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第4話
エレベーターで1階に降りると、マンションの前には見慣れた真っ赤な高級車が停まっていた。
少し小走りでその車に近づいて窓をコンコンと軽くノックする。
すぐに窓が開いて中に居た人物から車に乗る様に言われたので、扉を開けて車に乗り込んだ。
「遅くなっちゃいましたか?」
「大丈夫。時間通りよ」
「それは良かった」
運転席にはどこかカイの雰囲気に似た女性がハンドルを握っている。
車は高級住宅街を抜けて少し郊外にあるホテル街に来ていた。
少し日が傾きはじめているのでネオンの光が目に痛く感じる。
ホテル街の奥の方にある少し高級感の漂うホテルの駐車場に車が停まった。
俺は車が停まるとすぐに助手席から降りて運転席側にまわる。
運転席の扉を開けて女性の手を取ってホテルの中へエスコートしていく。
「好きな部屋選んでいいわよ」
「本当ですか?じゃあ、露天風呂ある部屋にしちゃおうかな」
ホテルに入るとエレベーターホールにタッチパネルがあって、液晶画面には部屋の内装やら設備が表示されている。
好きな部屋を選んでいいと言われたので折角なので露天風呂がある部屋の部屋番号を押した。
部屋を選んだ後はすぐにエレベーターが開いたので2人で乗り込む。
「本当に露天風呂なんてある部屋があるんですね。見てくださいよ紗子 さん」
「そうね」
「あ、帰りは俺が運転するんで呑んだらどうですか?注ぎますよ」
「なら、銘柄は何でもいいから白ワインの甘口にしてちょうだい。あるならデザートワインがいいわ」
部屋に入ると突き当たりに大きな窓が見えて、そこの奥には大きなバスタブが見える。
一応ホテル街とは言え建物の向き的に眺望はいいだろう。
相手は部屋に入るとベッド横にあったソファーに座ったのでテーブルの上にあるタッチパネルを俺は持ち上げた。
このホテルにはウェルカムドリンクのサービスがあり、このタッチパネルで注文をする事になっている。
俺がタッチパネルを操作している横で相手は服を脱ぎはじめた。
「紗子さん…まだ準備してないんですけど?」
「あらいいじゃない。私はお風呂に入っているからゆっくりいらっしゃい」
服をおしげもなくソファーに投げ捨て、全裸のまま露天風呂へ向かう女性へ呆れ気味のため息が出た。
女性は年齢の割に引き締まった身体をしているのは院長夫人という立場でエステや身体に気を遣っているからだろうか。
俺は相手の事は哀れな女としか思っていないので裸を見たからと言って欲情したりムラムラするという事は一切ない。
相手の女性と身体の関係があるのも向こうから求めてくるからに他ならないし、俺にしたらこの行為は小遣い稼ぎの一種でなんの感情もわかない。
適当に自分のドリンクと相手のドリンクのボタンを押して適当なつまみも注文しておく。
料金は全て向こう持ちだから、俺はかわいいツバメ役を演じていればいいのだ。
「紗子さん気が早いですって」
「あら?あなたが露天風呂がある部屋が良いっていったんじゃない」
「言いましたけど、ドリンク位待てないんですか?」
すぐにドリンクが運ばれて来て扉の横にあった受渡し口からワインクーラーに入ったワインボトルが来た時は流石に少し驚いた。
自分の頼んだドリンクに少し口をつけ、スラックスのポケットからスマホを出してジャケットを脱いでからワインの詮を開ける。
ワイングラスにワインを注いで、そのまま露天風呂の方へ運んでいく。
半野外の露天風呂はジャグジーになっており、泡が湯船の中を見えなくしている。
ジャグジーの横に腰掛けカイに似た少しつり上がった目元にバードキスをした。
彼女は口紅で真っ赤な唇が弧を描いて俺が差し出したワイングラスを受け取ると不敵に笑う。
「うわっ!何するですか」
「ふふふ。水も滴るいい男って所かしら」
「もぉ。着替えなんて持ってきてませんよ」
「新しいの位買ってあげるわよ」
「それならいいんですけどね」
ワイングラスをジャグジーの縁に置いた彼女が俺へお湯をかけてきた。
避けたところで腕を引っ張られ湯船の中に引きずり込まれてしまう。
当然服を着たままだったので服は水浸しになってしまった。
対した服でもなかったが彼女が前回買った服だったのでそこそこいいブランドの物だったのだが、今は胸に貼り付いて身体が透けてしまっている。
そういえば前回はワインをわざと溢されたんだったと思い出す。
当然ワインを溢された服も彼女が買ったものだ。
「ふふふ。いい身体ね…」
「えー?紗子さん男なら誰でもいいんでしょ?」
「あら?そんなことはないわ。でも年寄りはテクニックがあるし、若ければ若いほど初々しいのがいいんじゃない」
「私は初々しいうちに入りますか?」
「あらあら。貴方は若いけどとっても上手よ…」
彼女が俺の胸へ手を這わせる。
その手付きが蛇みたいだとこっそり思うが、そんなこと尾首にも出さずに可愛く首を傾げてみると手が頬を撫で顎に降りてきた。
真っ赤な唇が近付いてきてキスされる。
咥内にアルコールの香りとデザートワイン特有の甘みが広がった。
着ていたYシャツのボタンを外され、ベルトのバックルに手がかかる。
カチャカチャと金属の音の後にベルトが外され、ファスナーが下げられた。
焦らす様に下着の上を唇と同じ色のゴテゴテした爪が乗った指が滑っていく。
その色がカイみたいだなと思う。
「あの子は元気にしている?」
「紗子さん俺と居るのに、息子の事が気になるの?」
「ヤキモチ焼かないの。そりゃ気になるわよ」
「別に心配しなくてもちゃんと面倒見てますよ」
実はこの女性は親友とカイの母親で、俺のパトロンなのだ。
露天風呂からベッドに移動して、情事が終わるとコンドームをベッド横のゴミ箱に捨てている横では残りのワインを呑みながらカイの事を聞いてきた。
何故そんなにカイの事が気になるのか理由を知っているが俺はあえてそれには触れない。
俺は相変わらず可愛いツバメを演じている。
カイは不実の子で現院長の父親である理事長の子供なのだ。
俺の親友は現院長との子供で、紗子さんが本人曰くとっても可愛い新人看護師の時に病院に内緒で夜のバイトをしている時にお客で来た現院長と関係を持った時にできたらしい。
そして結婚後家に入った紗子さんは理事長である義父と関係を持ったそうだ。
息子であるカイが高校生になっても一緒に風呂に入り、下半身のお世話もしてあげていたらしい。
そしてその息子の面倒を見させている俺とも関係を持っているんだからなかなか凄い人だ。
冷静に考えると気持ち悪い話だが、俺にしたらどうでもいい話だしバイトと割りきっているので多少の事はどうでもいい。
この話は紗子さん本人から聞いたのではなく、親世代の事は闇医者を紹介してくれた人が俺の身辺調査している時に知ったと話してくれた。
カイの事はカイ本人が言っていた。
カイはマザコンと言うわけではないが、極端に友達が少ない上に人間関係も上手く行ってないのでそれが変なことだと認識していなかった。
そんな不実の子なのが何処からか漏れるのを恐れているのか子供の頃から過保護とみせかけた監視をしているのだ。
「今日は本屋に行って専門書を沢山買ったので、今は大人しくそれを読んでると思いますよ」
「そう。あの子昔から本が好きだったから、本を読んでいるなら安心ね」
「そんな心配するほど大切な息子のお世話係を呼び出してるのはどこの誰ですかねぇ」
別にどうでも良かったが、バイトの料金に見合う行動を取るために俺は拗ねた素振りをしてみる。
本心では特に何とも思ってもいないがこれもサービスの内だと割りきっていた。
紗子さんは最初から他の話題を振る度拗ねる素振りをする俺へ気を良くしているので、今日のバイト代はそこそこ貰えそうだ。
最後のワインを飲み干すと紗子さんはワインを呑んでいた事など微塵も感じさせないほど何事もなくベッドから立ち上がって、ベッド横のソファーに脱ぎ捨てた服を身に付けていく。
流石大病院の院長夫人なだけあって、身に付けている物は全部一流品だった。
「この子に適当に合わせてちょうだい」
ホテルから出て紗子さんの車を俺が運転して有名なブランド品の取扱店に来た。
濡れたYシャツは着られないのでジャケットだけを素肌に羽織り、スラックスと下着は仕方ないのでそのまま着てきた。
店員も驚いた顔をせずに下着から一式そろえてくれた。
新品の服を見に纏い、濡れた服はショップのビニール袋に入れてから紙袋に入れてもらった。
紗子さんは捨てろと行ったがこっそり持って帰ってきた濡れたYシャツも車に帰ってからビニール袋に入れた。
「送れなくてごめんなさいね」
「気にしないでください」
「はい。今日の分と、送ってあげられないからこれでタクシーでも乗って帰りなさい」
「ありがとうございます」
車でカイの実家である現院長宅の駐車場へ車を駐車場するすると、紗子さんが茶封筒を渡してきた。
それを受け取った後に、一万円札をポンッと2枚渡される。
お礼を言って別れ際に物影で左の口許にある黒子にチュッとキスをされた。
手を振って紗子さんが呼んだタクシーに乗り込む。
しかし、紗子さんが家に入ったのを確認してワンメーターにもならない距離でタクシーを降りた。
人気のない所で口許を手の甲で拭い、封筒の中身を確認するとお札が10枚見える。
タクシー代として貰ったお金も封筒に入れて失くさない様に服が入った袋に入れて、タクシーを降りた場所から最寄りの駅を探して俺の住んでいるマンションまで電車で帰った。
「はぁ。ただいまー」
マンションに帰ってリビングに入るとカイがまだ本を読んでいた。
俺が出掛けてから5時間位経っているのに体勢が変わっていないので5時間そのままということだ。
俺は慌てて自室に戻って部屋着に着替えると、カイの本を取り上げた。
「こら!また本ばっかり読んで動かなかったてしょ。水分補給ちゃんとした?」
「言われなくてもしたし…」
一応カイの横には昼に買った水のペットボトルが置いてあって中身も減っていたので少し安心した。
昼間準備しておいた料理に火を入れて、渋るカイと夕食を食べる。
野菜のスープに入っているベーコンをきちんと食べてえらいねとカイの頭を撫でてやると満更でもなさそうに当然だといってきたので微笑ましく思った。
あの蛇の様な母親とは大違いだなと俺はカイと楽しい夕食を楽しんだのだった。
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