊力だ。思わず頭を抱えそうになる。 「……いいよ、どこ触ってほしいの?」 「……ここ、の」 ぐ、と膝を少し立てて広げ、腰だけ低く上げた体勢になると、両手を後ろ手に腰へやる。男にしては少し肉付きのいい尻臀を、自らの手でルームウェア越しに掴んで拡げるように開いた。くぱ、と音がしたのは空耳だろうか。 「奥が、ジンジンする……」 「グ……ん、そ、分かった」 (うっっっっっそでしょ…………?) いつになく艶かしい、扇情的過ぎる彼の仕草に目眩がする。鼻血が出てもおかしくない程、とにかく興奮していた。つい二年前まで男子高校生だった千晃には、少々刺激が強過ぎる。 (確かに、確ッかに昔っからエッチな先生だなぁとは思ってた、思ってたけど!!) 付き合う前のテレセもどきの時と言い、付き合った後の体力や余裕からしても、初心な人ではないだろうと踏んでいたが、まさかここまでの魔性を隠していたなどとは夢にも思うまい。狙ってやっているのか、発情して本性が露呈してしまったのか、それとも発情したオメガは大体こうなるのか。いずれにせよ、今の千晃には分からなかった。 「……脱がすよ?」 「ん……」 部屋着を脚から引き抜いて、すぐさま飛び込んできた光景に目を疑う。 「え、しさん、これ……」 下着自体は何の変哲も無い黒のボクサーパンツだが、どう見ても谷間が濃い色に変わっている。つまり、濡れていた。しかも、範囲が尋常ではない。オメガの自然に出てくる分泌液にしては量が多過ぎる。 「すっ……ごい濡れてる、よ?」 「ン、さっき、イった、から……」 「え、嘘。いつ? 全然気づかなかった……」 「お前が、上に乗っかってキスマーク、つけてきた時」 言われてみれば確かに、その後は脱力し切っていた。少し悔しそうに目を閉じて眉を顰める栄司に、愛おしさが込み上げてくる。 (キスマつけられてイっちゃうって、可愛すぎでしょ、栄司さん) 追及の余地はいくらでもあったが、そんなことをしていると互いに持ちそうになかったため、仕方なく飲み込んだ。 「指、このまま入っちゃいそう……」 「んぁ、は、っ、ア」 濡れた布地に指の腹を押し付けて、窪みを抉るように擦ると、栄司が腰を揺らして喉を鳴らす。布越しに分かるほど濡れて蕩けた中から、触るたびに愛液が溢れ出して、とうとう内腿にまで伝い落ちた。 「はっ、は、千晃、も、直接……っ」 下着が全く意味を成さないほど濡れそぼった頃、痺れを切らした彼が涙声で強請る。 「欲しい?」 「ん、っ」 コクコクと必死に首を縦に振るのが何とも可愛らしい。素直な彼に免じてさっさと下着を取り去ると、切なそうに戦慄く秘所にゆっくりと指を差し入れた。完全に熟れた内壁が、千晃の指を味わうようにねっとりと絡みついてくる。 「ああぁ、んん〜〜っ……♡」 「あ、ナカすっごいキュンキュンしてる……イったでしょ、栄司さん」 「ア、ああ、動かすなっ、んあぁ♡」 「あは、連続イキしちゃった? 一気に3本入れちゃったけど、全然大丈夫そうだね」 体液を掻き出すように指をゆっくり抜き差しすると、鼻に掛かったか細い悲鳴が響く。慣らすまでもなく、そのまますぐにでも入ってしまいそうだ。 「うぁ、ちあ、き、千晃っ」 「ん?」 喘ぐ合間に名前を呼ばれ、指を抜いて顔を覗き込む。栄司は涙をポロポロ零しながら、千晃に請うような視線を向けた。一瞬、迷うように息を吸った後、上擦って震えた声で囁く。 「欲しい、千晃……」 目的語も何もかも省かれた二言だったが、千晃にはそれだけで充分伝わった。屈辱と劣情でグチャグチャに歪んだ顔に、そっと口付けを落とす。無言でベルトを外していると、うつ伏せになっていた身体がもぞもぞと動いた。 「千晃、枕」 「ん?」 チョイチョイと手招きされて、彼の頭の向こうにあった枕を手に取る。彼はくるりと身体を反転させて、正面から此方をじっと見つめた。 「…………ああ、そういうこと」 ようやく合点がいった。腰を持ち上げて、枕をマットレスとの間に挟み込む。大きく広げられた脚が、急かすように千晃の腰に絡みついた。 「ちょっと栄司さん。まだゴムつけてないから待って」 「……いい、そんなのしなくて」 「っ、えぇ?」 「ピル、飲んでるから……なあ、早く」 いつもの栄司なら「相手が女だろうが男だろうが、ゴムをつけるのはエチケットだろう。その一瞬すら待てない獣か? お前は」くらい言うはずだ。というか実際、近いことを言われている。そういう栄司に教育されてきた千晃だからこそ、流石におかしいと勘づいた。オメガの本能に呑まれ始めているのだ。 「……駄目だよ。良い子だから、ちょっと待ってて」 彼の身体を押しのけて、千晃がベッドサイドを探ろうとその場を離れる間際、ぼそりと不貞腐れたような声が耳に届く。 「…………いじわる」 「ううっ、意地悪なのはどう考えても栄司さんの方じゃんかぁ……!」 とんでもない生殺し状態の所を、どうにか理性を手放さないように耐えているというのに、栄司ときたらその努力を水の泡にさせようとしてくるのだ。千晃は被害者である。 (ていうか、頭クラクラする……フェロモン強過ぎ) 栄司のフェロモンが薬の効果を上回っているのを感じて舌を巻く。テーブルの上の薬を追加で口に入れ、水を多めに飲んだ。効果が出るのはもう少し後だ。ゴムを着ける手が震えていた。 「栄司さん、お待た……せ」 「んん、んっ、は、遅い……」 後ろを振り返ると、待ちきれなかった栄司が自分の秘所に指を突き入れていた。トプリと溢れ出した愛液がシーツに小さく水溜まりを作っている。頭を強く殴られたような衝撃に襲われて、一瞬理性が飛びそうになった。抑制剤を飲んでいなければ間違いなく駄目になっていた。 「……栄司さんごめん。優しく出来ないかも」 「なんでもいいから、早くしろ」 広げられた脚の間に入って覆い被さると、脚を腰に巻き付けて引き寄せられる。勢いで先端が中に食いこんで、蕩けるような熱さと柔らかさを感じた。堪らず腰を進めて、気づいた時には全てを栄司の中に収めていた。 「んあぁっ♡あー、きた、ちんぽきたっ♡」 「うぁ、待って、何これ、ッ」 「あ、あ……♡千晃、千晃のデカいの、奥まできてる……っ♡」 「はーッ、まって、腰、動いちゃう……っん」 「あぁっ♡あ、あぁんっ♡」 動くつもりは無いのに、カクカクと腰が勝手に前後して栄司の中を蹂躙する。動く度にヌチュヌチュとはしたない水音が鳴って聴覚を犯した。栄司がシーツを握り締めて仰け反り、口の端から唾液を垂らして善がる。 「うあぁっ、はあ♡あっ♡ああァ♡」 「うぅ、栄司さん、栄司さんごめん、俺我慢できない……ッ」 「あっあ!♡はげし、ひあッ♡んっんっ♡」 ストロークを深くして、激しく腰を打ちつけるとグポグポと空気の混じった水音が鳴った。熱くて柔らかいのに、ぴったり吸い付くようにしてきつく締め上げてくる中に、早くも限界が近づいてくる。 「はッ、う、栄司さんイく、イくよ……っ!」 「ああぁあっ!♡あーっ!♡ッッ……♡♡」 ガクガクと手加減無しに揺さぶられて、千晃が射精するのとほぼ同時に栄司も叫ぶような声を上げて達した。アルファの長い射精に、中で脈打つ感覚にすら快感を覚えるのか、小さく痙攣を起こしている腰をぐっと起こして身悶えた。 「はあー……っ、栄司さん、キツい……」 「んん……♡あ、ビクビクしてる……♡」 「っは、ふう……あー、抜かなきゃいけないんだけど……ちょっと待ってね……」 あまりにも気持ち良さすぎて、出し切った後もすぐに動くことが出来ず、なお搾り取ろうと蠢く内壁に揉まれて微かに痛みすら感じる。 「ん、千晃……」 「ん……? あ、んむ」 ぐったりと寝転んでいた栄司がふと体を起こして、千晃の首に腕を回す。力が掛かったのを感じて屈むと、唇を柔らかく食まれた。舌を差し込んで口内をぐるりと舐め回すと、嬉しそうに喉の奥で鳴いた。 「なぁに、キスしたかったの?」 「ん……」 「んふふ、かわいい。いっぱいしようね」 戯れのような口付けを繰り返して、時たま身体を揺すってやると鼻に掛かった声を上げる。さっきから入れっぱなしだというのに、全然萎えない。このまま抜かずにもう一発出来そうだが、ゴムを取らなければならない。腰を引いた途端にきゅうきゅうと中が締め付けてきて、抜くのにだいぶ苦労した。 「んん、はあ、栄司さんの中、気持ち良すぎ」 ゴムの表面に粘液がまとわりついて、てらてらと光っている。口を縛って捨て、新しい物を出そうとすると手を掴まれた。 「……はぁ、クソ」 「栄司さん……?」 切なそうに眉を寄せて、開いた足の間に千晃の指を誘導する。ぐしゃぐしゃに濡れた秘所に指を突っ込まれて、そのままかき混ぜさせられた。栄司が喉を鳴らして目を閉じる。 「ちょ、何」 「早く、生でいいから……生が良い、なあ」 「だっ、ダメだよ! もう、我儘言わないでよ」 「薬を飲んでる。成功率は99%だ、ほぼ確実に避妊できる」 妙に正確な口調に首を傾げる。今の話し方は、意識がしっかりしている時のそれだった。顔を見返すと、ぐっと唇を噛んで頬を染める。潤んだ瞳が、すっと横に逸らされた。 「良いって、言ってるだろうが……」 ドッと体温が急上昇した気がした。彼の本能と理性、両方から求められている。堪らなくなって、腰を掴む手が少し乱暴になった。 「もし妊娠したら、ちゃんと責任取らせてよね……っ!」 「あ、あ、あぁ……っ♡」 落ち着いてゆっくり全てを収め、深呼吸する。物欲しそうに蠢く中をあやすように、ゆったりと動かし始めた。 「うぅ♡んー♡はあ、千晃、もっとぉ♡」 「まだダメだよ。まだまだ時間はたっぷりあるから、ゆっくりしようね」 「やだっ♡はやく、何も考えられなくしてくれ……♡なあっ」 「だーめ」 皮膜を隔てない中は一層熱く柔らかくて、ゆっくりと深呼吸して気を落ち着けないと、すぐに達してしまいそうになる。 「あー……栄司さん、本当すごい、気持ちいい……」 「ひぅ、ううぅ♡あっ、そこ、あぁ♡」 「うん、栄司さん好きだよねここ。いっぱいコリコリしてあげる」 「あー♡♡あっ♡だめいく、イくっ♡♡♡」 「ふふ、う、キツ……っ」 弱い所を責め立てれば、すぐに気を遣ってしまう。ドロドロに溶けた顔に口付けを落とした。 「気持ちいいね、栄司さん」 「あ、は……うぅ、これ、すごい、ヒートすごい……♡」 「はは、いー感じに頭ゆるゆるになってきたね」 「あっ♡あっ♡んんん♡」 脚を折り曲げて、押し潰すような体勢で上から腰を押し付ける。ビクビクと下敷きになった身体が痙攣して、シーツを掴む手がギュッと縮こまった。 「栄司さん、いつもエッチで可愛いけど、今日は素直でもっと可愛いね」 「んん♡はァ、んっ♡」 「ん、中締まったよ。可愛いって言われて嬉しいの?」 「んんぅ、ちが、ちがうぅ♡♡」 「でも、中すっごいうねうねしてるよ」 「あ゛あ、っあ♡ちが、っひ、イくイく、いくうぅ♡♡」 ガクッと脚が跳ねて、中が激しく収縮する。さっきイってから一分も経っていないのに、また上り詰めてしまった。 「はーっ♡は、ふ、ぅ……あ♡」 「栄司さん、もうちょっと頑張れる?」 「ん、もっと……♡」 「はは、全然元気そう……」 恐るべし、発情期の精力。きつく搾り取ってくる中を好きに蹂躙して、射精するためだけに腰を振る。 「あっ♡あ♡ううぅ♡ひぐ、うぅ♡」 「気持ちい、気持ちいいね、栄司さん……っ」 奥に奥に腰を送って、出来るだけ奥の方に出そうと中を掘り進める。グッと腰を押し付けると、最奥の肉の輪が少しずつ綻び始めた。 「あ゛♡あうっ♡それ、や、らめっ♡」 「栄司さん、ここに出したい、ダメ?」 「そこ、そこじゃない♡あぐ、ゔぅうーっ♡」 オメガの子宮はその先には無い。しかし、奥に出そうとする雄としての本能が、そこに種付けしろと千晃を突き動かした。 「ん、ダメ、ここに出すのっ、出すよ……っ」 「あ゛ああーっ♡♡ひああ゛、う、ンぁ♡」 ごりゅ、と先端を結腸の輪に押し付けて、精液をたっぷり注ぎ込む。押さえ込んだ足がビクンッと跳ねた。 「あっ♡あー♡♡はあぁ、う」 「っ、はぁ……」 まだ、足りない。栄司の目がそう言っている。それに奮い立たされて、中に入った物を小さく揺する。 「んっ、ん、ん♡」 「栄司さん、今日は声だだ漏れだね。えっちな声いっぱい聞けて嬉しい」 「んん、やだ、聞くな……ぁ♡」 少し角度を変えて抉っただけで、ビクリと身体を震わせて悶える。簡単に気を遣ってしまわないように調節しながら、ゆるゆると腰を振る。 「ねえ、栄司さん……本当に赤ちゃん出来ちゃったらどうする?」 「ん……♡」 「栄司さんと、俺の子供。きっと可愛いだろうなあ……産んでくれる? 栄司さん」 「ん……赤ちゃん、つくるか。千晃」 ただの戯れだ。避妊に失敗する確率はほぼゼロに近い。しかし、栄司は至って真面目そうに返事をした。意識がハッキリしていないのにもかかわらず、だ。これはもう、実質同意でいいのでは。 「栄司さん、嬉しい……」 「んっ♡おく、おくがいい♡はぁ、っん♡」 「うん、奥にいっぱい出すからね……っ」 栄司の上に覆い被さり、強請るように締め付けてくる中を堪能する。いつの間にか夜が更けていて、フェロモンに頭を蝕まれたのにも気づかないまま、栄司の身体を貪り続けた。 そして、今までにない身体の激痛で目が覚めた。 「い゛、っつ〜…………何、これ」 腰が痛い。痛いを通り越して重い。腕やら肩やらも怠いし、立とうとすると足が子鹿のように震える。携帯で時間を確認すると、あれから丸2日経っていた。冗談だろう。 「あ、栄司さん……」 自分でこれなら、栄司は相当疲れているはずだ。隣を見やると、栄司は枕に顔を埋めてピクリとも動かなかった。恐る恐る顔を近づけると、微かな寝息が聞こえてきてホッと胸を撫で下ろした。 「…………水飲も」 覚束無い足取りでベッドを降りて、ペットボトルに口をつける。記憶は無いが合間に水分補給はしていたらしく、ボトルが一本空になっていた。空いていないボトルの蓋を緩めて後ろを振り返ると、栄司の顔がこちらを向いていた。 「おはよう。飲む?」 コク、と微かに頷いたのが分かって、ドリンクを自分の口に含む。彼の背中に腕を差し込んで抱き起こすと、そのまま口づけた。流し込まれる液体を、栄司がゆっくりと飲み下す。それを何度か繰り返すと、栄司が小さく首を振った。 「もういい?」 また頷く。もしかすると声が出ないのかもしれない。身体をゆっくりとベッドに戻して、ペットボトルをテーブルに置く。 「栄司さん、身体大丈夫? もしかして、声も出せない感じ?」 「…………ぁ、ん゛ん」 「うわ、ガラガラ」 断片的な記憶では、珍しく栄司が声をあげていた。あれだけの音量で叫び続けていたら、流石に喉も潰れるだろう。 栄司は自分の喉の状態を把握すると、枕元の携帯を引き寄せて何かし始めた。少しして、メモ帳に何か打ち込んだ画面を千晃に見せてくる。 『ピークが過ぎた』 「あ、うん。そうみたいだね」 『多分、いつもより早く終わるはずだ。助かった。』 「そうなんだ。良かったね」 『お前、体はどうだ』 「結構ダルいけど、動けなくはないかな。栄司さんは?」 『指しか動かん。腰から下が自分の体じゃないみたいだ。』 「あはは……」 ふ、と栄司が短く息を吐く。次に見せられた文面に思わずギョッとした。 『すごかったな、発情期セックス。』 「ちょっ……!」 面食らう千晃に、栄司は赤い目元を緩ませて吐息だけで笑った。ちょいちょい、と指先で手招きされて、顔を寄せる。 (……ありがとう) 唐突な無声音にドキリと心臓が跳ねる。顎を指で掬われ、下から口づけられた。その微弱な快感に、身体の中の火種が再び燻り始める。 (……そっか、まだヒート終わってないんだった) ピークは去ったが、発情期自体が終わった訳ではない。栄司の瞳にもチラチラと情欲が透けて見えた。素肌を撫でると、栄司が声も無く身を捩る。煽られるままに彼の身体に触れ、肌を寄せ合った。 カーテンを締め切った部屋に、互いの息遣いとベッドの軋む音だけが響く。外と隔絶された空間で、二人だけの時間は未だ続いていた。

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