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第2話
今日は非番なので昼頃に目が覚めた。
カイは俺より早く寝ていた筈なのにまだスヤスヤと眠っている。
とっくに麻酔は切れている筈だが、寝ている時に体力を使うような事をしたからかもしれない。
「あ…。出しっぱなしだったし、結局使わなかったな」
俺は体を伸ばした後、ベッドから起き上がって床に落ちているものを拾う。
結局昨日は自分が思っているより疲れていたのか用意をした大人の玩具は使わずに性急に終わってしまった。
俺は玩具の括れに指を這わせた後、名残惜しさを感じつつそれを片付ける。
「朝…には少し遅いけど朝昼兼用で何か作るか」
俺は棚についている扉を閉めると、これから何を作ろうかと頭を巡らせる。
実はカイとは一緒に病院近くのマンションに一緒に住んでいる。
はじめはカイと親友とが一緒に住む予定だったらしいが、兄弟仲が良くないので親友はカイと住むのを拒否したらしい。
母親がサポートに来ると言う案もあったらしいが、病院長婦人の仕事があるためそれも叶わず病院近くの安アパートに住んでいた俺に白羽の矢が立った訳だ。
家賃や水道光熱費はカイの実家持ちだし、カイが言えば何でも揃う環境は俺にとっては天国だ。
カイと一緒に住む条件がカイの生活のサポートをすることなので俺にとっては好条件でしかなかった。
本当の箱入り息子のカイは生活能力がゼロだったことを一緒に生活してはじめて知った。
料理は当然できないし、洗濯なんてもっての他。
掃除は逆に物を広げてしまうし、髪も自分では乾かせない。
「卵があるし、パンも冷凍庫にあるな」
台所に来た俺は、冷蔵庫の中を確認してメニューを考える。
カイは米よりパン派だし、肉類は食べないが加工肉の類いは好き。
魚も骨があるから嫌いだし、野菜は好きだから完全に見た目通りのウサギちゃんって訳だ。
好みを把握するくらいにはカイとは仲良くやっていたりする。
「パンはカイが起きてから焼けばいっか!」
冷凍庫から小分けに冷凍しているパンを出してトースターの横に置いてから、フライパンをコンロの上に乗せる。
火をつけてフライパンを温めている間に、冷蔵庫から出した玉子をボウルに割り入れ、塩コショウと牛乳を入れて菜箸でときほぐす。
フライパンにバターを入れて、バターが溶けた頃先程作った卵液を入れる。
ジュゥっという音がしてフライパンに当たった卵液はすぐに白く固まってくるので、急いでぐるぐると回しある程度固まってきたところで火を止めて丸めていく。
掌の下でフライパンの柄をトントンと叩くと玉子が綺麗に丸くなってくる。
用意しておいた皿にできたオムレツを乗せて、フライパンをもう一度火にかけてもうひとつ手早く作って空いたフライパンですぐウインナーを焼く。
弱火にして、ウインナーの中まで温める為に少量の水を入れてから蓋をした。
ウインナーを焼いている間に、皿にスーパーで買ったカット野菜を乗せてプチトマトを数個手に持ってそのまま蛇口まで持っていく。
ヘタを取って三角コーナーに入れて流水でヘタを取った所を指の腹で擦る。
水を切ってから皿に乗せると、とたんに彩りがよくなった。
「ほまれ…おはふぉ」
「あ、自分から起きてきたんだ。えらいね!」
そろそろウインナーを皿に乗せようかと思っていたところで、カイが自分から起きてきた。
のそのそと歩く姿を見て声をかけてやると、褒められて嬉しかったのか少し口角を上げて笑う。
友達の少なかったカイは笑い方も不慣れなのか少しぎこちないがそこがまた可愛らしい。
「パンはどうする?」
「1枚」
「分かったよ」
フライパンの火を消して、トースターにパンを入れる。
カイはのんびりとダイニングテーブルに座ってこちらを眺めはじめた。
俺は皿にウインナーを乗せてからテーブルにカトラリーと一緒に運んでやる。
カイは自分では全く手伝おうという気は無いので俺がお世話をしてやらないと何にもできない。
そんなカイに益々庇護欲が掻き立てられる。
「はい。パンも焼けたよ」
「ん。あ、ありがと…」
「どういたしまして」
トースターのタイマーが鳴ったので、食パンを取り出して自分の分をもう一枚入れておく。
取り出した食パンを喫茶店風に斜めに切って食べやすくしてあげる。
切ったパンを皿に乗せてテーブルに持っていき、カイの前に置くと小さく感謝の言葉が返ってきた。
少し照れくさいのが頬が少し赤くなっている。
昨日の夜に散々俺に身体を弄ばれたにも関わらずそんな事も知らずに初々しいことだ。
「誉…えっと…」
「あ!ケチャップだね。忘れてた」
カイがもじもじと何かを言いたそうにしているのに気が付いて、テーブルの上を見るとケチャップが無い事に気が付いた。
自分で持ってくれば良いのに、俺にお世話をしてほしいからなのか俺に気が付くようにさせるなんて可愛いところもあるんだな。
まぁ、単純に何処に有るのか知らないからなんだろうけど。
カイは甘めのケチャップが好きで、玉子料理にはよくケチャップをかける。
加工肉が食べられるのはケチャップがあるからかもしれない。
俺はもう一枚焼いていた自分のパンを皿に乗せて、冷蔵庫からケチャップを取り出す。
ボトルの物と瓶に入っている物とを持って反対の手には自分用のパンが乗った皿を持って席につく。
「はい。じゃあ、いただきます!」
「いただき…ます」
俺が手を合わせると、それに続いてカイが手を合わせた。
テーブルの真ん中に置いてあるバターを取って、パンに塗るのをぼんやりカイが見ていたが我に返ったのか手元にケチャップを引き寄せる。
最初にボトルに入っている物をオムレツにかけると、瓶の物をウインナーの脇に山にして盛り付けた。
俺はサラダにドレッシングを振り、フォークで食べる。
パックになっている野菜だがシャキシャキとしていておいしい。
カイは小さくオムレツを切ると口に含んだ。
「おいしい…」
「ケチャップがじゃなくて?」
「ちがっ!ちゃんと誉のご飯おいしい」
「それは良かった。私もカイにそう言ってもらえて嬉しいよ」
ぽろっと漏れた感想に、俺は嬉しくなって少しからかってやった。
すると臆面もなく純粋な反応が返ってきたので、俺もカイに微笑んでやる。
一人称が私の時は猫を被っている時で、起きているカイの前ではまだ猫を被っているのだ。
今はカイも気軽に話してくれるようにはなったが、慣れるまでにはなかなかに時間がかかった。
あれが本当の借りてきた猫というやつだろう。
少し頬を染めながら、もそもそとオムレツを食べているがどんどんケチャップのゾーンが小さくなって行くのに肝心のオムレツは全然減っていない。
「いくら塩分が低いと言っても、ケチャップばっかりじゃなくてウインナーとかも食べなきゃダメだよ?」
「ん。分かってる…」
寝起きだからか、俺の言うことを素直に聞いてウインナーの横に山にしたケチャップをディップして小さい口を開けて食べる。
ウインナーの皮が弾けるパキンッという音が食欲をそそる。
瓶に入っているケチャップは、カイの為にわざわざお取り寄せしているものだ。
実家ではこんなお行儀の悪いことはできなかったので、本人曰く今は随分とのびのびとやれているらしい。
「昨日は疲れてたからか、夕食も食べずにぐっすり寝てたね?」
「ゲーム勝てなくて悔しかったから、頑張ってたら疲れた」
「そっか。TVは消してから寝たの?」
「音がうるさかったから…」
俺が研修から帰ってきても寝ていたのは俺が出勤前にカイと一緒に対戦ゲームをしていて、俺に勝てなかったのが悔しくて一人で特訓していたかららしい。
持病持ちの正真正銘の箱入り息子なカイはゲームなんてしたことがなく、家庭教師やら日々習い事をしていてテレビゲームなんてやった事が無いと言っていた。
そんなカイに息抜きの為にゲームを買ってやったのだか、天性の不器用さで一向に上達はしていない。
むしろ俺の方が上手い位だ。
夜の事は麻酔を使ったので当然ながら知りもしないので、カイは何事も無かったかの様に今度はパンを千切って食べていた。
「でも、ソファーで寝たら身体が痛くなるからちゃんとベッドで寝なきゃダメだよ?」
「だから腰が痛いのか…」
「ベットまで運ぶの大変だったんだよ?」
「うっ。それはごめん」
実はお互いに自分の部屋はあるが、カイにイタズラした夜は一緒に寝ている。
カイは俺より早く起きることは無いので、その事も知らないでいた。
ソファーで寝ていたからという嘘で本当は俺がイタズラしたせいで腰が痛いのに、原因をすり替えた。
カイは納得した様だったが、本当は俺に抱かれたせいだとは微塵も思って居ないだろう。
そんなお間抜けなところも本当に可愛くて仕方がない。
「後で湿布貼ろうね?」
「うん」
「素直でよろしい」
レタスをシャクシャクいわせながら食べるカイに微笑んでやると、恥ずかしそうに頷いた。
素直に頷いたのを褒めてやると、少し頬をそめる。
本当にカイはチョロくて扱いやすい。
次はどんな事をしてやろうか。
実習が始まれば、実習にかこつけて起きている時にイタズラをすることもできるのに、まだ1年生ということもあって座学がメインだから当分寝ているカイとしか遊べないな。
「お互い休みだから折角だし何処か行く?」
「んー。腰痛いけど、本屋行きたい」
「カイは本当に本が好きだね。カイの事を本の虫っていうんだろうね」
カイに提案をしてみると、ある意味予想通りの答えが返ってきた。
カイは本が好きで、特に専門書の類いが好きみたいだ。
本を読んでいると俺の声も聞こえないし、何をされても周りで何をしていても気にならないらしい。
本格的にカイと遊べる様になったら、本を読んでいる時にイタズラするのも楽しそうだ。
そんな事を考えながら、カイと出掛ける話をしながら穏やかな時間が過ぎていく。
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