15 / 17
番外編7
扉を開けた途端、目眩がしそうな程の香りが鼻腔内に充満した。目の前の栄司 は顔を赤くして、随分としんどそうにしている。
「起きてきて大丈夫なの」
そう尋ねた千晃 に、栄司は黙って首を振る。大丈夫じゃないなら寝てれば良かったのに、と言う前に栄司の身体がぐったりと千晃にもたれかかってきた。咄嗟に受け止めて、抱えたまま中に入って扉を閉める。伝わってくる体温は触れた箇所が溶けそうな程に熱い。
「あつい……」
「うん、栄司さんがね」
ぐ、と押し付けられた身体の前側に硬い物が触れる。いい匂いのする項に鼻を擦り寄せ息を吸い込むと、ピリピリと脳髄が痺れるような甘い感覚が全身に広がった。
「美味しそう、栄司さん」
「ん、早く」
ヒート2日目の栄司とまともな会話が成り立った試しはない。抑制剤を服用していても未だ強く感じるフェロモンは、栄司本人の理性をも使い物にならなくさせる。縋りついてくる栄司の腰を抱いて引き摺るように寝室へ直行する。乱暴にベッドへ押し倒して、自身の唇で彼の口を塞いだ。
「ん、んっ、ふ」
「……俺が来るまでちゃんと良い子にしてた?」
「ん……? うん……」
「そっか、良かった」
わざわざ直接聞かずとも、脱ぎ散らかされたスーツと辛うじて体に引っかかっている千晃のシャツを見れば、栄司が健気に千晃の訪問を待っていたことなどすぐに分かる。前回は千晃から連絡するまで、ヒートだということすら知らせてくれなかった。電話口でドロドロに溶けた声を聞いてしまい、危うく大学の構内で叫びそうになった。
「あとね、俺だったから良かったけど、そんな格好で出ちゃダメだからね。不用心にも程があるよ」
「ん……千晃の匂いがした、から」
「あ〜……んー、分かった。今度からはちゃんと確認してから出てね」
「んん……」
(絶対分かってない……)
羽織っただけのシャツに下着一枚など、どうぞ襲ってくださいと主張しているようなものだ。そこらの宅急便の兄ちゃんなら誘惑されたっておかしくない。心配する千晃をよそに、栄司は唸りながら千晃の頬に鼻先を擦りつけるだけだった。
「はやく、キスしたい」
「はいはい……」
極めつけはこの素直さである。普段ほとんど明確なおねだりをしてこない彼が、ヒートの時は欲求だだ漏れ、可愛さ8割増になるのだ。勿論素直じゃない所も可愛いが。
唇をくっつけて触れ合わせ、すぐに舌を入れ込む。深く口づけて舌を強めに吸い上げると、ビクンッと身体を跳ねさせた。脚の間に入り込み、濡れそぼった下着の会陰部を撫でる。
「ぅん、ん♡」
「ここ気持ちいいの? 何にもないけど」
正確には陰茎の付け根部分が埋まっている、らしいのだが千晃にはよく分からない。指を滑らせて盛り上がっている睾丸をつつくと、愚図るような声が漏れた。
「んん、違う、そこじゃ」
「違うの? もうこっちじゃ足りない?」
「ん、足りない、指欲しい、ちあき」
「……しょうがないなぁ……」
度重なるおねだりに何もかも投げ捨てて全てを差し出したくなるが、今はとにかく我慢だ。下着を脱がせて身体をひっくり返し、後孔に指をゆっくりと差し込む。
「んあぁ、あ、あ……っ♡」
「どう? 俺の指、気持ちいい?」
「んっ、きもち、きもちぃ、はあ♡」
「じゃあもっと気持ちいいとこ触ってあげる」
こぽ、と溢れ出してきた液体を中に押し戻すように、指を軽く曲げたまま出し入れする。行き来する途中でちょうど栄司の感じる場所に当たるため、その度に栄司の中がきゅうっと柔らかく締めつけてきた。
「あぁ♡あ、んああ♡っあ、ん」
「すごいね、栄司さん。もうシーツぐしょぐしょだよ」
手のひらは中から出てきた粘液でぬるぬるするし、シーツには染みが出来ている。
「ひぅ、千晃、いきた、イく、イく♡」
「いいよ、いっぱい気持ちよくなって」
「あっ♡んあぁ、あーっ♡♡」
シーツに力一杯しがみついて、甘ったるい声をあげながら魚みたいに身体を跳ねさせる。その途中で指を抜くと、泣きそうな悲鳴があがってまた身体が震えた。息が整っていない栄司の腰を掴んで持ち上げ、無理矢理膝を立てさせる。
「欲しかったらちゃんと腰上げてて」
「ん、うぅ」
ジーンズの前を寛げる間、栄司は言いつけ通りにきちんと膝を立てて待っていた。褒める代わりにいきり立った物の先端を孔に押し付ける。
「は、ぁ……♡」
「これが欲しいの?」
「ん、欲しい、はやく」
「なんて言うんだっけ?」
素面だったらまず言ってくれない。言わせることは出来るだろうが、恐らく恥じらいも無く投げやりに言い捨てられるのがオチだ。それは千晃の求めている結果ではない。千晃が望んでいるのは、恥ずかしがりながら強請る姿か、あるいは。
「っ、千晃のおちんぽ、中にください……♡」
「……ん。よく出来ました」
欲望を優先するあまり、振り切ってしまっているか、だ。自身の孔を指で拡げて強請る様は、暴力的と言っても良いほど淫らで厭らしい。望み通り、膨張した欲の塊をずるりと押し込む。
「〜〜っ、は♡う、ん♡ああ……っ♡」
「……っは、相変わらずすごいね、栄司さんの中」
何度彼を抱いても、このヒート時の熱さと柔らかさにはなかなか慣れない。少し腰を引くだけで、繋がった箇所からくちゅりと水音がきこえる。栄司はもう飛んでしまったのか身も蓋もなく喘ぐばかりで、意味のある言葉を発することはなかった。
「ん♡んんっ♡はっ、あ♡あぁ♡」
「栄司さん……は、気持ちいい」
「ああーっ♡ちあ、ちあき♡イく、ちあきのちんぽでイくっ♡あんっ♡イくうぅ♡♡」
「もうっ、なんでそういうこと言うかな……っ!」
「ア……ッ♡♡♡うぅう、うーっ♡っは、はあっ、はあ……っ♡」
「…………っ、は、キツ……」
搾り取ろうと蠢く胎内を、動かずにひたすらじっと堪える。今出したら後が辛いからだ。発情期はまだまだこんなものではない。ほんの序の口に過ぎないのだということは身をもって経験している。
「ちあきぃ……♡」
「うん、動くよ」
達したばかりだというのに、腰を揺すって煽ってくる栄司の腰を掴んで再び揺さぶり始める。高い声で鳴き出したのをBGMに聞きながら、抑制剤が切れかかってぼんやりした頭で腰を振り続けた。
目を覚ました後、最初にするのはまず抑制剤の服薬だ。怠い体を引き摺りながら、枕元の錠剤を口に放り込む。薬が効く前に栄司が起きてしまわないよう、慎重にベッドから抜け出して服を着る、もしくはシャワーを浴びる。薬が効いて動けるようになってきたら、今度は食事の用意。栄司はまだしばらく食べられないので、自分の分だけだ。
食事を摂り終わったら栄司を起こして、出ていく前にもう一度彼を抱く。殊更丁寧に優しく、愛していることが伝わるように。3日目の栄司は少し会話が出来るので、行ってらっしゃいと行ってきますの挨拶ぐらいは出来る。
「…………行くな」
「ン゛」
まあ、十中八九こうなるのだが。
会話は出来るが自制が利くとは言っていない。ヒートによって馬鹿にさせられた栄司は、寂しいと泣き喚くオメガの本能に従って、千晃を力の限り引き留める。後ろから腰にしがみつかれて変な声が漏れた。一度は送り出してくれてからのこれなのだから、とんでもない二度刺しだ。ほんの僅かに記憶が残っていた栄司は「後ろを向かれると寂しくなる」と言っていた。何だそれ可愛いな。
「栄司さん、勉強優先しろって言ってくれたじゃん。俺、今日大学行かないとだから、良い子で待ってて」
「いやだ。ここにいろ」
「ぐっ……」
頭をぐりぐりと押しつけながら言われてしまえば、抗う術など無く。
「……あと1回だけね」
「ん」
結局、あと2、3回はセックスして栄司の体力が尽きてから家を出る羽目になるのだ。お陰で何度遅刻ギリギリになったか分からない。腰も痛いし。
そんな「キスしたい」も「行くな」も言える無敵の栄司にも、一つだけどうしても言えない言葉がある。
「あっ、あ♡んん、んうぅ♡」
いつも通り、後ろから栄司を貫いて揺さぶる。ヒートは3日目、学校から帰ってきてすぐ行為にもつれ込んだ。白い肌が赤く染まっているのを見下ろしながら、単調にならないよう緩急をつけて腰を動かす。
「ん♡うぅ、うーっ♡は、はっ、あ♡」
「……栄司さん、痕つけていい?」
身を屈めて首筋に唇を寄せながら、断られる可能性を一ミリも考えずに問いかける。栄司は沸騰した頭でかくかくと頷いた。腰の動きを少し緩めて、シャツの襟首から見えないような位置に吸いついた。
「あ……っ♡」
その刺激にすら感じるのか、栄司がヒクヒクと身体を震わせる。中がいい具合に締まって気持ちがいい。
首輪と肌の隙間に指を差し込み、隠れていた部分の皮膚に舌を這わせる。オメガの項は繊細に出来ていて、舐めただけでも大きな反応が返ってくる。
「んあぁ♡うぅ、ンッ♡」
キュン、と中が締まって、彼が軽く達したことが分かった。舐めただけでこれなら、噛んだ時には一体どうなってしまうのだろう。ふと、そんな疑問が頭を過った。
(そういえば、いつ番になるとか、話してないよな)
付き合ってしばらく経った時、20歳を超えたら番になると言っていたが、それ以降その手の話を彼と改まってしたことがない。そして、千晃は今年で20歳になる。忘れられていやしないだろうかと少し不安になったが、今のこの状態でするような話でもないだろう、とその瞬間は忘れたのだ。
「んーッ♡ああ♡は、イっ、く♡ちあき、イく……っ♡」
「ん、俺も……っ!」
栄司が中をきつく締めた途端、耐え切れずに千晃も精液を吐き出す。一滴残らず絞り出して、中から自分の物を引き抜いた。
「えーしさん、こっち……」
「……ん」
だらりと脱力してベッドに横になり、腕枕に栄司の頭を抱き込む。かなり回数をこなして大人しくなった栄司は、何もごねることなく腕の中に収まった。
「ちょっと休憩、しよっか」
優しく栄司の髪を撫ぜる。彼は気持ち良さそうに目を細めて、完全に千晃に体重を預けた。この時間の栄司は、理性側とも本能側ともつかない、半端に混ざった言動をする。
「今日も置いてっちゃってごめんね。本当はずっと一緒にいたいんだけど……」
「……大学、あるんだろ。仕方ない」
「でも寂しいでしょ?」
「…………ああ」
「ね。俺も寂しいもん。栄司さんが一人で辛いだろうなぁ、早く帰りたいなぁってずっと考えてるよ」
「…………そうか」
「……ねえ、栄司さん」
「ん……?」
「俺達、いつ番になろっか?」
栄司の曖昧な相槌が止まったことで、ようやくとんでもないことを言ってしまったことに気がついた。慌てて体を起こし、ぶんぶんと両手を体の前で振る。
「ナシナシ、今のナシで!」
「……どうしてだ」
「や、だって、栄司さんがこんな時に……」
「……いつなら、いいんだ」
「え? そりゃあ、素面の時が一番……」
「違う」
栄司は体を横たえたまま、静かに呟いた。
「いつなら、番になってもいいんだ」
「………………え、と」
そりゃあもう、今すぐにでも。と言いたい所だったが、正気でない栄司を相手に冗談でもそんなことは言えなかった。あたふたと視線をさまよわせながら、小首を傾げてみる。
「20歳の誕生日……の翌日、くらい?」
「……そうか」
分かった。凪いだ声でそう言うと、千晃の腕を引く。されるがままに、ぽすんとベッドに体を埋めた。真正面に見える栄司の顔は、ヒート中とはとても思えないほど穏やかだった。
「……俺は、幸せ者だな」
「栄司さん……」
「……好きだ、千晃」
「うん、俺も好き」
どちらからともなくキスを交わす。そのまま火がついて、二回戦は夜更け過ぎまで続いた。
(……ん?)
その二回戦目の途中、栄司が酸素を求めるように口を動かしていることに気づいた。うわ言のように千晃の名前を呼び、合間にはくはくと口を動かす。気になって律動を止めると、熱に浮かされた瞳が非難がましくこちらを見上げた。
「……ごめん、何でもないよ」
とんとんと腰を押しつけながら、考えるのは先程の不可解な行動についてだった。名前を呼んでいるだけ、ではないだろう。何か理由があるはずだ。息苦しかったのなら、止めて文句を言われるはずはない。
「……ぁき、ちあき、……」
そうこうしているうちに、また例の行動が始まる。口の形からして何かを呟いているようなのだが、生憎と読唇術は会得していない。
("あ"……"え"? 違うな、"あ""ん""え"か)
母音をどうにか読み取った所で、快楽に蝕まれている頭をフル回転させて思いつく単語を挙げてみる。
("だって"、は口の形が違うし……"なんで"? 何が?)
「あっ、ん♡ちあき、……、……っ」
何故か、「なんで」と問うているようには聞こえなかった。名前を呼ぶ時の声はむしろ、もっと、と強請る時の声音とよく似ている。
「…………何が?」
恐る恐る、腰を止めて尋ねる。栄司は不思議そうに目を瞬かせながら、自身の首筋を触った。
「ここ」
正確には、首の後ろ。 オメガの弱点とも呼ばれている部分だった。
(ここ……?)
なんで、からの何が、の問いに対する適切な答えとは言えない。何かが噛み合っていないのだ。待ちかねた栄司が少し愚図りながら腰を揺らすので、腑に落ちないながらも腰を動かし始める。
(ここ……首? じゃなくて項、だよな?)
項。もっと。名前を呼んで、求めるような声。
――……噛んで。
点と線が繋がった瞬間、ざわ、と背筋が粟立った。身体の下でよがる栄司を、呆然と見下ろす。流石に動くことは出来なかった。
「……ちあき……?」
「…………栄司さん」
すり、と首輪を撫でる。恐らく数年程着けているのだろう、年季の入ったそれは、しかし目立った傷も無く、頑丈に彼の項を守り通していた。それを今、外せと言ったら。彼は外してくれるのだろうか。
(栄司さんの、項……)
噛みたい。猛烈な衝動に駆られていた。オメガに求められるということは、理性の檻を壊されるということだ。今これを外されてしまったら、千晃は間違いなく彼を噛んでしまう。
ごくん、と生唾を飲み込む。中に入った物が大きさを増して、栄司が鼻を鳴らした。
「栄司さん、栄司さん……!」
「あ、あ、ふか……っ!♡♡」
腰を抱え込んで、上から体重をかけるように腰を穿つ。力任せの律動に、普段は入らないような所まで千晃の物が入り込んでいく。狭い所をガツガツと打ち込んで、噛みたい衝動を快楽で発散させた。
「栄司さん、気持ちいい、ね」
「あ゛あっ、うぅ♡はぁ、あ゛、あ♡」
「苦しい? ごめんね、でもやめてあげられない……っ」
「ひぐっ♡♡うぅ、う♡かは、ううーっ♡」
多分、ずっとイきっぱなしだ。分かっていても、腰を止められない。止めたら最後、衝動に負けて首輪を剥がしてしまうかもしれない。栄司には無理を強いるが、衝動が去るまで他に方法は無かった。
「ごめん、ごめん栄司さん、ごめんっ」
「あ、んぁ♡ちあき、ちあき……っ♡」
思う様がっついて、瞬く間に限界が訪れる。精液を彼の中にぶちまけて、内壁に塗りつけるように腰を前後させる。飢えにも似た衝動は、辛うじて収まりがついたようだった。ふぅ、と溜息を吐くと、無茶をさせられた栄司が身体の下で震えていた。
「ごめんね、身体辛い?」
「ん…………きゅうけい」
「うん、分かった。本当にごめん」
隣に寝そべって彼を抱き締め、労わるように腰を擦る。栄司はしばらく静かに息をしていたが、ふと千晃の名前を呼んでこう言った。
「俺は、狡くて臆病な人間だから」
「え?」
唐突だった。何の脈絡も無く、ぽつりと呟く。
「……許してくれ」
「……何の話?」
「…………分からん。自分でも」
「えぇ、ちょっとぉ」
本能と理性が中途半端に干渉し合っているのだろうか。ヒート中の記憶はあやふやになると聞くし、思考自体が曖昧になっていても不思議ではない。
「……分かんないけど、違うと思うよ」
分からないなりに、彼の言葉には思う所があった。彼を愛し、尊敬してきた者として。
「栄司さんは優しくて、頭が良くて、ちょっと怖がりなだけでしょ。人より慎重なだけだよ」
「…………お前は」
栄司は千晃の胸元に口元を埋めて、くぐもった声で言った。
「本当に、どうしようもなく俺のことが好きだな」
何か悟ったような口調に、千晃は「まあね」と笑った。
「おはよう。今日は声出る?」
「………………っ」
『出ると思うのか』
「だよね」
今回のヒートも無事に終わった。いつも通り、何ならいつもより塩対応気味な栄司を「これだよこれこれ」と噛み締めながら朝食の用意をする。今日は平日なので千晃は大学に行かねばならない。それが憂鬱で仕方がなかった。折角栄司はヒート休暇で、二人きりでイチャイチャ出来るチャンスだというのに。
『そういえば』
「うん?」
朝食を食べながら、自身で行儀が悪いと言いつつも携帯に何かを打ち込む栄司。
『番になるのは誕生日の翌日でいいのか』
「ゲッホ、え!? おぼ、え??」
『断片的だが、あるぞ。記憶』
「そん……マジで?」
意外な収穫だった。思わぬ誤算にしどろもどろになってしまう。
「あの……その……」
『はいかいいえで答えろ。』
「は、はい!」
『そうか。お前なら当日にと言うかと思ったが』
「あ、それはね」
それは千晃なりに考えた結論だった。
「記念日はさ、多い方が嬉しいじゃん。誕生日と番になった日を重ねちゃったら、記念日が1個減るじゃん。だったら別日の方が良いかなって」
『まあ、らしいと言えばらしいな』
栄司は苦笑していた。絶対、面倒臭いと思っているに違いない。絶対に一人ででも祝ってやる、と心に決めた。
『それまで、我慢しろよ』
ニヤ、としたり顔で笑う彼は、昨夜のことは覚えていない様子だった。それについて責めることも出来たが、千晃はもうそんな子供っぽいことはしない。
「当たり前でしょ」
待つことには慣れている。それも込みで、彼のことを好きになったのだから。番になるまでなど、そう遠い未来でもない。いずれ確実に来る未来を思い描いて、彼の笑顔に千晃も得意げに笑い返した。
ともだちにシェアしよう!