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第6話 寝起きの悪い幼なじみ

 愛する瀬那のアパートへやってきた陽樹。愛車を駐車場のいつも空いているスペースに停めて降り立つと、ようやく昇ってきた朝日が眩しくて陽樹は腕で日差しを遮った。  日曜の早朝。アパートは疎か町内は静寂に包まれている。  陽樹はB号室のチャイムを鳴らす。  無音。恐らくまだ寝ているのだろう。  いつもは陽樹が大学の講義が入っていないときで、瀬那もコンビニバイトのシフトが入っていないときに会っている。こんな朝早くではなくて、昼頃や夕方だ。長居して夜まで瀬那の部屋に入り浸るときもある。  だから、瀬那の部屋にこんな早朝に来たのは初めてのことだ。昨日事前に時間は伝えておいたが、瀬那は朝が弱いらしい。  電気メーターのボックスを開くと、銀色のシンプルな鍵が置いてある。瀬那が合い鍵を仕舞っている場所だ。陽樹は親友だが、瀬那から合い鍵をもらってはいない。というか、親友は合い鍵をもらう間柄ではない。  この鍵は瀬那が、突然いなくなった母が帰ってきたときに、瀬那がアパートにいなくて、母が鍵をいなくしてしまって入れなかったら困るから、電気メーターのボックスに鍵を隠しているのだと陽樹は教えてもらった。元から瀬那と瀬那の母は電気メーターのボックスに鍵を隠すのがお約束だったらしい。  よく植木鉢の下や電気メーターのボックスに鍵を隠す人がいるが、陽樹は正直なところ、不用心極まりないのでやめてほしいと言いたい。ただ、瀬那の母を待つ気持ちは陽樹が口を出せることではないので、一度も言ったことはない。  さて、瀬那の部屋の前から、陽樹はスマホで瀬那に電話を掛けてみる。やはり応答はない。叔父との約束に遅れてはいけないので、電気メーターのボックスから取り出した鍵で部屋に入る。玄関には大量の靴が綺麗に並べてある。 「何人暮らしだよ」  シューズロッカーが無い部屋らしく、全ての靴を瀬那はなんとか、二段重ねにするとかの工夫をして玄関の端に並べているのだ。女性ものの靴があるが、これは全てが瀬那の母の靴というわけでは無く、何足かは瀬那自身の靴だったりする。レディースの一番サイズが大きい靴が、丁度瀬那の足にぴったりらしい。  ワンルームだから、ベッドの上で布団が盛り上がっているのが見える。枕を抱きしめるようにして、綺麗な横顔でスヤスヤ眠っている瀬那。メイクをすると女性に見える瀬那だが、ノーメイクだと雰囲気で男性だと分かる。美青年といった感じだ。  陽樹はベッドの脇に膝をついて、瀬那の顔をまじまじと覗き込む。 「せーなー。起こしに来た。おーい、起きろー」  隣人まで起こしてしまっては申し訳ないので、耳元で囁く様に起こす。 「うーん、ふん、ふんふん」  瀬那が目を瞑ったまま、連続して頷き始めた。多分まだ脳みそは眠っている。 「光で起こそう」  陽樹は立ち上がると側のカーテンを開いて、日光を部屋に入れた。窓の外で風に揺らめく木の葉が、瀬那の部屋にまだらの影を落としている。 「うーん? んー」  瀬那が大きく身じろぎした。足で布団を蹴っ飛ばして、壁の方へ寝返りをうって、背中を向けると、眩しくなくなったようで、再び寝息が聞こえてくる。 「こいつ何時に寝たんだ」  夜更かしでもしていたのだろうか。瀬那のことだから、今日遠出するからと沢山荷物を準備していて寝るのが遅くなったのかもしれないと陽樹は溜息をついた。 「振動で起こそう」  大きな音で急に起こされるより、他の方法でゆっくり起こされた方が人は目覚めがよいらしい。陽樹は瀬那の肩と腰を掴んで揺さぶった。 「おーきーてーせーなー」 「んー? はるきー?」  振り返った瀬那はまだ寝ぼけているのか、ぽわぽわした笑顔で陽樹の名前を呼んでくる。 「うん。迎えに来た。朝ご飯は何食べるの、って何何々」  陽樹は瀬那に両手で頬を包まれる。

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