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第7話 手作り朝食
寝起きの子供みたいな温かい手だ。何ならミルクみたいな優しい匂いがするし、瀬那の顔が凄く近い。
「子供みたいな顔。羨ましいな」
「悪かったな童顔で」
何事かと思ったら。陽樹は頬を膨らませながら、キッチンへ向かう。
「いつも朝ご飯なに食べてるの」
「んーふわぁ。えっとね、作り置きのおかず」
やっと瀬那は目が覚めたようで、ベッドの上に起き上がっている。
陽樹が冷蔵庫を開けると、タッパが綺麗に並べられていて、色とりどりの常備菜があった。朝は野菜しか食べないと前にも言っていた気がする。
「一応コンビニでパンとスープ買ってきたけど」
「スープ何味?」
「コーンクリーム」
「飲む!」
「OK、朝ご飯並べるから、瀬那は行く準備していいよ」
「ありがとねー」
このアパートには洗面所がないので、瀬那が流し台で顔を洗っている。
その間に陽樹は電気ケトルで湯を沸かしながら、電子レンジで常備菜をひとつ温めて待つ。電気ケトルが蒸気を吹き始めたら、カップスープのビニールを剥がして、湯を注いだらコンビニでもらってきた箸でかき混ぜてテーブルに置く。丁度電子レンジが鳴ったので、温野菜とチキンのサラダを、タッパのままテーブルに配膳した。
振り返ると瀬那がクローゼットの前で薄手のセーターに頭を通したところだった。静電気でアホ毛がふよふよしている。陽樹は思わず笑顔になってしまった。
大学生とはいえ仕事をしている陽樹は難しい顔をしていることの方が多いし、家にいるときは、それはそれで背筋を伸ばしていないといけない。両親や兄に、陽樹はだらしないと思われたくないからだ。
瀬那のアパートに来ているときは、つい気が緩んでしまうのだろうと陽樹は思う。
「あ、もう陽樹ったら、まだメイクしてないから僕の顔あんまり見ないで」
「飯できた」
「ありがとうだけど、メイクが先じゃないと嫌」
「でもスープ冷めちゃう」
「ぬぬぬ……」
陽樹から顔を隠すようにしながら、瀬那はテーブルについてサラダを口に運んだ。
「野菜から食べると太らないらしいよ」
「へー大事じゃん」
「その前に陽樹って野菜食べなくない? 朝なに食べてきたの」
「肉食べた」
陽樹の家では朝食がカフェのモーニングセットくらいヘルシーなメニューとなっている。それでは陽樹の腹は満たされないので、家政婦に頼んで毎日朝食は赤身肉を焼いてもらい、目玉焼きを乗せて食べている。
「毎日ステーキ食べて太らないなんて羨ましいよう」
泣きべそをかくマネをする瀬那。
「まあジム通ってるから」
「ボクシングジム? 続いてるんだ。凄い」
「ストレス発散にはスパークリングが丁度良いんだ」
内なる破壊衝動はため込んでいると爆発してしまうので、社会的に許される方向で発散する必要がある。それはスポーツや、大声で歌うことが良いらしい。良くない例は、物や人に八つ当たりしてしまうことだ。
「僕アレ行きたい、壊していい部屋。テレビで紹介してたよ」
瀬那が言っているのは多分、部屋にある家具を全て壊しても良いという、東京にあるアトラクションみたいなやつだ。
「今度いこうか、乗せてくよ」
「ほんとう? じゃあお礼にサラダ一口あげる。お肉ばかり食べて野菜不足になっている陽樹に。はい、あーん」
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