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第11話
バスルームはもくもくと湯気で充満していた。
下半身だけ丸出しの、俺はカイをバスチェアに座らせてまずは自分が上着を脱いで脱衣所にある篭に放り投げる。
続いてカイの着ている服を全て脱がせて同じく篭に放り投げた。
さっくりカイの頭を洗ってタオルを巻いておいてやる。
「よーし。折角だからこの前買ったこれ使ってみようか!」
俺の声がバスルームに微かに木霊する。
俺は洗面台の扉の中から持ってきた指サックを両手の親指と人差し指にはめる。
指サックには突起が着いていてブラシの様になっていた。
ネットでは犬用の歯ブラシとして売っていて、寝てしまったカイの歯を磨くのに買ったのだが別の事に使えるのではないかと持ってきていたのだ。
歯ブラシというだけあって、シリコンだろう長い毛が先端についていて何も着いていない指でなぞると少しこそがしい様な手触りだった。
一緒に洗面台から持ってきたストックのローションの蓋を開け中蓋を取り除く。
パッケージを見てみると可愛らしい字体で“媚薬入り”との文字が見えた。
「媚薬入りかぁ。何でこんなの買ったんだろう?」
思わず声が漏れるほど買った覚えのない物に首を捻る。
もしや貰い物かとも思ったがまぁそんな事はいいかと思い直してカイの胸にローションを垂らした。
少し冷たかったのか、カイの身体がビクリ揺れる。
俺は気にせずカイの背中側に回り最初は触れるか触れないかのフェザータッチでまずは人差し指で右側の乳首に触れてみた。
指先に付いている毛がぞりぞりと皮膚を擦っていくのが分かる。
指サック越しでも触っている感覚がするのだと少し感動してしまう。
今度は親指と人差し指を使って乳首を磨く様に擦ってみた。
「え?」
カイの腰が椅子からぐぐっと浮き上がり揺れたかと思うとペニスから透明な液体が飛び出す。
こんな事位で簡単に潮吹きしてしまった事に、俺の方が驚いてしまう。
驚き過ぎて手が止まるがまだ刺激が欲しいのかぐっと胸を反らせて俺の指に乳首を押し付けようとしている。
これはもしや怪しげなこの“媚薬”の効果なのかと成分表を見たい衝動にかられたが、それはぐっと我慢してもう一度乳首を挟んで擦ってみた。
やはり腰を浮かせてかくかくと腰を振りながら潮吹きしたカイを見て、俺は変なスイッチが入ったのか楽しくなってきてしまって何度もカイの乳首を擦る。
「あ、あづい…」
「え?あ、ごめんカイ!」
何度目かの潮吹きでカイが苦しそうな息遣いに変わる。
暑いのかへっへっと短い間隔で息をしているので顔を覗き込むと顔も赤い。
俺は慌ててカイの頭から水をかけ、抱き上げる。
身体が濡れているのも構わずリビングに走り、ソファーに置いてあったバスタオルを広げてカイを横たえた。
頭から水を掛けた事で冷えすぎてしまったのか、少し震えてしまっているのでタオルで巻いておく。
急いで風呂に戻り身体や髪を洗って湯船に浸かる。
俺は十分温まったので湯船から上がってお湯を抜いておく。
湯船からお湯が抜けるまでの間に身体を拭いて着替えてから、髪を乾かしたり床の掃除をしている間にお湯が全て抜けたので風呂掃除まで終わらせた。
「はいはい。カイ~お待たせ!」
震えが止まっている事を確認してから身体を改めて拭いてやろうと思ったが、バスタオルに包まれているカイは赤ん坊みたいにすっぽりとバスタオルにくるまれており可愛いなと改めて思った。
少し無理させ過ぎたのを悪いと思って背中に手を差し込み上体を少し起こしてやる。
ゼリータイプの経口補水液の封を開けて、飲み口をカイの唇に押し当てた。
カイの唇がうっすらと開いたので、飲み口を咥内に押しこみパックのお尻を押すとこくりと喉が上下したのでほっとした。
少し飲ませて喉が上下するのを確認してから、また咥内へゼリーを流し込むという作業を繰り返しているといつの間にかパックが空になっている。
カイの頭を撫でたところでそんな気分はすっかり削がれてしまっていた。
大きなあくびが出るが、とりあえずカイへ服を着せて頭を乾かしてやる。
「今度はあの犬用の歯ブラシでお腹の中ナデナデして、前立腺沢山擦って綺麗にしてあげるからね」
座らせたカイの薄い腹にぐりぐりと頭を擦り付けると、カイからぐえっとカエルの様な声が聞こえた。
本当にこの身体は貧弱だなと思いつつも、でもこの貧弱な身体を維持しているのは自分だという自負もあったのでこれまた肉の少ない太股に頭を乗せてふぅと息を吐いた。
もう少し肉がないと膝の骨が肩に当たって痛い。
服の上から脇腹や太股を触ってみてもやはり触り心地がよくない。
明日の朝は少し肉を食べさせようと思いながらカイを抱き上げてベッドルームへ向かう。
「からだいたい」
「カイおはよう。どこが痛いの?」
「おはよ…。歩くと痛い」
「ならそこの椅子に座れる?」
次の日の朝、しょんぼりした顔のカイがベッドルームから出てきた。
歩き方が少しおかしいので、挨拶もそこそこにダイニングテーブルとセットになっている椅子に座らせる。
軽く朝食を作っていたので濡れた手を急いでエプロンで拭って座っているカイの前に跪く。
「ここ?」
「違う」
「なら、ここ?」
「イタタタタ!」
自分の太股にカイの白い足を乗せてまずは足首を触るが、ここが患部ではないらしいし。
特に腫れていたりもしないので、首を捻りつつ脹脛を触るとカイが痛がりはじめる。
その上も触ってみると、やはり痛いというのだ。
どさくさに紛れて尻も揉んでみるがここは痛くないと言われた。
俺は思わず大きなため息がもれてしまう。
「カイ?すっごく言いにくいんだけどさ?」
「え!何か悪い病気なのか?」
「残念ながら病気ではないねぇ。むしろ健康な証拠かな」
「こんなに痛いのに?」
俺の言葉が信じられないらしく、カイが驚いた顔をする。
そりゃ“病気ではない”のに“むしろ健康”と言われたら身体中が痛いのに信じられないだろう。
「昨日体育の授業で何した?」
「は?何で昨日の授業の話になるんだ?」
「いいから思い出してみな」
「えーと。昨日はテニス?を室内コートでやった」
「ボールは打ち返せた?」
「全然無理だったし、そもそもボールが早くて追い付けなかった」
「走ったんだね?」
「体育の授業だからな…」
ここまで言っても分からないのかと頭を抱えたくなった。
頭の中では別の事が心配になってくる。
大丈夫か一年生。
いくら文系だったのを理系に転向させたとはいえ、一般的に広く知れ渡っている事だし、基礎知識だろう。
「おい!」
「あぁ。ごめん。心配要らないよ。ただの筋痛だね」
「は?」
「一般的には筋肉痛ってやつだよ」
俺が押し黙った事でやはり何か重い病気にでもなったのではないかと心配になったのか大きな声を出すカイに俺は笑いかける。
一般的には、運動が終わった数時間後から翌日から翌々日というように、時間を置いて起こる“遅発性筋痛”が、“筋肉痛”と呼ばれている。
慣れない運動を行った時や普段使わない筋肉を使いすぎた場合などに顕著に現れるが、普段運動をしないカイにとって、突然の激しい運動で筋肉に負荷がかかれば当然筋組織が傷付きそれを修復する時に痛みが起る。
めでたく全身筋肉痛の完成だ。
俺の言葉が理解できないのか首を傾げたので筋肉痛の説明をしてやる。
「大丈夫かい。医学生?」
「た、多分その勉強これからだし!」
「まぁ、何処の大学も1年生のうちは基礎教養の学習で2年生から専門分野だけど…。多分詳しいメカニズムとか知らなくても筋肉痛は一般常識かもね」
「そうなの?」
説明が終わるとはじめての知識に感心していたが、俺は少しため息がでた。
小学生でも知っている現象をカイは知らないのだ。
それは子供の頃から過度な運動を避けるように言われ、尚且つ友達も居ないので触れることのない知識だったのだろう。
クラスで行事の後にどこか痛いと言っていた子は居ないのだろうかと思ったが、カイの反応を見るにそういう子が居たとしても聞いてなかったかそもそも関係ないと興味がなかったのだろうと容易に想像が付く。
「まぁ追々勉強してかなきゃだね」
「う…」
「じゃあ、カイくんに質問です!」
「は、はい!」
「筋痛の所見には一般的に何が処方されるでしょうか?」
「え!えーっと…」
俺に問題を出されると思って居なかったのだろう。
カイがうーんうーんと頭を悩ませている間に、俺は朝食の準備を再開する。
今日の朝は簡単にトーストと目玉焼きにウインナーにサラダといった定番の朝食にこの前作っておいたミネストローネだ。
それらをダイニングテーブルに並べて一応湿布も持って着席して待っていたがまだ悩んでいたので俺は少しトーストを齧る。
「わ、解った!湿布!」
「はーい。正解。でも、正確には消炎鎮痛剤だね。でも、患者さんには湿布って言えばいいよ。では次の問題です。これは医薬品でしょうか?」
「え!えっと」
俺が机の上の湿布の袋を持ち上げると、またカイが悩みはじめたのでそろそろ朝食を食べないと色々遅れてしまうので助け船を出してやる。
袋を差し出し袋の下の文字を指差してやった。
「えーと。“いやくぶがいひん”?」
「そうだね。医薬部外品は、“部外品”ってついてるだけあって医薬品ではないんだよ。こんな話してると遅くなっちゃうから早くご飯食べるよ。出かける前に湿布貼ってあげるからね」
「うん…」
俺はトーストの続きを齧りながら目玉焼きにソースをかける。
カイには容器にミルがついた塩を渡す。
若干黄色っぽい色をしている塩にカイは不思議そうな顔をしている。
「その塩、最近実験室で精製したんだよ。ちょっと不純物が残っちゃって黄色っぽいんだ」
「へぇ。塩の精製なんて本でしか読んだことない!」
「今度海水で作ってみる?」
「本当か!」
カイは嬉しそうに目玉焼きに塩をかけて、ナイフで白身の部分を切りはじめた。
パクリとそれを口に入れるとにこりと俺に微笑みかけてきた。
俺もにこりと笑いかけながら食事の続きをとる。
この前尿検査の授業の時に顕微鏡で見た献体の尿中にナトリウムが混ざっていてそれでふと気が付いてしまった。
自分の尿から塩が精製できるのではないかと。
実験は見事成功して、少し色が残ってしまったけれど上手くすれば色の問題も解決するだろう。
その精製した塩を食べるカイに、俺は更に微笑みかけてやるのだった。
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