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第29話
彼が食材?装飾?
それが指す意味は死だ。
初めて聞く僕にもわかってしまった。
鮮烈な絵をみたような光景に思考が止まる。
彼を食べようと言った女は酷く肥った化け物で、ニタニタと口角を上げながら高笑いを続けていた
聞きたくもない声を聞きながら舞台上にぐったりと横たわっているヒールを見ると目が合ってしまった。
助けを乞うような目で僕をじっとみつめて、口をパクパクと震わせている。
「い や だ」
声は聞こえなかった、でもそう言ったのは確かだ
彼は涙をぼろぼろと溢しながら、ぐぐっと体を起き上がらせようとするが薬の影響で力が入りきらずべしゃっと崩れ落ちてしまう。
それでも床を掴むように腕を伸ばしずり、ずりと体を引きずってこちらに向かってくる。
「芋虫のようだな」
そのような冷たい言葉を浴びせ嘲笑するこの男に腸が煮えたぎる思いだった。
それでもヒールは地面に額を当て擦りながら助けを乞う、彼には今、蜘蛛の糸にもすがる思いなのがひしひしと伝わってきた。
「あきひと様…お願いします。買い戻してください。私はまだ役に立ちます…もっと良い子になりますから、どうか…どうか何でも致します。
食べられたくないです、まだ生きていたいのです」
震えるヒールの頭を男は撫でた、びくっと顔を上げた彼はほっとした表情で主人の名を口にしかけた時彰人は醜い笑みを浮かべて残酷に言い放った
「あぁ、お前は本当に良い子だ。俺はな…大事に育てたものを壊すのが一層楽しいんだ。
何でもするんだろう?
なら、食われてくれ…もっとその泣き顔と声を聞かせてくれれば俺は大変満足がいくんだよ。
一度くらいは俺をイかせてくれ。」
「そんな…いや、いやぁ!」
司会者の男も待ち望んでいたかのようにヒールの腕を掴むといつの間に用意されていたのか、禍々しい血がこびりついたギロチン台の元に引きずっていく。
ヒールは腕を伸ばすが掴むのは空気のみだった
嫌な汗が次々と背中を伝っていく。
ズキズキと頭が痛い
胃液が口を溢れて地面にだらだらと垂れている
どうすれば、どうすればいい?
涙も吐き気も止まらないなか、結論を出すよりも体は勝手に動いていた。
「…あっ」
手を掴んでいた、僕に無視は出来なかった。
心臓が張り裂けそうな程脈を打っている。
汗が止まらず呼吸もしにくい。
「君は死んじゃ駄目だよ」
僕は何も出来ない、こんなことをしたらきっと僕も一緒に処分されてしまうかもしれない。
でもそれならもう良い
ごめん、お母さん、桜…お父さんもごめん。
約束守れなくて
けど僕は僕として生きていけなくなるなら、皆が守ってきてくれた僕で生き絶えたい
この生き方じゃ僕はいずれ自分で死んでしまう。
だって人に踏みにじられながら笑ってなきゃいけないなんて耐えられないよ
ヒールの腕を掴んでいた手に噛みつく。
咄嗟に離した隙を逃さず僕は彼を背に庇い両手を広げた
「何でこんな事ができるんだ!」
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