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第8話 出発準備万端

 瀬那がサラダを箸で掴み、陽樹の口元に差し出してくる。 「んあー。――たいへん美味しい」  まず味付けがされている時点で陽樹の家で出る野菜料理とは違う。陽樹の家で出される野菜料理は基本的に別個にソースがあって、味がなく切って煮ただけの野菜にかけて食べるようになっている。それと違って瀬那の作るサラダは野菜自体に味が付いている。陽樹は料理をしないのでどうやって野菜自体に味がつくのかは知らない。前もって塩を振っておいただけでは、こうはならない。 「よかった」 「サラダにチキンが入ってる。家のサラダにも肉入れてくれないかな」 「家政婦さんが作るなら、僕の作るのより美味しいと思うんだけどな」  首を傾げてから、瀬那はスープを啜ってほっと一息ついた。陽樹は瀬那に化粧前の顔をあんまり見るなと言われてしまったので、テレビでも付けてみる。日曜朝のテレビは、のんびりしていた。平日のような慌ただしさがない。 「ごちそうさまでした」  瀬那が食べ終わったところで、食器を片付けようとする瀬那から食器を奪い取ってシンクに運ぶ。 「瀬那は化粧して荷物詰めて、あとアホ毛どうにかして」 「ありがとー」  食器を退かしたテーブルで瀬那が化粧を始める。陽樹は空になったタッパーを食器洗剤とスポンジで洗いながら、時々瀬那の方を見ていた。 「今日の服、いつもより大人しいな」 「うん、メイクも薄めにして、リップはティントにしようかな」  詳しいことは陽樹には分からないが、薄化粧ということらしい。肩くらいまで伸ばした髪をヘアアイロンで内側に巻いている。 「瀬那きのう何時に寝たの」 「んー? 10時頃かな」 「ほっといたら半日寝れるじゃん」 「そうそう。ロングスリーパーみたい僕。陽樹はちゃんと寝れた?」 「いつも通り」  陽樹はアメリカの技術者とテレビ会議のだが、アメリカと日本では時差があるため、向こうに合わせて夜の遅い時間に会議をしている。大学のレポートもあるから、自然と寝る時間は短くなってしまうのだが、人間の睡眠サイクルは1時間半ごとに訪れるという。だから三時間後に目覚ましを書けると陽樹はスッキリ目を覚ますことができるのだ。 「よしっ、ばっちり」  前髪を上手に巻けたようで、瀬那はテーブルに置いた鏡の前で髪の毛を左右に揺らしている。瀬那の身体も一緒に左右にゆらゆら揺れていた。  大きいトートバッグに化粧セットを詰める瀬那。ぱんぱんに膨らんだバッグは凄い大荷物だ。陽樹も車にリュックを積んでいるが、入っているのはタブレットPCとスマホに細々したガジェット類、そして財布と免許証くらいだ。あとコンタクトケース。 「瀬那すごい荷物だけど、日帰りだからな」 「エアー枕とブランケットが嵩張るんだよね」  長時間移動で首の後ろに置くエアー枕が、膨らませた状態でバッグから出てきた。ブランケットは多分冷え性の瀬那にとって必須アイテムなのだろう。まだ春先で寒いから。 「よし、じゃあ出発しますか」 「はーい!」

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