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第30話

「これはこれは、何方かの奴隷ですかぁ?」 何ができるわけでも無い小さい存在の春樹はただ両手を広げるばかりだ。 助けられたヒールはぐったりと地面に横たわりながら体を震わせていた。 「僕らはおもちゃなんかじゃない」 声を震わせながら言い放ったハルは恐怖にただ耐えた そんな彼に大人達は一斉に銃口をハルに向ける。 「一旦下げろ」 司会者の男がそう言うと大人達は大人しく銃を下げる 革靴が床を蹴る音が響かせながらこちらに近づいてくる男は口調も雰囲気も変わる。 「確かに人間は家畜では無い、しかし君達は違う。 親の借金の代わりに出された品であることを忘れてはならない。 購入者が物をどう扱おうと勝手、檻から逃げだせば殺される、そういう世界なんです。そこに理由はただ一つ飼うか、飼われるか。…残酷ですよね」 ただ淡々と事実を述べるだけ、こちらを可哀想とは1ミリも思っていないのは刺すような冷たい目から感じられた。 男の手がハルの顎をくいっと持ち上げ、じっと瞳を覗き込まれる。 ただ負けたくなくて必死に睨みつけた 「さてこれからあなたをどう調理しましょうか」 震える口を必死に開く。 「…処分できないんだね」 「なんでそう思うのですか?」 「僕が檻から出されても誰もこちらを見向きしなかった、初めは処分なんていつでもできるからだと思っていたんだ、でもそれならこの状況で問答無用で処分される筈だよね。なのに貴方は銃を降ろさせた 貴方がこの場での主導権を握っているのかな?違うよね、もっと偉い人が指示しないと動けないんだ」 「まぁ大体そうですね、それであなたには何も出来ない。状況は最悪なことには変わりないですよ。 私は今からあなたを売りさばくにしろ、持ち帰ることも可能ですから」 「それは困るよ、司会者くん」 凛とした声が舞台に響いた、覚えのある声と瞳に写した人物に僕は急にお腹の底が冷える感覚がした。 そこには才加がにっこりと笑みを浮かべていた。 「これはすまない、それは僕の奴隷なんだ。 まさかこんな所に紛れてしまうとは思わなかったからね。その子をこちらに寄越してくれないか」 「全く貴方も人が悪い。首輪しか着けないとは、しっかり鎖もしておかないと食い荒らされてしまいますよ。折角綺麗な子を見つけたのに残念ですね」 「これからは気をつけるよ、ところでハルはそのヒールというのが気に入ったみたいだね。 まだオークションは可能かな?」 「あー…まぁこちらとしては金さえ出してもらえればお譲り致しますよ。」 司会者の男は冷たくヒールを一瞥し言った。 まるで興味が無いのだろう。 「すまないが特例ということで譲ってくれないだろうか、金はそうだな3億だそう。 折角競り落とした苦労を無駄にしてしまって申し訳ないね。マダム?」 マダムと呼ばれた女はわなわなと震えて唾を撒き散らしながら喚いた。 「…駄目よ!だって私が競り落とした獲物ですもの、美味しく頂きたくて、もううずうずしておりましたのよ!?」 空気が震えるような怒号を浴びたのに、才加は笑顔を張り付けたままだ。 「ならもっと払えば良いじゃないですか。 金が払えないならその臭い息を撒き散らさないでくださいよ。 どうせ今回のオークションのお金すらどこからか借りてきたものでしょうに。」 「な、何を言って!」 「金はすでに用意しているんだけど、君としてはどちらを取るのかな?」 才加は女を無視して司会者に問いかける、男はすんなりと頷いた。 「勿論出していただける額が多い方に…交渉成立というわけで、どうぞお引き取り下さい」 「おいでハル、その子はちゃんと僕のカイビトが回収するから君は僕の手をお取り」 「…はい」 僕は言われた通り才加の手を恐る恐る握った。 「言っただろう、ちゃんと君を守るって。 悪かったね彰人、あ、ちゃんとAK様って言った方が良かったかなぁ。 君のおもちゃを取ってしまって、でもまだ金は頂いていないし僕の物に手を出したら凄く高いの知ってるだろ?」 「全く良い趣味だよお前」 「それはどうも…行くよハル」 僕は得体の知れない恐怖を感じていた、助かった筈なのに状況は良くはなっていない。 まるで彼の掌で踊らされていたんじゃないか、きっとそうだったに違いない。 僕は試されていたんだ、あの場所でどういう行動を取るのか…笑顔を貼り付けながら優しく手を握るこの人は何を考えてそうしたんだろう。 考えるな、きっと良くないことだから ずきずきと頭痛がする、本能が叫んでる。 この人は一番危険だと

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