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第5話 「白間学園」
「なあに」
「俺というか、ティーン相談室宛に依頼があったんだ。叔父貴からなんだけど」
「陽樹の叔父さん?」
「親父の弟で、白閒グループへ婿に入った人なんだけど」
白閒と聞けば、有名な白閒学園という中高一貫の進学校を有するグループだ。
その叔父は陽樹がよく遊んでもらった人で、子供と同じ視点に立って物事を考えられる、陽樹が尊敬している人である。その陽樹の叔父が、困り果ててこの間、陽樹へ連絡を寄越して来たのだ。前から友達みたいな人だと思っていた陽樹だったが、電話が来たときはザ・末っ子といった感じだった。
「白閒学園ってお坊ちゃま高校だよね」
瀬那がお坊ちゃま高校と言ったのは、男子校だからだろう。
「ついこの前学園の理事長に就任したらしいんだけど、あの人大勢を纏められるような器の人間じゃあないんだよ。生徒の悩みを解決してほしいってことなんだけど」
「つまり出張ティーン相談室ってわけだね」
「そう。いつもは子供の依頼で動いてるわけだけど。今回は叔父貴の依頼なんだ」
イレギュラーである上に、人間関係のトラブルで高校を中退した瀬那にこの話を持ちかけることを陽樹は迷っていた。いつもは即返事がモットーの陽樹だったが、1日自分の中でよく考えてから、今日瀬那に相談する運びとなったのだ。
陽樹は起業したといっても社員は陽樹ひとりしかいない。だから瀬那は大事なビジネスパートナーであり、お悩み解決のボランティアに瀬那が乗り気でなくなったら困る。
「陽樹がよく遊んでもらってる叔父さんでしょ。助けに行こうよ。それに僕もう19歳、立派な社会人だよ。いつまでも高校生を怖がっていたら、ティーンお悩み相談室ができないでしょ」
「ありがとう瀬那。一人で行こうと思っていたから助かるよ」
「陽樹はいじめっ子と不良性とをとっ捕まえる役目でしょ。悩める高校生も陽樹にじっと見られたら怖くて話せないよ」
そういって瀬那は笑う。
「いついく? 明日でいいか。日曜だし、全寮制だから寮で話しが聞けるだろう」
真剣に話しを聞いてくれる瀬那。唇がぷるぷるで陽樹は吸込まれそうになる。なにを話そうとしていたか忘れてしまった。
「あ、リップ変えたの分かった? 春の新色だよ。陽樹も僕と一緒にいる内にコスメに詳しくなったんじゃない?」
のんびり過ごしている内に、外が暗くなってきた。
「そろそろ帰るな」
「うん! また明日ね」
明日の朝、瀬那を載せて学園へ行こう。
瀬那のアパートを出ると、まだ冷たい夜風が古傷に染みた。
子供時代をしばらくアメリカで育った陽樹は、ストリートの喧嘩にしばしば巻き込まれていた。思い切り肩を脱臼する怪我を負わせられたこともある。この時代の日本で珍しくネイティブな喧嘩ができる陽樹は、子供たちの喧嘩を仲裁するときに役立っている。
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