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第3話

病院へはタクシーを呼んで向かった。 今の母には運転は無理だと子供ながらに察していた。 母は、桜を膝に乗せて持ってきたウサギのぬいぐるみで遊んでいる。 だが、タクシーに乗る時も幾度かふらついていて、何かをしていないと今にも崩れてしまうように見えて、自分も合わせて明るい声で会話した。 病院へ着くと、母は一瞬立ち止まって桜と自分の手をぎゅっと握って前に進んだ。 目はまっすぐ前を見据えている。 中へ入って通されたのは、ドラマで何回か見たことがある霊安室 中には白い布をかぶされた人が横たわっていて、恐る恐る自分が布を取った 僕は母の口からしか聞いていない父親の死をここで初めて実感して、おそるおそる母の顔を伺うと先の電話の時よりも顔面が蒼白になり、自分たちの手を握りながら糸が切れたように膝を打ち付けて地面に崩れた。 もしかしたら、僅かな期待を持っていたんだろう。 自分と同じでただの聞き間違いだと 母の悲痛な叫びが室内に響く。 桜も理解しているのか、母につられてなのか泣いた 僕はじっと父の白い顔をじっと見つめていた。 こらえきれない涙が頬に次々と線を作っていく、でも声はあげなかった これからは自分が二人を守っていかなきゃいけないと言われたような気がした

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