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第19話
胸にキスマークを着けてから数日経って、やっとキスマークに気が付いたのかカイが真っ赤になって俺に詰め寄ってきた。
「誉!」
「ん?どうかした?」
「これ何だ!」
俺が台所で料理をしていたら、カイが洗面所から走ってきた。
俺の前で着ていたモコモコのパジャマをめくりあげてキスマークが消えて紫色に内出血になっている場所を指差す。
手元から目線をあげてカイの方を見るとカイは真っ赤な顔でいかにも怒ってますと頬を膨らませている。
俺はふふふと笑い声をあげてしまったので、カイが更に怒りだした。
「何で笑うんだよ!絶対にこんなところに内出血できてるのおかしい!誉のせいだろ!」
「やっと気が付いたの?」
「なっ!」
別に隠すつもりもなかったので俺は小首を傾げるとカイは信じられないという顔をする。
驚いているカイをそのままに、俺は料理を続けた。
湯がいた麺を可愛らしい柄の丼に入れて、丼とペアになっている茶碗にスープを入れた。
それをダイニングテーブルに持って行くと、我に返ったのかカイが俺の横にやってくる。
俺は椅子を引いてそこにカイを座らせ、自分はカイの向かいの席に腰をおろす。
「寝ているカイがチラチラ胸元見せつけて来るからちょっとイタズラしたくなっちゃったんだよね」
「そんなわけないだろ!」
「でも、見せつけてくるから美味しそうなチェリーちゃん食べたくなっちゃったんだもん」
目の前丼をズイッと押すと、湯気に気を取られつつ未だに怒ってますと頬を膨らませる。
正直に理由を述べると恥ずかしさが上回ったのか気まずそうに丼に目を落とした。
箸をぎゅっと握り俺へチラチラと視線を送ってくる。
俺は前で手を合わせて謝罪のポーズを取った。
「こ、今度からは…起きてる時にしろ!怪我したのかとビックリしただろ!」
「ごめんね。今度から気を付けるね」
肌の白いカイの胸に浮かぶ内出血は綺麗に紫色をしていた様に見えた。
小さな鬱血痕だっったのに、患部が広がってしまいカイも気が付いたのだろう。
俺はにっこりとしつつ謝るとカイからはふんっと鼻息がもれた。
「今度、スーパーじゃ売ってない様な美味しいケチャップ買ってそれで料理して俺を満足させられたら許してやる」
「お安いご用だよ」
「それよりこの黒い麺何だ?焦がしたのか?」
良いことを思い付いたと言わんばかりの顔で俺へ提案してきたカイだったが、そんな事で機嫌が良くなってくれるなら安いもんだ。
しかも、買い物に使っているカードはカイの名義なので本当にお安いご用なのだがカイは気が付いていないのだろう。
名案を俺に提案してご機嫌なカイはすぐに俺が目の前に置いた丼の中身を覗き込んで首を傾げる。
「今日のお昼は竹炭を練り込んだ自家製うどんを豆乳で作ったスープにつけて食べるつけ麺にしてみました」
「ちく…たん?」
竹炭と、お馴染みの俺の髪の毛や最近は爪を燃やして作った炭を練り込んで黒いうどんを作り、豆乳をベースにしたスープには白ごまのゴマペーストと一緒に冷凍していた精液を解凍して入れた。
勿論自分の分は別に作って、カイの食べる分のみ俺の“愛”が沢山詰まっている。
竹炭という説明にカイは耳慣れない単語に首をかしがてしまった。
その仕草が可愛くて思わず席を立ってそのままベッドに連れ込みたい衝動にかられたが、そこはぐっと我慢をして微笑みかけるだけにする。
「竹を炭にしてその炭を食品加工した物だよ」
「え!炭を食べるのか?」
「竹炭は高温で焼き上げるから雑菌なんかは付かないよ。一応食品用を買ったから食品安全的にも問題ないからね」
「へぇ」
カイは俺の説明に驚いた顔をしたが、納得したのか丼の中のうどんを眺めている。
まぁ、正確には竹炭以外の物も入っているのだが俺は竹炭パウダーの袋を台所に取りに行きカイに手渡した。
「豊富なミネラル、腸内環境の改善とかの効果もあるのかぁ。ちくたんって凄いな!」
「真っ黒だから最初はびっくりしちゃうけど、体に良いんだって。研修先の先生に教えてもらったんだよ」
当然研修先の先生に教えて貰ったなんて真っ赤な嘘で、いかにカイへ俺の“愛”を食べさせられるか考えた結果だった。
俺はニコニコとしながらカイが注目していない机の中心に置いていた蒸籠を開ける。
俺の動きに気が付いたカイがこちらを見ると、カイの目が一気に子供の様にキラキラしたものに変わった。
俺が開けた蒸籠の中には可愛らしいペンギンの形をした万頭が入っている。
カイ用には小ぶりにしてペンギンやパンダの形をしていて、俺の分は別の蒸籠に入っていてカイの物より一回り大きく動物の形のではなくシンプルに作っていた。
抜かりなく動物の形の万頭の黒い部分は竹炭と俺の“愛”が入っている。
「何これ!可愛い!」
「ペンギンやパンダの形の万頭だよ。私のはアンコや胡麻餡やカスタードやチョコ餡が入ってるんだけど、カイのはパンダがアンコでペンギンがカスタードだよ。さぁご飯にしようね」
「うん!」
さっきの事などさっぱり忘れてとってもいいお返事が返ってきた。
全部食べなくてもいいよとカイには言ったが、そもそも食べる量が少ないカイの為にうどんも少なめだし万頭も食べやすい様に小さく作っている。
麺を啜るのが下手くそなカイを見ながら俺も竹炭入りの麺を啜る。
我ながら豆乳スープのまったりとした味に胡麻の風味が効いていて旨いし、味変としてラー油を入れて食べると風味が変わってこれまた美味だった。
ラー油を入れた俺を見て、自分も入れてみたいと言うが俺のを1口食べてから入れるの決めたらどうだと図らずしもカイへあーんと食べさせる事に成功した。
俺は超の着く程の甘党ではあるが、俺でもそこまで辛くないと思っていたのにカイには少し辛かった様で慌てて水を飲んでいる。
それがとてつもなく可愛い。
「辛かったかぁ」
「誉だってあんまり辛いの得意じゃないって言ってたのに!騙された!」
「確かに私は甘党だけど、これはそこまで辛くないとおもうんだけどな。まだ辛いなら口直しにペンギンまんでも食べてみたら?」
蒸籠をカイの方へ押してやると、カイはひょいっとペンギンの形の万頭を取り上げて一瞬考えてからぱくりと口に含んだ。
多分一瞬考えたのは見た目を可愛くしたせいで食べるのを躊躇ってしまったからだろうとは思うが、口の中は辛いせいでヒリヒリしているのを押さえる為に万頭を食べたのだろう。
小さめに作った万頭を両手に持って小動物の様にもぐもぐと食べる姿は益々可愛らしくて写真を撮りたい気持ちにさせられたが、生憎と携帯電話はリビングに置きっぱなしにしている。
カイとの時間に水を刺されたく無かったし、何かあれば着信音で気が付くので問題はないのだ。
「ペンギンまんのお味はどう?」
「甘くてほんのり暖かくておいしい」
「また少し冷凍しておくから、瀬戸さんに温めてもらって食べてね」
味の感想を聞くと、ボソボソと返事が返ってきたので俺は嬉しくなってストックを作った事を伝えたら再び少し頬を膨らませてしまった。
俺があまり家に居ないことが寂しいのだろう。
今度は俺にも聞こえない位のトーンでボソボソと何か言っているので俺は思わず席から立ち上がってカイを抱き締めてやった。
驚いたカイは少し抵抗をみせたが、頭を撫でてやるとすぐに大人しくなる。
「ご飯を食べ終わったらイチャイチャしようね」
「い、イチャイチャなんて…しないし!」
「またまた~」
カイの頭に頬擦りしてから離れると、目線では名残惜しいと言っているのに俺が茶化すとつよがりを言う。
そんなところも可愛くてまた頭を撫でるが満更でもない様子なのでうちのウサギさん可愛すぎると心の中で叫んでしまった。
俺は席に座り直し残りのうどんを食べてから万頭達を食べていく。
まずは定番のアンコが入った餡まんに口をつけた。
市販のアンコを使ったのだが、万頭の皮のほのかな甘味にアンコが絡んで大変おいしい。
次に胡麻餡、カスタード餡、チョコ餡と食べ進める。
どれもおいしく自分の分も冷凍しておいて良かったと心から思った。
少し前にカイの料理のストック用に大きな冷凍庫を導入してもらったので益々料理のレパートリーが増えた。
そして何より瀬戸さんに俺の“愛”を冷凍庫へ保存しているのを見られずに済む。
前は一応瀬戸さんに見られるのは良くないと思って食品の合間に隠すように入れていたのだが、俺しか開けなくなったので冷蔵庫の冷凍室の上の引き出し部分へコンドームや他の物も無造作に入れられるようになったのだ。
「急がず食べな」
俺の精液が入った白濁した濃厚スープに浸して、俺の髪の毛や爪を炭化させた物を練り込んだ麺をカイが啜れずにちまちま食べているのを見ているたけでとても幸福な気分にさせられる。
万頭の餡にも何か入れれば良かったと思ったが、皮の部分には竹炭と一緒に麺にも入れた物と同じ物を入れたのだから欲張ってはいけないと思い直した。
そういえば寒くなってくれば尿素入りのハンドクリームなんて物も売られ始めるなとぼんやり考える。
製品の尿素は石炭や天然ガスなどの化石燃料から取り出した水素と、空気中の窒素を合成してアンモニアを作り、この過程で発生した二酸化炭素をアンモニアと合成すると尿素ができあがる。
当然人間の尿からも抽出できる。
尿から生成するには有機化学や、生物化学の知識が居るのだがさすがに俺もそこまでの知識はまだない。
「うどんはどうですか?」
「うん!最初は色にびっくりしたけどうまい!」
空いた時間にまた実験室を貸して貰おうとカイの口許を拭いながら計画を立てる。
カイの笑顔をみて、俺は尿素入りのボディークリームや化粧水を作る決意をするのだった。
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